第61話 混浴ケルベルス温泉
形が良くそこそこ大きめの胸も、綺麗に整えられたアンダーヘアも、雫は隠そうとすらせず堂々と温泉に入る。
細身ながら出るとこは出てて、脚はすらっと長い。見られても恥ずかしくない身体と言われても頷けるスタイルである。
「ほー……見られ慣れてんだなー」
拳凰は拳凰で、鼻の下伸ばしながら堂々とガン見である。
「お父さんが温泉好きでね、よく一緒に日本中の温泉を巡ってるの。山奥とか田舎の秘湯なんかだと混浴も多くて、見るのも見られるのもすっかり慣れきっちゃった。今じゃ混浴と男女分かれてるの両方あるとこでも、積極的に混浴入りたくなるくらい」
「へー、混浴好きなのか」
「性別問わずに裸の付き合いできるのって素敵じゃない。私、みんなで一緒に入るお風呂凄く好きなの。家でも両親と弟と、いつも四人で入ってるくらい」
「とか言って本当は見られるのが好きなんじゃねーの?」
そう言われると、雫は少しむっとする。
「たまにされるんだよねー、そういう誤解。お風呂は裸で入るのが自然なんだから気にならないの。私だってお風呂以外で裸見られるのはヤだし」
雫は拳凰の目を見て、顔を指差す。
「それに、気にしないといってもそうやってまじまじと見るのはマナー違反だから。ルールとマナーを守って楽しく入浴しましょう!」
「へーい」
拳凰は言われて渋々と目を逸らした。
「ハンバーグさんは、ビフテキさんのお弟子さんなんですよね。ビフテキさんからよく話を聞いています」
言われる前から目を瞑っていたハンバーグに、雫が話しかける。
「まあ、大体そんなもんだ。この温泉のことはビフテキから聞いたのか?」
「はい。私が妖精界の温泉のことを聞いたら教えてくれました。殆ど知られていない幻の秘湯と聞いて凄くワクワクしました!」
「ここは魔法少女向けの修行コースからも外れてて、来る奴なんて滅多にいないからな。まさか温泉目当てにこんな辺鄙なとこまで来る奴がいるとは恐れ入ったぜ。で、どうだ、入ってみた感想は」
「はい、最高です! これって人間界には無い成分とか入ってるんですか?」
「ああ、この山に満ちた天然魔力が温泉に染み出してんだ。色々と効能あるんだぜ」
「へぇー……」
雫は脚を伸ばし、温泉を堪能。拳凰はその隙に雫の体をまじまじと見るが、既に空が暗くなりつつあるため、あまりはっきりとは見えない。
「おい最強寺、完全に暗くなる前に上がるぞ。そっちのお前はこれからどうするつもりなんだ? 暗くなってから迷わず帰る手段はあるのか?」
「はい、ビフテキさんが迎えに来てくれることになっているので」
「それなら大丈夫だろう。ほら最強寺、いつまでも女の裸見てねえで上がるぞ」
「わーったよ」
二人は温泉から出て、鞄から取り出したタオルで体を拭く。拳凰が着てきた胴着は激しい修行ですっかり擦り切れ穴が開いていたため、新しい胴着を取り出して着た。
「そんじゃあな、混浴女」
拳凰は雫に手を振り、ハンバーグの後に付いて行った。
一人残った雫は一度湯から出て縁に腰掛け、足だけ湯につけて空を見上げる。
(はー、山奥の空って綺麗。だんだん星も出てきたし、いつまでもここにいたい気分)
そうしていると、ふと薄闇の中からこちらに歩いてくる影が見えた。雫は腰掛けたまま、その少女に声をかける。
「こんばんは。あなたも一緒に温泉入る?」
寿々菜の待つ場所に戻ってくると、そこには立派なテントが建っていた。
「あ、師匠。テントの準備できました」
魔法少女に変身した寿々菜が言う。変身してやればこういった作業の能率も大きく上がるのである。
「悪いな寿々菜、お前が泊まるわけでもねえのに」
「ん、何だ、こいつはここに泊まってかないのか?」
「ああ、明日の朝には本戦の内容が発表されるからな。ホテルにいた方がいいんだ。それより穂村はどうした? 寿々菜、見てないのか」
「はい、一体どうしたんでしょうか……」
「あいつはあれで結構しっかりしてるからな。大丈夫だろ」
拳凰は気楽に考えており、そんなことを言いながらテントの中を見る。
「おっ、なかなかいいじゃねーか。寝心地よさそうだな」
とりあえず仰向けに寝転がる。テントの中は意外と広い。
「あ、穂村君戻ってきましたよ」
寿々菜の声。拳凰はテントから出る。
「おう幸次郎、やっと戻ってきたか。どこ行ってたんだ?」
「あ、いえ、その……」
幸次郎の表情は優れない。結局恋々愛は見つからず、不安なまま戻ってきたのである。
「俺らはもう上がっちまったぞ。早く風呂入って来い」
ハンバーグは幸次郎に入浴を促す。
「残念だったな、俺らと一緒に入ってたらいいもん見られたのによ。今じゃもうあいつ帰っちまったんじゃねーのか」
拳凰はニヤニヤしながら幸次郎の肩に手を置いた。幸次郎は何のことだかわからない様子。
「あ、じゃあ僕も温泉に行ってきますね」
幸次郎は鞄から懐中電灯を取り出す。
「暗いから気をつけて行けよ」
「はい」
言われた通り、懐中電灯で辺りを照らしながら幸次郎は慎重に進んだ。
先程道を覚えていたため、迷うことなくすんなりと温泉には着いた。雫は少し前に迎えが来たため、もうここにはいない。
幸次郎は懐中電灯を消すと、服を脱いで地面に置き、月明かりを頼りに温泉へと入った。
(はー……なんだか今日はどっと疲れた。修行よりも恋々愛さんのことで……)
この疲れを癒そうと、幸次郎は肩まで浸かる。
突然、正面の茂みからガサガサと音がした。幸次郎に緊張が走る。
この山は地獄の修行場という異名に反して凶暴な魔獣は生息していないとのことだが、武器も持たず裸のままでは弱い魔獣でも恐ろしい。
鼓動が速まる中、現れた人物――その姿を見て、幸次郎は目玉が飛び出そうになった。
それはまるで、月明かりに照らされる女神のようであった。素っ裸の恋々愛が、平然と現れこちらに来たのである。
「……幸次郎?」
幸次郎の存在に気付き、恋々愛は首をかしげながら声をかける。
「こっ、恋々愛さん!? な、な、なな何で!?」
幸次郎は慌てて目を逸らす。すると、幸次郎が服を置いた場所の丁度向こう岸に恋々愛の脱いだ服が置いてあるのが見えた。
「い、いつからいたの!?」
「幸次郎が来る前から……」
「な、何であんなとこから出てきたの!?」
「おしっこしてた……」
「そ、そうなんだ」
本人が丁度温泉から出ていて、脱いだ服の存在も離れた位置にあったために気付かず。果たしてこの鉢合わせは幸か不幸か。
とんでもなく扇情的な肉体を微塵も隠そうとせず、恋々愛は幸次郎に歩み寄る。
入浴に独自の哲学を持っていた雫と異なり、こちらは精神的幼稚故の羞恥心の欠如によるものか。大人顔負けの肉体と年齢以上に幼い精神が合わさって、彼女は無意識にひどく男を惑わす存在と化していた。ましてや相手が思春期真っ盛りの男子中学生。果たして一体どれほどの刺激か。
「幸次郎、お風呂一緒に入ろう」
素っ裸のままグイグイ来る恋々愛に、幸次郎は背中を向けて体を丸める。
「ひいぃぃぃ、ま、待って!」
「幸次郎鼻血出てる。大丈夫?」
恋々愛は幸次郎の顔を覗き込む。大きな胸が幸次郎の肩に当たった。
「ひあっ!?」
「あえ、幸次郎、おちんちんが……」
「み、見ないでえぇぇぇぇぇ」
それはあまりにも情けない悲鳴だった。
少しして、拳凰達の待つテントに幸次郎が戻ってきた。
「おう、早かったな幸次郎」
拳凰が声をかけるも、幸次郎は無視して通り過ぎる。
目は虚ろで口をぽかんと開け、精神がどこかへ飛んでいったかのように呆けた状態であった。
「おーい、どうした幸次郎」
幸次郎の眼前で手を振ってみるも、反応が無い。
「おい幸次郎!」
背中を平手で叩かれて、ようやく幸次郎は我に返った。
「さ、最強寺さん!? ぼ、僕、見ちゃったんです! 裸!」
「は? 何だあの混浴女、まだ入ってたのか」
「全部見ちゃったんです。おっぱいとか、下の方とか……あああああ」
「おい、落ち着け幸次郎」
思い出して目を回し始める幸次郎を、拳凰は若干引きつつ宥める。
「よし、穂村も戻ってきたことだし、俺と寿々菜はこれで王都に戻るわ」
幸次郎の様子をあまり気にしていない風にハンバーグが言う。
「何だ、お前もここに泊まってかないのかよ」
「騎士様は忙しいんだ。こんな山奥で寝てられるか。そんじゃあな」
そう言ってハンバーグは、寿々菜を連れてワープゲートの設置された森の奥へと姿を消した。
一方その頃、恋々愛の下にも担当騎士の迎えが来ていた。
「こんな所にいたのね恋々愛」
切り株に腰掛けぼーっと夜空を眺める恋々愛の前に降り立つ、
「あ、ミルフィーユ」
「一人でこんな所まで来て……心配したのよ」
「ごめんなさい……私、もっと強くなりたかったから……」
「いい志ね。あなたが頑張ってくれて私も嬉しいわ。さあ、戻りましょう」
ミルフィーユは笑顔で恋々愛の手をとる。
「ねえ、聞いてミルフィーユ」
恋々愛は仄かに頬を赤らめながら、ミルフィーユの顔を見た。
「私、好きな人ができたの……」
ミルフィーユの笑顔が石のように凍りついた。
王都に戻ったハンバーグは寿々菜をホテルに送り届けた後、王宮へと足を運んだ。
「ムニエル様!」
王宮内を一人で散歩するムニエルに、ハンバーグが声をかける。
「ハンバーグ、わざわざ来てくれたのか」
「はい、今日は楽しんでこられましたか」
ムニエルの前に跪き、ハンバーグは拳凰達と接している時とは別人のような口調で尋ねる。
「うむ、とても楽しかったぞ。久々に充実した休日を遅れた気分じゃ」
「それはよかったです。最近は公務中も機嫌が優れないように見えましたので、心配しておりました」
「そうか、すまぬな、心配をかけさせてしまって。今日楽しんだ分、明日からは気持ちを切り替えてまた仕事に励まねばな」
「ムニエル様……」
その気丈な姿に、ハンバーグは胸が苦しくなった。
ケルベルス山に残った拳凰と幸次郎は、テントの中で二人並んで横になる。
「はー、人間界で山篭りした時は真冬に野晒しで寝てたからな。テントがあるってのはいいもんだぜ」
拳凰はそう言って幸次郎の顔を見るが、幸次郎は上の空。普段の幸次郎だったら「それでよく生きてられましたね」などと冷静に突っ込んできそうなものだが。
「おーい、どうした幸次郎」
「どうしましょう最強寺さん、僕、おっぱいのことが頭から離れないんです」
「お、おう」
突然そんなことを言われたので、拳凰は真顔になった。
「まあ……とりあえず一発抜いてきたらいいんじゃね?」
拳凰はテントの出入り口を親指で指し、外に行くことを促した。
一方その頃ホテルにて、拳凰の部屋の前に来た花梨は、拳凰が帰っていないことに落胆しながら自分の部屋に戻った。
(ケン兄、今日は帰らないのかな。せっかく妖精界の服着てるとこ見せてあげようと思ってたのに)
そして、翌日。九時半より本戦のルールについての放送が行われる。
魔法少女全員のスマートフォンに通信が入り、
『魔法少女の皆様、おはようございます。妖精騎士団のザルソバです。明日より始まる魔法少女バトル本戦、そのルールについて、これより解説を行いたいと思います』
いよいよこの時が来た。このことをすっかり忘れて寝ていた智恵理は、スマートフォンから流れた音声を聞いて慌てて飛び起きる。
『魔法少女バトル本戦は、チーム戦となります。チームは四人一組。参加者同士なら誰とでも自由に組んで頂いて構いません。四人集まったらアプリ内で登録を行ってください。締め切りは本日十八時。それまでに登録が行われなかった方は、同じく登録されなかった方同士、こちらでチームを組ませて頂きます。なお、該当する方が複数チーム分いらっしゃった場合、組み合わせは抽選となります』
湯乃花雫は、自室の風呂に入りながらスマートフォンの画面を見ていた。
(へぇー、チーム戦かぁ。あっそうだ、昨日ケルベルス温泉で会ったあの子をチームに誘ってみようかな)
早速組む相手に目星を付けた雫は、事を急げとばかりに風呂から上がった。
<キャラクター紹介>
名前:
性別:女
学年:中二
身長:162
3サイズ:83-61-86(Cカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):赤+青メッシュ
星座:天秤座
衣装:ウェイトレス風
武器:刀
魔法:斬った物の魔力を打ち消す
趣味:サッカー
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