とある死神の話

 あの日、俺はすべてを失った。生きる目的も、価値も、仲間も、記憶も、そして…大切なたった一人の家族であった妹さえも

 

 俺の名前は○○。俺はすべてを失った後、自殺して死神となった。死神となった俺は、毎日人々に死の宣告をしに行く。こうして宣告していれば、いつか妹に会えるのではないか、妹は本当は生きているのではないか…とバカな希望を持ちながら。

 

 

 ある日、俺の働いている課に新人がやって来た。見るものを魅了する金髪の髪に、ブルーの目、そしてお人形のように美しい少女だった。聞けば、一年程前までは、酷い記憶喪失で、言葉すら忘れていたらしい。そのため、課長がずっと面倒を見てきて、最近仕事ができるまでになったのでうちに雇ったそうだ。

「え〜と、教育係は…○○君!君に決めた!じゃ、後は頼んだわよ!」

「ちぇ、俺か…おい新人、先輩の話をよく聞け!研修中は勝手な行動すんなよ!」

「はい、承知いたしました。今日から宜しくお願いいたします。」

(たく…あの女どんな教育したんだ…やりづらい)

 

 彼女(○○)は、本当に人形のように喋らなかった。ただ言われるがままに静かに俺の後ろをついてきた。気味が悪いかった。だが…何故かこの感覚が懐かしくて、嬉しかった。

 それから三ヶ月後、研修を終えた彼女は、一人で仕事を任せられるようになって、俺の後ろから離れて行った。



 最近、彼女が感情と言うものを表現できるようになったと噂で聞いた。仕事も正確に出来るようになって、今では課で一番の死神となっている。そんなある日、俺達は久しぶりに共に仕事をすることになった。行き先は、戦場だ。

 

 現場にたどり着いた二人を待っていたのは、殺伐とした血の臭いの漂う戦場だった。宣告の余地なんてないほどに人々の心に隙間はなく、話したら話したらで、逆にパニックを起こして予定より早く死んでしまう。それは、死神には致命的だ。だから、戦場での俺達の仕事は魂の回収だ。ただ淡々と作業をこなしていく、それしか俺らにはできない。これは生きる者たちの問題…そう割り振るしかない。

 作業を終えた俺達は、夕飯を食って帰ることにした。

「なあ、○○、お前あの頃から随分変わったな」

「はい、いろいろな人と話し、共感していくうちに、感情というものを表現できるようになりました。」

「ふっ…悪い、お前は相変わらず硬いな。もっと柔らかく喋ってみろ」

「柔らかく…?柔らかくとはどのような喋りでしょうか?」

「うん…そうだな…例えば、俺のことをあだ名で呼んだりとか?」

「それは無礼なのではないでしょうか?上の者には敬意を払うようにと、Ms.○○から教わりました。」

「ふっ、あの女が、まあ今はあいつのことはいいか…それより、俺はそういうのは気にしないぜ。てか、俺…なぜかわからないけど、お前を見ていると妹を思いだすんだ…。記憶もないのにおかしよな!悪い」

「いいえ、いいのではないでしょうか。妹さん………懐かしい感じがします」

「?」

「いえ、それより早く食べて帰りましょう。事務所でみなさんが待っています。」

 

 その笑顔を見て、何かを思い出した気がした。でも、もういい…あの頃がなくたって、今近くにいられるなら、それでいいんだ。


「ああ、そうだな…あの場所に帰ろう○○」



 




                 ‹END›

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