第133話 普通なやつなりの
本日は新米オッサン冒険者最新11巻の発売日ということで、ちょっと早めに投稿です。
書店で見かけましたらよろしくしてやってください。
ーー
『エルフォニアグランプリ』本戦は、丁度真ん中の八週目で三名の先頭集団を形成した。
ダドリー・ライアット。
フレイア・ライザーベルト。
そして『完全女王』エリザベス・ハイエルフ。
優勝候補はこの三人に絞られた。
三名は二位集団以下を大きく突き放し、コースを駆けていく。
三人とも技術は間違いなく一流。
一周完走できるだけで上級者と言われる『エルフォニアグランプリ』のコース『ゴールデンロード』を難なく駆けていく。
ギリギリのコーナーワーク、目を見張る直線での加速、豪快なターン。
吹き上がる水しぶきと共に、観客たちはその技術と速さに声援をあげる。
これぞマジックボートレース。
エルフォニア国民たちの愛する水上最速の競技。
その世界の最前線を、今、三人は駆けている。
……だが、一流の中にも力の差はある。
最初に遅れ始めたのはベテランレーサー、ダドリーライアットだった。
□□□
(……くそ、マジではええよコイツら)
ダドリーはハンドルを操作しながら内心そんなことを思った。
少し前を行く二人の女。
彼女たちとの距離が少しずつ離れていく。
理由は色々ある。
フレイアはあの伝説の機体『ディアエーデルワイス』を乗りこなし、直線速度に圧倒的というレベルのアドバンテージがある。エリザベスに関しては『グレートブラット』という、ダドリーの機体の上位互換ともいうべき機体を使っている。
だが、それよりもなによりも単純な理由。
二人は自分よりも操縦技術が高いのである。
ダドリーの操縦技術も間違いなく一級品だ。それは間違いない。
しかし、それはあくまで普通に操縦技術を高めていった延長線上にある領域だ。
人は例外なく、自らが本気で信じこんだレベルまでしか強くなることができない。
だからダドリーは、その常識的な速さの中で速くなるしかない。
だが、フレイアとエリザベスは違う。
ダドリーのような真っ当な人間が想像した速さの限界値のさらに上、真っ当な人間ならば嘲笑するような常識を超えた速さを本気で目指して生きてきたのだと伝わってくる。
そして正気とは思えないほど全てをレースに捧げて、その常識破りを実現したのだろう。
だから、自分との差は明確だった。
「だけどよ……!! 普通な奴には普通なやつなりの意地ってのがあるんだよ!!」
ダドリーは『ありったけの常識的な技術』と『普通のレーサーとしての長年の経験』を総動員して、二人の化け物に食らいついていく。
それでも徐々に離されていく。
だが、足掻く。
それでも離されていく。
それでも足掻く。
しかし、それでも離されていく。
結局、ダドリーがまともに勝負と呼べる走りができたのは二周だけだった。
三周目に入るころには、もはや二人は遥か前方。
「……そりゃそうだわな。アイツらは、俺よりも遥かに濃密に全てを捧げて走ってきたんだからよ」
本当に簡単な話だ。
彼女たちのほうが自分よりも努力している。
負けた理由としてこんなに分かりやすいものはないだろう。
それでも。
「二周か……」
それだけだったが、そんなとんでもない連中に全力で挑むことができた。
そのことだけは本当に良かったと思う。
自分はよく分からない計略の一部などではなく、レーサーとして真っ向から戦うことができたのだから。
俺はダドリー・ライアット。マジックボートレーサーだ。
それだけは胸を張って言える。
このレースが終わったら、レースに負けた時だけは優しく愚痴を聞いてくれる妻に言うのだ。
アイツらは凄いレーサーだ。ほんとやってらんねえよ。と。
「ちくしょう、今度は六周くらいは粘りてえなあ」
いずれは彼女たちに勝ちたいと願うなら、次こそは勝つと思わなければならないだろうが、ダドリーは素直にそう思った。
そんな自分のどこまでの凡人なところに自然と苦笑が漏れるのだった。
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