第127話 本戦開始前
いよいよ『エルフォニアグランプリ』本戦開始の時間が迫ってきた。
天気はあいにくの曇りだったが、朝から多くの観客が詰めかけ会場は賑わっていた。
どうやら昨夜、ハイエルフ王家の管理する屋敷に襲撃があったらしいが、そのくらいのことでは中止にならず超満員御礼という辺りが『エルフォニアグランプリ』の国民の関心と注目度の高さを表している。
「……だからこそ、ここで皆に情報を発信できれば、この国は変えられる」
『シルヴィアワークス』のスタッフたちを見ながら、フレイアの父、モーガン・ライザーベルトはそう呟いた。
娘のフレイアの夢が『エルフォニアグランプリ』での優勝であるように、モーガン自身にもこの大会にかける目的がある。
それが国民議会のPRである。
国民が選挙で票を入れて代表を選出する議会を作ること。モーガンはそのためにこれまで動いてきた。
あとは三日後に選挙を行うだけ。
しかし、貴族たちの画策により投票率が80%までいかなければ選挙は無効、国民議会の設置もなかったことになるという状況である。
だが国民たちの選挙に対する関心は高いとは言えない。
長年続いた『魔力血統主義』によって、国民たちは政治はお偉いさんがやるものだという意識が根付いてしまっているからである。この意識を、この大会を通して変える。
自分や娘のような、生まれつき魔力的素質が低く他の種族と変わらぬ寿命しか持たないエルフたちにも、平等に自分の可能性を追求する権利はあるのだと。
(そのためにはフレイアに勝ってもらわなくてはならない。だが……)
モーガンはフレイアの方に目を向ける。
フレイアは予備の部品を入れた箱に座ったまま、愛機の『ディアエーデルワイス』を触っていた。
その表情は複雑なものだった。
少なくとも昨日よりは明るくなっている。リックとミゼットの友人だという男が現れ治療してくれたため、体の方の怪我と不調は全快とはいかないがほとんど回復している。
しかし。
「どうだフレイア。ボートの方は?」
「……」
フレイアは言葉にはせずに首を横に振った。
「そうか。まだ駄目か」
第一王子の策略によってかけられた『アンラの渦』という魔法。
それによって、フレイアの愛機は現在魔力の調整が効きにくくなっている。もしこのままレースをスタートしてもまともに戦うのは厳しいだろう。
リックたちが今動いてくれているみたいだが。
(間に合わなかったか……)
レースが始まるまで残り一時間を切った。
モーガンは娘に再度確認する。
「フレイア、いいのか? その状態の機体に乗るのは危険だぞ」
モーガンは国民議会設立という目的は大事ではあるが、それ以前に娘を愛する一人の父親だ。
できれば無理はせずに、今回は棄権して欲しいと言う思いもある。
「いくよ、アタシは」
しかし、愛娘は前に向かうと決意する。
「そうか……」
ならば止められないなと、モーガンは思う。
愛するということは鳥かごの中に飼い殺すことではない。本人の意思が赴くままに飛び立つことを、後押ししてあげることこそが本物の愛情だと思うから。
「なら、頑張ってくるんだよ」
「うん」
フレイアが少しぎこちない笑顔を作ってそう言った時。
「出場選手の皆さん。チェックを始めます」
大会に係員がフレイアを呼びに来た。
いよいよ、本戦が始まる。
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