約束

少女と子犬は穂の国畑をかける。いつまでもこの時間が続いてほしいと願いながら…


 僕は夢を見る。穂の国畑の中心の、大きな大木の上で、少女が子犬に何かを語りかけている夢を。でも、その声が子犬に届くことはなく、子犬は少女の声を聞こうと、必死に木を登ろうとする。でも、登ろうと、もがく程に少女はどんどん離れていってしまう。そして、…。     

 犬が毎日見る夢の少女は、目を覚ましたらどこにも存在しない。ただ、その少女とは別の少女が名前を呼ぶ。

「○○、ご飯だよ。じゃあ、私行って来るね。」

彼女(○○)は、そう言うと、慌ててどっかに行ってしまう。そして日が暮れるまで帰ってこない。その間、僕はボールで遊んだり、寝たりして過ごす。そしてふと思う

(最近、あの子、散歩に連れていってくれないな〜)

 そんなある日の夜、いつものように寝ていると視線を感じた。目を開けると、顔の近くで大人びた容姿の少女が「貴方はこの世界が好きですか?貴方はこの世界が好きですか…」とブツブツ言っていた。僕は急いで立ち上がって、威嚇の体勢に入る。少女はニコッと月下に笑う。そして犬小屋の上にふわっと、腰を下ろすと

「貴方、明日死ぬよ。だから、明日私とまた会うときに、『貴方はこの世界が好きですか』って言う質問に答えてね。じゃ、バイバイ!」

その少女は突然現れて、勝手に話して、勝手に帰って行ってしまった。僕は突然の事に呆然としながらも、何処かで嗅いだ事あるその匂いに、懐かしさを感じた。

 次の朝、彼女(○○)は休日のようで、僕を久しぶりに散歩に連れて行ってくれた。アスファルトや土の臭い、そこら辺に漂う食べ物やショップの匂い。心がウキウキして尻尾が激しく揺れる。それを見て、彼女も笑う。楽しかった。でも、その時は、突然やって来てしまった。横断歩道を渡っていると、一台の自動車が物凄いスピードで突っ込んできた。僕は彼女を守る為、彼女の背中に思いっきり体当りした。すべてがスローモーションに見えた。あぁ、これが死の瞬間か…と思った。

キキッ…ドン

「○○!!!ねぇ○○!反応してよ。どうしょう…どうすればいいの…病院連れて行かなきゃ…でも、でも…」

彼女が僕を抱きながら泣く。僕は彼女の頬をひと舐めする。彼女はそれまでより強く僕を抱きしめて、僕の名を何度も何度も呼んだ。でも僕は、彼女の願いとは反対にどんどん意識が遠くなる………。


 少女と子犬は、穂の国畑をかける。自由と幸福を感じて、いつまでもこの時間が続いてほしいと願いながら。僕達は中心にたつ大木を目指してかけていった。そして中心の大木に着くと、少女は木に登って風を感じはじめ、僕はそれを下から眺めていた。

何分経ったんだろう…少女が突然僕に語りかける。

「○○…私、あと何日持つかわからないんだって……私の病気、もう治らないんだって。………だから、だからね。あの子のことを守ってあげて。多分、まだ小さいし、そんなに遊んであげれなかったから、お姉ちゃんの事なんて忘れてしまっちゃうんだろうけど、それでも、お姉ちゃんの分も幸せになって欲しいの……だから

、だからね。○○、あとはお願いね。」

夢の中の少女、否、記憶の中のあの子が、僕にそうお願いした。

 あの頃の僕には分からなかったけど、○○、僕、約束果たせたよ…。

 

 真っ白な部屋で、誰かが僕の頭をなでる。懐かしいぬくもりとなで方。ずっと夢の中で会っていたのに、忘れてしまった大切な人のぬくもり…。僕はそっと目を開ける。そこには、死神となり、少し大人びたが、確かに心はあの頃と変わらないあの子がいた。少女は僕の顔を見ると、ニコッと微笑んだ。それに僕も答える。


 そして一人と一匹は、天へとのびる階段を登って行く

"もう二度と、この祝福から離れたくない。"と思いながら…

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