第122話 実に面白い
第一王子の屋敷から移動したエドワード・ハイエルフがやってきたのはエルフォニア王家、第七分割王領に建てられた屋敷だった。
分割領とは、各貴族たちが治める土地の一部が王家所有の領地になっている場所のことを言う。主に王族の人間の王宮以外での別荘などとして使われることが多い。
そして何を隠そうこの第七分割領は、あのミゼット第二王子のために用意された場所であった。
第二王子が失踪して以来、エルフォニア王家が直接所持している状態だ。
ここには極秘のとある事情から、現在エルフォニア王家の王宮そのものと遜色ないほどの警備が常に敷かれている。
エドワードが逃げ込むにはベストな場所だった。特に警備が厳重になっているという極秘情報を知っているものがほとんどいないというところも、身を隠すのにいい条件だと言っていいだろう。
エドワード・ハイエルフは屋敷にある客間に入ると、座り心地の良さそうなソファーに深く腰掛ける。
「ええ、まったく。頭の悪い短命ザルに絡まれると厄介ですな」
その隣には相変わらず、ゴマすりに余念がない小太りのディーン伯爵。
エドワードは追われる身でありながら、しかし、余裕の表情だった。
「まあ、ああいう劣等種ほど生き汚くてしつこいからねえ。まあだが、金色五芒星全員で対処させたから終わりだろう。特にガーフィールドのやつはエルフォニア最強の戦士だ。まあ、万が一……いや数千億が一倒せたとしても、ここを探し当てて警備を突破し僕を倒すまでの力は残されていないだろうね」
ディーンは使用人に棚からワインを取り出させると、グラスに注いて自分の前に置かせた。
「僕は安心して優雅な夜を過ごすことにしよう」
□□□
カエサル・ガーフィールドは、待っていた中年の男の代わりに現れたアリスレートに眉を潜めた。
(……少女? なぜこんなところに?)
もしかして迷い込んだのだろうか?
外で金色五芒星が戦闘をしたのなら、防壁の一か所や二か所壊れていてもおかしくないはないはずだ。
そこから入り込んでしまった可能性もないわけではないが。
(それにしては……妙に堂に入ってるな)
迷い子のようなビクビクしている感じはない。
むしろ、百獣の王のような傍若無人さというか、この世界に自分に対抗できる敵はいないと思っているような、堂々とした雰囲気を感じさせる。
「……お前は、もしかして。あの人間や第二王子の仲間か?」
「うん。おじさんのこと倒しに来たよ!!」
元気いっぱいにそんなことを言ってのける小さな少女。
「なるほど、つまりお前は俺の敵というわけだな」
カエサルは額にある三つ目の目を開いた。
第三の目、妖精の目(フェアリーグラス)は、見たものの魔力的な資質や能力をイメージとして読み取る能力である。
第六等級なら小さな虫けら、第四等級は小動物、第三等級は人間サイズの生物、第二等級は巨大だったり凶暴だったりする生物、第一等級ともなれば超大型のモンスターや自然現象が見える。
今までカエサルが見てきた中で最も凄かったのは、第二王子ミゼットである。
雄大な山々の連なる山脈が目に飛び込んできたものだ。
さて、では目の前の少女だが……。
(……ん?)
どういうことだ?
背後に青い靄がかかってイメージが見えない。
今までこんな事は無かったが……。
そんなことをしている間に。
「じゃあ、行くよー!!」
アリスレートは小さな指をこちらに向けると。
「えい!!」
と、詠唱もな何もなく、凄まじい威力の炎を放ってきた。
(完全無詠唱だと!!)
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!
と、凄まじい炎がカエサルを飲み込んだ。
あまりの威力に、命中した箇所だけでなく攻撃の通り道や、その周囲に至るまで黒焦げになってしまっている。
コンクリート製の床まで溶け出しているというのだから恐ろしい。
焦げ臭いにおいと、煙が大広間に充満する。
……しかし。
「……実に面白いぞ小娘」
カエサルは無傷だった。
椅子に腰かけたまま、全く動かずにアリスレートの攻撃を防いだのである。
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