第62話 チーム結成

(やはり小鳥遊さんの予想通りだったみたいね……)

 自室で一人放送を見る梓は、昨日の麗羅の発言を思い出していた。


『今回の本戦は、四人一組のチーム戦だと私は予想してるの。前回大会では本戦出場者六十名で三人一組のチーム戦だった。でも今回は三で割り切れない六十四名。最終予選でも前回はいなかったハンターが追加されたことを考えると、本戦も前回とは少しルールが違ってる可能性が高い。だから私は今回、四人一組だと予想してるのよ』


 その予想は見事的中であった。

 放送が終わった後、梓は早速智恵理を誘って麗羅の部屋へと向かった。先日シリウス邸にて、麗羅の部屋で待ち合わせする約束をしていたのである。

「来たわね、二人とも」

 部屋に入ると、麗羅が椅子に腰掛けて待っていた。

「凄いじゃん! ホントに四人でのチーム戦になった!」

「ふふっ、まあね」

 智恵理から褒められて、麗羅は自慢げ。

「でもどうしてこれまで個人戦でやってきて、ここでいきなりチーム戦なんだろ? 決勝トーナメントではチーム解散して、結局また敵同士に戻るんでしょ?」

「それは魔法少女バトルがエンターテイメントだからよ。これはオリンピックのように純粋に実力だけを競い合うものじゃない。観客が観て面白いものをという考えでチーム戦が行われるの」

「テレビ放送で見世物にされているのは知っていたけど、こうもそっち重視とはね」

 梓は初めて変身した時にホーレンソーからやたらと「可愛さが大事」と言われたことを思い出した。

「優勝候補の実力者が仲間に恵まれず脱落したり、逆に弱い魔法少女が強い仲間のお陰で決勝トーナメントに行けたり、そういうのも本戦の醍醐味だって、ジンギスカンさんが言ってた」

 弱い魔法少女が、と言われたところで、智恵理がドキリとした。

「でもこのチームなら安心ね。前回大会を知る私と、ハンターを倒した二人なら絶対に決勝トーナメントまで行ける」

「そ、そうだね……」

 智恵理は苦笑い。実は自分は弱いのだとは今更言えない空気だ。

「でも、今回は四人なんでしょう? あと一人はどうするの?」

「それならもう目星がついてる。私の知る限り最強の魔法少女を誘うつもり」

 最強、と聞いて智恵理は唾を飲んだ。


 麗羅は早速、智恵理と梓を連れてその魔法少女の部屋へと赴く。

「古竜恋々愛さん、貴方をチームに誘いにきました、小鳥遊麗羅です」

 麗羅が挨拶すると、恋々愛が扉を開けた。

「この人が最強の……うっ、確かに最強感ある」

 出くわして早々、智恵理は恋々愛の身長と胸に気圧される。

「あら、残念でしたわね」

 恋々愛の後ろから、別の声が聞こえた。

 お嬢様口調で、ドリルのような金髪ツイン縦ロールの髪型の少女。二次予選で花梨と対戦した黄金珠子である。

 そして更に二人。短すぎるスカートで普通に立っていても下着が見えている羽間ミチルと、ケルベルス温泉で会ったことをきっかけに恋々愛を誘いに来た湯乃花雫。既に四人の魔法少女が、この部屋に揃っていたのだ。

「既に彼女はわたくし達と組んでますの。お帰り頂きましょうかしら」

 珠子は上から目線で麗羅達を追い返す。締め出され渋々扉を閉めた麗羅は肩を落とした。

「……来るのが遅かったみたいね」

「で、どうすんの? 他に当ては?」

「うーん……私に勝ったなんて彼女しかいないし……」

「だったら、私に一人当てがあるわ」

 悩む麗羅に、梓が言った。


 三人はとある魔法少女の部屋の前へと移動。とりあえずはその少女と対戦したことのある梓一人が部屋に入り、智恵理と麗羅は外で待機となった。

「雨戸朝香さんよね。私のこと、覚えているかしら」

 梓が誘おうとしている相手は、特殊なシステムを付けられ暴走の危険を持つ魔法少女、雨戸朝香であった。恋々愛を誘った麗羅と同様、自分に勝った相手を誘えば実力は保証されているという算段である。だが梓には、それとはまた別の思惑もあった。

「最終予選で当たった人……ですよね」

「ええ、覚えていてくれてよかったわ」

 朝香はぬいぐるみを抱いて一人、ベッドに腰掛け縮こまっている。どことなく怯えた様子だ。梓はあまり怖がらせないよう、優しい口調を心がける。

「え、えっと……ふえぇ……」

 何故か朝香が泣きそうになり、梓は焦った。

「あ、ま、待って。別に負けたから恨んでるとかそういうのじゃないの。私との試合の時のこと、覚えているかしら。どうやって試合に勝ったのか、とか」

 梓は早速本題に切り込む。

「その……全然覚えてなくて……目が覚めたらいつの間にか勝ってたみたいな……カクテルが言うには、私はピンチになると凄くパワーアップするそうなんです。でもその時の記憶が無くて」

(あの状態でのことは記憶に残らない……というより、眠っているか気絶しているような状態、もしくは一種の別人格なのかしら)

 朝香の覚醒状態が如何なるものか、考えを巡らせる。

(そして、彼女の担当であるカクテル……やはりそいつが黒幕の可能性は高そうね)

 ホーレンソーが「危険な男」と言っていた人物。彼に対する懐疑心は高まっていた。

「私が勝った時、どんな感じだったんですか?」

「パワーアップした貴方に完敗だったわ」

 朝香の尋ねに、梓はあくまで詳しくは説明しない。

「ところで、私との試合以外でその状態になったことはあるの?」

 朝香は首を横に振る。

「ううん、お姉さんとの試合だけ」

 そう聞いて一先ずは安心である。

「そう。それで朝香ちゃん、実は私は、貴方をチームに誘いに来たのよ。貴方の強さは、実際に戦った私が一番よくわかってる」

「私をチームに?」

「ええ。他のチームメイトも紹介するわ。智恵理、小鳥遊さん、入ってきて」

 梓の合図を受けて、二人は扉を開ける。

「どうもー、梓の幼馴染の、鈴村智恵理です。そしてこっちは……」

「麗子ちゃん!?」

 智恵理が麗羅を紹介するより先に、朝香が立ち上がり声を上げた。

「えっ、な、何で? 本物!?」

 思いもよらぬ人物が突然部屋に入ってきたことで、先程までテンションの低かった朝香は別人のようにうろたえ出す。

「こんにちは朝香ちゃん。高橋麗子です」

 麗羅は挨拶と同時に、軽くポーズをとってウインク。すると朝香は、まるで心臓を打ち抜かれたように固まった。

「わっわっ私大ファンです! このチーム入ります!!」

 握手を求めた朝香に、麗羅は快く応じる。

「流石アイドル……出てきただけで勧誘を成功させるとは……」

 麗羅が出てきただけであまりにもあっさりと乗ってくれたので、智恵理は苦笑いしていた。

 憧れのアイドルと会って話すことができ、あまつさえ名前を呼んでもらえた朝香の幸せに満ちた笑顔。梓にとっては、初めて見た朝香の笑顔であった。

 あの凶暴な姿に豹変する魔法少女の素顔がどんなものか不安だったが、この屈託の無い笑顔を見れば、何てことのないごく普通の女の子だとわかる。だからこそ、彼女にあんなシステムを付けた人物が尚更に許せなく感じた。

「朝香ちゃんの参加も決まったことだし、早速チームの登録をしましょうか」

 四人は揃ってスマートフォンを取り出し、魔法少女バトルアプリを立ち上げる。自動的に通信が成され、四人の名前がそれぞれの画面に表示された。その下には、チーム名の入力フォームがある。

「チーム名はどうしよう?」

「ヴァンパイアロード……私、ヴァンパイアロードがいい」

 朝香の提案。智恵理と梓が先日、シリウス邸で生歌を聴いた曲の名である。

「オッケー、それで行こっか。梓さんと智恵理さんもいいよね」

「ええ、構わないわ」

「あたしもそれでいいよ」

 全員の了解を得て、麗羅が代表してチーム名を入力。全員の画面に「チーム登録が完了しました」というメッセージが表示された。

「これでチーム結成……明日からこのメンバーで本戦を戦うのね」

 梓は三人の顔を見る。自信に満ちた表情の麗羅、憧れの人の隣でまだドキドキしている朝香、そして強張っている智恵理。

「智恵理、どうかしたの?」

「う、ううん、何でもない。ちょっと緊張しただけ」

 智恵理は笑顔で誤魔化す。

(さて、あとはどうやったらあたしが足を引っ張らずに済むかが問題か……)

 それが智恵理が内心考えていることであった。

 前回大会のステータスを引き継いでいる麗羅、実際に対戦してその強さを体感した梓、そしてその梓を倒した朝香。この面子の中で、自分一人だけ大きく実力が劣るのは明白だった。



 一方その頃、寿々菜もまたホテルのロビーである魔法少女から勧誘を受けていた。

「美空寿々菜。妖精騎士の弟子にして、天才空手少女。俺のチームに加えるには絶好の逸材だ」

 寿々菜に声をかけるのは、ぼさぼさの黒髪セミショートで、睨んでいるような切れ長のつり目、黒のタンクトップにだぼっとしたズボンといったボーイッシュな服装の少女。

「俺は真田玲。中国拳法をやっている。お前も格闘少女チームのメンバーにならないか?」

「格闘少女チーム……ですか?」

「ああ、残りの二人は相撲とプロレスの使い手だ。今は地下のスポーツセンターでそれぞれ稽古をしている。お前も一緒に来い」

 半ば強引に手を引かれ、慌てふためく寿々菜を玲はスポーツセンターへと連れて行く。

 スポーツセンターで玲が立ち止まったのは、一人の少女が相撲の稽古をする土俵の前だった。

「彼女が水橋香澄。相撲の全国チャンピオンでもある小学五年生だ」

 玲の存在に気付いて、香澄は変身を解く。すると同時に土俵も消えた。変身を解いても香澄の服装はあまり変わっておらず、上半身がさらしからTシャツになりヘアゴムに付いた蠍座のブローチが消えた程度。下半身はコスチュームと殆ど変わらない、黒スパッツの上から白いまわしという稽古姿である。

 こちらに歩いてきた香澄は、寿々菜の顔を見る。

「こ、こんにちは、美空寿々菜です」

 じっと無言で見つめられて、寿々菜はきょとんとしながら挨拶した。

「こいつは口数の少ない奴なんだ。もう一人は向こうにいる」

 玲に案内されて行った先には、プロレスのリングがあった。そこでは一人の魔法少女が、木偶人形相手に空中で必殺技を掛ける練習をしていた。

 格闘少女チームの三人目、プロレス使いの魔法少女。それは最終予選で香澄と行動を共にした金剛峰寺磨里凛――ではなかった。

 髪はど派手なピンクの外はねボブで、大きなオレンジのリボンをカチューシャのように結んでいる。背丈はやや高めで、巨乳巨尻のグラマー体型。コスチュームもそれを強調するかのような、露出度の高い星条旗ビキニ。足には茶色い皮のブーツを履いており、右のブーツの側面に牡牛座のブローチ。全体的にアメリカンな雰囲気を漂わせているが、顔も実際に日本人の顔立ちではない。

 空中で関節を固められたままマットに叩きつけられた木偶人形は、粉々に砕け散る。彼女は玲の存在に気付き、こちらを向いた。

「イエース玲! そのメガネガールが四人目のチームメイトデスかー? ミーはレベッカ・シューティングスター。日本在住のアメリカ人デース。ベッキーって呼んでくれてオッケーデス」

 腰に手を当てて立ち、レベッカは片言で自己紹介。ここでは普通に英語を喋れば自動翻訳魔法で流暢な日本語に変換されるのだが、彼女はそれを知らずに片言の日本語で話しているのである。

 魔法少女バトルの参加条件は、開催国在住の十歳から十五歳の女子であること。前回のドイツ大会で日本人の麗羅が参加していたように、国籍は日本でなくても参加できるのである。

「こいつは凄いんだぜ。もう一人プロレス使いの魔法少女がいたんだが、そいつを全く寄せ付けずに圧勝したんだからな」



 最終予選での一幕。行動を共にしていた香澄と磨里凛は、偶然レベッカと出くわした。

「へー、あんたもプロレスを使うのか。だったらあたいが相手だ。手を出すなよ香澄」

 プロレス技で敵の魔法少女を倒すレベッカを見た磨里凛はいてもたってもいられなくなり、レベッカに戦いを挑む。自らの魔法で作り出したリング。磨里凛自身はプロレス勝負にはおあつらえ向きだとしか考えていなかったが、この魔法の真価は相手の戦法を無視して自分の土俵に上げることにある。つまり元からプロレス使いのレベッカには全く意味の無いものであった。

 序盤は磨里凛が優勢であった。得意技を次々と炸裂させてゆき、レベッカのHPを順調に削ってゆく。

「オラオラ! そのエロい衣装、もっとエロくしてやるよ! ダイヤモンドデストロイ固め!」

 大層な名前が付いただけのただの恥ずかし固めを掛けて意気がる磨里凛。より辱めてやろうとばかりに、レベッカの股間を香澄に見せびらかすよう体の向きを動かす。

 だがその時、体を動かしている際の隙を突き、レベッカが技を外した。そしてそこからは一方的な試合運びだった。

 レベッカが磨里凛の巨体を担ぎ上げて空中にぶん投げ、自身もジャンプ。空中で磨里凛を捉えて関節を極めると、その体勢のまま更に空中を蹴ってジャンプ。何も無い空間を蹴っての二段ジャンプに香澄が口を開ける中、レベッカは高度を上げたところで一気に落下。関節を極めたままマットに叩きつける一撃がとどめとなった。

「ば、馬鹿な、このあたいがプロレスで負けた……」

 変身解除されバリアに包まれた磨里凛は、信じ難い事実に唖然としていた。

「やっぱりプロレスの花形は空中技デース!」

 レベッカはピースサインで勝利を喜ぶ。

「そこのフンドシガールもミーと勝負しマスかー? それにそっちのチャイナガールも」

「俺の存在もお見通しだったか」

 物陰から観戦していた玲が、姿を現す。

 香澄は四股を踏み、玲も構える。だが三人が揃って戦闘態勢に入りいざバトル開始というところで最終予選終了のアナウンスが入り、彼女達が実際に戦うことはなかった。

 そしてその縁で、彼女達は現在チームを組むことになったのである。


「寿々菜はジャパニーズカラテの使い手デスかー? 手からビーム出せたりできるんデスかー?」

「一体どこの空手ですか!? そ、それは空手を誤解してます! というか私やってるのは通信空手で、道場とかには行ってなくて……」

「ミーもプロレスは観る専デス」

「なんか噛み合っていない会話だな」

 レベッカと磨里凛の一戦は、意外にもレベッカがプロレスをする側としての経験が無かったことが決め手とも言える。磨里凛は経験者であるからこそ現実的なプロレス技から抜け出せず、魔法少女の身体能力を万全に活かせずにいた。一方でレベッカは、身体能力と魔法を存分に活かし物理法則を無視したオリジナルの必殺技を開発。やったことがないからこその想像力で、経験者を圧倒したのだ。

「ミーのプロレス、玲のカンフー、香澄のスモー、そして寿々菜のカラテが加われば、最強の格闘少女チーム結成デース! 寿々菜、是非チームに入ってくだサーイ!」

 レベッカからの熱烈な勧誘。寿々菜の返事は。

「はい、是非入らせて頂きます」

 最初は戸惑った寿々菜であったが、元々自分から他の参加者に声をかけることができなかった身である。こうして積極的に誘ってもらえたのは嬉しかったのだ。



 強豪達が一人、また一人とチームを結成してゆく中、花梨は誰と組もうか部屋で一人悩んでいた。

(こんな時、唯がいたら一緒に組めたんだけどな……)

 アプリの魔法少女リストから一人一人情報を確認する時間が続く。

(そうだ、最終予選で協力してくれた子達に声をかけてみようかな)

 花梨はそう考え、早速部屋から出る。

 と、その時だった。扉を開けて外に出たところで、丁度廊下を走って横切っていた悠木小梅と鉢合わせた。どうにかぶつからず二人は立ち止まる。

「あっ……ご、ごめんなさい」

「うん、こっちこそごめんねー」

 小梅は快く返すも、どことなく涙目でしょんぼりした表情だ。

「あの、どうかされましたか?」

「あっ、君って確か、パンツ好きの変態と戦ってたナース服の」

 花梨が心配して尋ねるも、小梅は質問には答えない。

「あ、あの時はどうもありがとうございます。お陰で変態さんから逃げられました。貴方は大丈夫でしたか?」

「最終予選では大丈夫だったけど、その次の日街中でパンツ丸出しにさせられたよー」

「ああ……お気の毒に」

 さながら織江被害者の会である。

「あっそうだ、丁度よかった。君、あたしとチーム組んでよ」

「はい、それでしたら丁度私も組む相手を探してたんです」

 渡りに船はまさにこのこと。早速チームメイトを一人得られた。そして妹がいるならば、あの圧倒的に強い姉も同じチームと考えるのが自然のこと。

「私、あなたのお姉さんと最終予選で一度戦ってて……もしかして、お姉さんも一緒のチームなんですか?」

 そう尋ねると、小梅の表情が急に曇った。

「実は……さっき姉ちゃんから、チーム組むの断られちゃって」

 無理して笑った表情で、小梅は頭を掻きながら言った。



<キャラクター紹介>

名前:湯乃花ゆのはなしずく

性別:女

学年:中三

身長:158

3サイズ:84-57-88(Dカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):水色

星座:牡牛座

衣装:バスタオル

武器:無し

魔法:地面から温泉を噴出させる

趣味:温泉巡り

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