第140話 特別編 ミゼットと『オリハルコンフィスト』
告知ということで少し早めに更新。
新米オッサン冒険者原作12巻、2023/6/19発売です!!
オリハルコンフィストメンバーの過去編です、書店で見かけましたら是非!!
ーー
イリスが息を引き取ったあと、ミゼットは「誰でも使える武器」の開発により精をだすようになる。
実際のところミゼット自身は圧倒的なまでの魔力的な素質があるため、それほど武器に頼る必要はなかったりする。だからそれは、母親とイリスを苦しめた魔力血統主義への怒りと反発という側面もあった。
そんなわけで、ミゼットは資金集めとついでに武器の性能テストをしながらクエストをこなすわけだったが、時代の千年先を行く武器を駆使して戦えばそんな危険な存在をギルドが放っておくわけがない。
いつの間にかミゼットはSランク冒険者に指定されていた。
「……まあ、メチャクチャ割のいい仕事も来るし、ええか」
そんなある日、ミゼットはあるクエストでしゃべるオークという変わった男に出会う。
「ブロストン・アッシュオークだ。お前の武器、なかなかに面白い思想に裏付けされているな」
そして驚くことにこのオークは、他人には絵空事だと思われてばかりだったミゼットの「誰でも使える兵器」の構想を、見事に自分なりに噛み砕いて意見を言ってみせた。
こいつ面白いな。
と『王国』に来てから初めて他人と話してそう思った。
そして思わずクエスト中の夜、焚火を囲みながら長々と話してしまった。
聞けば、ブロストンは伝説の隠しボスを倒す目的があるのだと言う。
さすがに無謀というか酔狂が過ぎないか?
とミゼットは言ったが。
「人から見れば無謀で酔狂な夢を形にするのはそれなりに楽しいものだぞ」
と言われ、そういえばイリスも「人から見れば無謀な酔狂な夢」を追っていたな、と思い出す。
イリスの言葉の一つ一つは今もミゼットの中に刻まれているが、特に心に刺さっている言葉があった。
『アンタは「勝ててしまう人」だから……きっと分からないと思う』。
界綴強化魔法の使用を止めようとしたミゼットに、イリスが言った言葉である。
確かにミゼットは生まれながらに持っている側だった。魔法でも頭脳でも他人と比べて圧倒的に優れていため、イリスのように負け続ける者の気持ちは分かっているようで分かっていないのだろう。
だから、自分もそういう『無謀で酔狂な夢』とやらを目指してみれば、少しはイリスの気持ちが分かるのだろうか?
ミゼットは麻袋からワインと二つのグラスを取り出す。
そして、ワインをグラスに注ぐと。
「……なあブロストン。その夢ワイにも一枚かませてくれや」
そう言ってワインの入ったグラスをブロストンに差し出した。
「そうか……歓迎する」
ブロストンは大きな手で器用にそのグラスを受け取る。
「大いなる夢に乾杯やな」
チンと、二人のグラスが当たる音が夜の森に響いたのだった。
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