第6話 馬車
夕焼けに染まる草原を進む荷馬車の上で、私はここまでの経緯を思い出した
「本当に訳が分からない・・・」
あのゴブリン達に何されたのか・・・
気が付いたら、意識が遠くなっていた
目が覚め、記憶の整理をした今でも信じられない事だらけだった
そんな思考が乱れた私の心に、ただ一つ救いがあった
サキだ
目の前にサキがいる
サキが生きていてくれた!
なぜあの状況でサキと私が助かったのかは分からないが
サキが無事でいてくれてよかった
そんなサキを私は抱きしめたいのだが
なぜか私の腕は重りが付いた手錠のようなものがはめられていて
思うように動けない
サキはというと
私に付いている手錠のようなものもなく、特に目立った外傷もない
良かった・・・
あのゴブリン達はサキには何もしなかったようだ
私がそんなサキの状態を見て
安心し少し落ち着いたのを確認したのを察ししたのか
サキは私の近くに歩み寄り、ぎゅっと抱きしめてきた
「うん、なんともないよ!
あの緑の人達はいい人だから、ばんちょーも安心して」
緑の人達はいい人
サキがそう言った
私は一瞬サキが洗脳されたんじゃないかと疑うが
日常とは全然違う現象を短期間で見た私は
そんな事を考えたらきりがないと思い、考えるのをあきらめた
そして何よりサキを疑いたくなかった
そんなやり取りをサキとしていたら
ヒヒーンッっと、馬の鳴き声と共にドガッっという振動が発生した
「ねえちゃん達、ツイタゼ!」
荷馬車の先頭の方からそんな声が聞こえた
声の主はきっとゴブリンなのだろう
サキはその声の主に対し、ハーイと元気よく答えていたが
私はそんな気には慣れなかった
何しろ私は手錠で拘束されているのだ
そんな事をする相手にハーイなどと軽率に返事が出来るのだろうか・・・
サキは警戒心が薄いのだ
それはサキの良い所でもあり、悪い所でもある
私が守らなくちゃ・・・
そう決意していると、馬車の反対側
つまり馬車の先頭側から人影がこっちに向かってきていた
「ヨォウ、ねぇちゃん!目がばっちり覚めてるみたいじゃネェカ!
さっきはいい一撃をありがとうヨォ」
ゴブリンだった
やっぱりと言うか、想定通りで逆に安心した
これでゴブリンじゃなく普通の人間が出てきたら、私が手錠で繋がれている意味が理解できない
私はこのゴブリン達に奇襲をかけ、そして捕まった
シンプルにそういう事なのだろう
そしてこのゴブリンが"さっきのいい一撃"と言ったという事は
ゴブリン1・2・3号のどれかなのだろう
私は殺される・・・
そう確信した私は、私に触ってこようとするゴブリンに対し
身体を揺らして必死に抵抗する
そんな私の抵抗にこのゴブリンはやれやれと困った表情をしながら
再度、私の体に触れようとチャレンジしてくる
「ばんちょー!!早く降りてきなよー
家がいっぱいだよー」
馬車の入り口方向からサキの声が聞こえる
サキはいつでも元気だ
でもこんな状況なのになんでだろう?
私はふと疑問に思う
そういえば、私と違いサキは何の拘束もされていなかった
このゴブリン達はサキに何も危害を加えていないのだろう
サキの言う通り、こいつらは警戒する相手ではないのかもしれない
私はその事実に気が付き、ほっとすると共に悲しくなる
じゃあ、なんで私だけ拘束されているのだろう・・・
あぁ・・・暴れたからか・・・
そんな事を考えていたら、ゴブリンに対しての抵抗が緩んでしまい
腕を掴まれ、投げられ、床に叩きつけられ、マウントを取られていた
見事な背負い投げからの連携だった
このゴブリンは柔道経験者なのかもしれない
そもそもゲームの中でしか見た事ないゴブリンが背負い投げなんかどこで習うのだろう?
私は疑問に思うが考えても仕方がないと思い
考えるのをやめた
そしてマウントを取られて、しかも手錠を付けられてる現状でこれ以上抵抗しても意味ないと感じ
抵抗をするのをあきらめた
サキが無事でいるのならそれで良い
この先、私がどうなろうとサキが無事なのであれば・・・
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