第5話 サキ
怒りに溢れた私の突撃はタックルから始まる
「おらーーーー」
隠れていた岩陰から一番近くにいたゴブリンへ勢いよくタックル
この最初のゴブリン(1号とでも呼んでおこう)はフギャーと言う情けない声を上げながら、女の私に吹き飛ばされる。
「奇襲成功!次っ!」
私は咄嗟に一号が持っていた棍棒?を拾い上げ、右手で構え次のゴブリン2号に標的を移しすかさずタックルを開始する
突然の事に混乱しているゴブリン達
当然ゴブリン2号も同じで、私のタックルをまともに受け気絶
私はタックルした衝撃でやや痛みを感じたが、そんなのはどうでも良かった
「はやく、サキを助けないと!次っ!」
私は次の標的であるゴブリン3号を目でロックオンする
流石に状況を理解したのか、ゴブリン3号は臨戦体制で棍棒を構えていた
だけど、そんなのは関係ない
頭に血が上った時の私は誰にも止められない
ただ突撃するのみである
いままでの人生もそうだった
”万丈”と言う珍しい名字の私は、小学校のクラスメイトに発音が似てるからと言う理由で"番長"と言うあだ名がつけられ、クラスでもその名が浸透していった
私はそんな可愛くないあだ名で呼ばれ、馬鹿にされた気分になり
そのあだ名を馬鹿にして使う子たちと喧嘩が絶えなかった
さすがに男子には勝てなかったが、そんな現実にムカついた自分は
親を説得し近所の道場に入門した
そこでメキメキと成長した私はいつしか私を馬鹿にする男子達にも勝てるようになっていた
だが、この私の負けず嫌いな性格が私にとって悲劇を呼んだ
中学生1年の2学期頃には私の事を校内で馬鹿にするものはいなくなって
最終的にこの地域で私に逆らったり馬鹿にする者はもういなくなっていた
私は清々しい気持ちになったのだが、同時にある事実が私に突き刺さってきた
そう、名実共に"番長"レベルになってしまっていたのである
他校や近所の方々からは地域を統べる女番長として有名になってしまい
いままで仲が良かった子達も親に付き合うなと言われ
少しずつ私に近づかなくなっていった
まぁ、馬鹿にされて生きていくよりは、いまの自分を突き通す方が良いと思い
私から離れていく子達にを特に引き留めもせず学園生活をしていた
私はこのまま孤独になっていくんだろうと確信していたのだが
一人だけ
そう一人だけ
小学校の頃から私と一緒に変わらずに友達を続けてくれる子がいた
それがサキだ
サキは人懐っこい性格で誰とでも打ち解け、仲良くなっていくのが上手だ
そんなサキのおかげで、中学2年になる頃には私に対する誤解も少しづつ解けていき
それからは楽しい学園生活を送る事が出来た
私にとってサキはかけがえのない人である
そのサキはいま目の前でゴブリンに運ばれている
サキを助けなければ!!
そう!私はこの瞬間サキを助けるために生まれたんだと思う!
「サキをか、え、せー!!」
私はゴブリン1号から奪った棍棒を野球のバットの様に構え
感情を込めたフルスイングをゴブリン3号目掛けて放つ
その瞬間、棍棒が一瞬白く光り
その光に反応して立ち止まったゴブリン3号に見事クリーンヒット
ゴ、ゴブッーーーーー
ゴブリン3号は奇妙な声を発しながら草原の彼方へと飛んで行った
周りのゴブリン達は驚いた表情で、そんな3号を目で追っていた
敵の注意が削がれた今なら、まだ奇襲を続けられる!
そう思い、次に近くにいたゴブリンを心の中で4号と名付け突撃を開始しようとした
でも・・・・
「なんで・・・」
力が入らない、むしろだんだんと抜けていく
心はゴブリン4号に対する憎しみで、今にも攻撃をしたいのだが
力が抜け、姿勢が崩れていった
「くそっ・・・」
何とか、倒れずに膝立ちで4号を睨みつけていると4号がにやにやした顔つきで私に近づいてくる
「コイツ、強力なスキルを使ってチカラを失ってやがるぞ」
それを聞いた、周囲のゴブリンから甲高い笑い声が発せられる
スキル?
なんだかゲームみたいな用語に疑問を抱きはするが
身体の姿勢を保つのが精いっぱいで、いまは細かい事は考えられない
「おい、みんな気を付けろ
それでもコイツ、倒れないぞ!
危険だから、大人しくさせるぞ!手伝え!」
そう4号が言うと、数人?数匹?のゴブリン達が私を取り囲み
何やら謎の言葉を発し始める
そして、私の意識はだんだんと遠のいていくのであった・・・
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