現実逃避始まる

 朝通常通り登校できないときは、7時50分から8時までの間に電話することになっています。

 ずらずらと休みがちになり、そのまま不登校になる子どもの場合、親御さんもこのルールを途中から放棄して、連絡しなくなることが多いそうです。

 3月までは出発前に次女の具合を聞き取り、行けそうか、行けなさそうか確認して、中学校に電話を入れてから出勤していました。その日の具合はどうだとか、行くとしたらいつ頃まで行きますだとか、そういうことです。

 学校側も、もし登校するとしたら、何時頃に出発して何時ごろつく予定なのかを把握しておきたいとのこと。これは、途中で事故や体調不良で動けなくなった場合、その予測が付かないため発見が遅れるのを恐れているからだと説明ありました。

 iPhoneではなく、iPod touchを与えていたので、wifiが切れると位置情報もわからなくなり、通信も出来なくなります。通学途中にフリーwifiの飛んでいる施設もありませんから、何かあっても連絡は取れません。そういうこともあって、まずは登校する前に連絡を、ということになったのです。

 私は仕事をしているので、どうしても何時に出発するかまで把握することが出来ません。職場には携帯電話持ち込み禁止なので、最初は夫が次女からラインを貰い、学校に電話するようにしていました。しかし、毎日のことなのでこれは大変です。仕事の合間を縫って学校に電話しようにも、出来ない日もでてきます。そこで、次女が自分で学校に行くことを電話するよう、徐々に切り替えていきました。

 当初は遅くとも3時間目くらいまでには登校できていたのが、どんどんどんどん遅くなり、4月にはほぼ行けない状態になっていきます。私も、次女が目を覚ます前に出勤、通勤途中に車内でハンズフリーで学校に連絡するようになりました。学校へ行く意思はあるけれど、行けないんですということを、逐一伝えます。

 学校への連絡は、介護休暇になった今でも毎日欠かさず続けています。


 ところで、学校に行かないということは、自分だけの時間がどんどん増えていくということです。

 中学生になり、iPod touchを入手したことで、次女はネットでの交流も徐々に始めたようでした。

 大好きなアニメのLINEグループに参加してみたり、ネットゲームをしてみたりと、知らないところで色々とやっていたようです。

 特に、本人が眠れなくて起きている深夜、同じように眠らずにゲームや会話をしてくれる人というのは、ある程度存在するものでした。深夜までのLINEやゲームが徐々に入眠時間をずらしているのではと言う疑念が、家族に湧き始めました。

 次女とロフトベッドを並べて寝ている長女が、

「あいつ、夜中までiPodいじってる」

 と話し始めました。

 可愛い妹をずっと擁護し、支えてくれていた長女も、だんだん我慢ならなくなってきたようでした。

 長女にとっては初めての高校生活、初めての電車通学。急に増えた勉強量と、部活の両立について、色々と悩み始めた時期です。疲れ切り、眠くて眠くて仕方がないのに、隣でブルーライトをガンガン照らさせれたのでは気が気でありません。枕元には3DSもありました。

「あれじゃ眠れないよ!」

 そういう声もあって、2017年2月の末に夜寝る前に定位置にゲーム等戻すようにというメディアスタンドを夫が作ったのですが、これもだんだん使われないようになり、最早ただの物置と化してきていました。

 早く寝ろというのは簡単だし、戻して置いてねと言うのも簡単。

 けれど、それを実際やらせて管理するとなると、かなりの負担です。


 親が知らないうちに、子どもはどんどん自由に羽を伸ばし、親の知らない世界にどんどん首を突っ込んでいきます。

 大人と違って、怖いという気持ちは更々ないのです。慎重になんて、できっこないのです。

 みんなもやってるし自分もやろうだとか、楽しいからもっと深くだとか、そういう気持ちしかないわけなのです。


 私自身、好奇心から様々手を出してきましたが、流石に子どもには敵いません。

 この頃にはもう、自分をさらけ出して悩みを打ち明けることの出来るネット友達を作っていたのだとは、到底わかりようがありませんでした。  

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