第121話 一番ヤバいの

「……ふう」


 ひとまず金色五芒星の四人を倒したリックは一息ついた。


「思ったより時間がかかったな」


 特に水系統と風系統の二人は驚きだった。

 かなり第八界綴魔法の全文詠唱に戦闘で使えるレベルの転移魔法である。

 特に後者の転移魔法は、それなりに魔法については勉強したリックからみても見たこともないようなものだった。

 間違いなく、魔法使いとしては優秀なのだろう。


「さて……次はアイツか。間違いなく、この四人と同時に戦うよりも何倍も手ごわいだろうな」


 なんにせよ時間が無い。

 『エルフォニア・グランプリ』の本戦の出走開始まで、あと五時間三十分。

 それまでに、エドワードも追いかけて倒さなければ……。

 と、その時。

 ガラッ。

 という音が背後からした。

 振り返ると、そこには屋敷の壁にめり込んで気を失っていたはずのウィングが、体を起こしていた。

 どうやら気を失ってはいなかったようだ。

 スキンヘッドの頭に刻まれている、『アンラの渦』の発動権限を示す紋章は消えていなかった。


「……に、任務は遂行される」


 血の滴る口元を歪め、ニヤリと笑うウィング。


「油断したなあ!! 短命ザルがぁ!!」


「まずい!!」


 リックは地面を蹴って、凄まじい加速でウィングを今度こそ気絶させようとするが。


「ジャンプ!!」


 ウィングの姿はその場から消え去った。


「くっ、しまった……」


 どこかに転移された。

 もちろん、探し出して見つけ出せばいいだけの話なのだが『エルフォニアグランプリ』の本戦が始まるまでのタイムリミットがある。


「ただでさえ、このあと厄介な奴を倒さないとならないってのに……」


 リックはそう言いながら、金色五芒星最後の一人が待つ屋敷の中に目をやる。

 しかも、それだけでなく、逃げたエドワードも追いかけて気絶させなければならない。


(間に合わせるためには、転移先の絞り込みが必要だ……なにか根拠になるものは……)


 リックがそんなことを考えていると。


「なんや、せっかく人が覚悟決めて来たってのに。もう、あらかた片付いとるやないか」


 背後から聞こえてきたのはミゼットの声だった。


「ミゼットさん!?」


   □□□


「ははーん、なるほどなあ。そりゃめんどいことになってるな。相変わらずエドワードのやつ、周到で意地の悪い改良を考えよるわ」


 リックから手早く現在の状況を説明されたミゼットは、呆れた様子でそう呟いた。

 そして、少し考えた後。


「……分かったわ。そしたらエドワードのやつはワイがとっちめたる」


 そう言った。


「ミゼットさん……いいんですか?」


 リックは詳しい事情は知らないが、ミゼットにはエルフォニア王族に敵対できない理由があったはずだ。

 だからこそ、襲撃もリック一人で始めたのだが。


「まあ、ちょっと気が変わってな……やっぱり、けじめはつけとかんとな」


 ミゼットは少しバツの悪そうな表情でそう言った。

 何が心境を変化させたかは知らないが、ミゼットの瞳には強い覚悟が宿っていた。


「まあ、そういうわけでリック君はウィングのやつを追うとええわ。アイツの転移魔法やけど、大気中の魔力の流れに乗る形で転移するわけやが、大気の魔力の流れは速すぎるねん。どこかで人工的に流れを極端に遅くする場所を作らないと途中で流れから降りられんのや。つまり、転移できる場所は決まっとる」


 ミゼットは麻袋からエルフォニアの地図とペンを出す。

 そして次々に丸を付けていく。


「この屋敷を含めた、エルフォニア貴族のお抱えの建物のどこかに移動してるはずや。大気の魔力をせき止める術式は高価で、メンテナンスが必要やから。必然的に用意しておける施設は限られてくる」


「って言っても、候補がかなり多いですね……」


「ははは、でもリック君ならなんとかするんやろ?」


 ミゼットは信頼を込めて真っすぐにこちらの方を見てくる。


「……そうですね。はい、なんとかします」


「うん。それでこそワイらのパーティの一員や」


 ミゼットはリックに転移先の候補地、三十二か所が書かれた地図を渡す。


「これで役割分担は完了やな。ほな、行ってくるわ。アイツの行き先はだいたい見当がつく」


 ミゼットはそう言って、エドワードのところに向かおうとするが。


「あ、でも、金色五芒星の最後の一人は……」


 リックがそう言うと、ミゼットは振り返りもせず歩きながら言う。


「大丈夫大丈夫。さっき来るときに『一番ヤバいの』がこっちに向かってたから」


   □□□


 第一王子の屋敷の奥にある部屋の豪華に装飾された椅子に、金色五芒星の頭目カエサル・ガーフィールドは腰かけていた。


「ふん。正直、エドワード総司令のこの趣味は分からんな」


 ガーフィールドはそう呟いた。

 彼が今いるのは、第一王子の屋敷の大広間である。

 ここで日夜貴族たちを招き社交界などを催してるわけだ。そのためそこら中に豪華な調度品を配置し飾り立てられている。

 ガーフィールド自身も王族ではないが大公家の出身であるため、エルフォニアの貴族社会においてほとんど最上位の生まれを持っていると言っていい。

 しかし、昔からカエサルはこの手の贅沢品に興味が無かった。

 幼いころからカエサルが興味があったのはただ一つ。

 心躍る魔法戦である。

 ところが、あまりにも強すぎたカエサルにまともに魔法戦をできる者がいなかった。

 エドワードは魔法戦を観戦するのは好むが、自分から積極的に戦うのは好まないし、いずれは一番自分とまともに戦えそうだと思っていた第二王子は、三十年前に国を出て行ってしまった。

 だから、カエサルは飢えている。

 強き敵に。この力を存分に振るえる相手に。


(……あの男は、楽しみだ)


 カエサルはそう呟いた。

 魔力量が圧倒的に少ないにも関わらず、奥深い強さを感じさせる男。

 まあ、魔法戦にはならないだろうが、そこは我慢するとしよう。


「さあ、さっさと。四人を破ってこい」


 どのみち金色五芒星のあの四人を瞬殺できなければ、自分とは勝負にもならない。

 そんなことを考えていると。

 ギイィ。

 と、大広間の入り口の扉が開いた。


「来たか……ん?」


 カエサルはそう言ったが、現れた人影は小さかった。

 まるで子供のようなサイズであり、間違いなくリックではない。


「うわー、広いお部屋だねー。金ぴかピンだぁ!!」


 入ってきたのは十歳程度の見た目をした、赤い髪の少女アリスレート・ドラクルだった。


――――

(あとがき)

岸馬の新作「アラフォーになった最強の英雄たち、再び戦場で無双する!!」

が、HJノベルス様より明日3/19(土)に発売です!! 速いところではもう売ってるかもしれません。


改めてあらすじを

 ↓

最終戦争「ティタノマキア」。死闘の末、人類は魔族を完全に滅ぼし勝利した。

それから二十五年。大戦で魔王ベルゼビュートを討伐した七人の英雄の一人アランはもう四十三歳。辺境の騎士団長として上役や部下に「ロートル」「全盛期は過ぎた」などと言われながらも、平和な日々を過ごしていた。

しかし事態は急変する。滅んだはずの魔族軍が突如復活し、攻め込んできたのである。 

抵抗むなしく倒されていく部下たち。責任を押し付け合うだけの貴族たち。

だから、アランは再び立ち上がった。今度こそ禍根を断ち次の世代に繋ぐために。

それに呼応して、再び集結するかつての戦友たち。

今、戦場に七つの伝説が帰還する!!


セルフPVなんかも作っちゃってます

 ↓

https://youtu.be/Sk5vFCc2d4k


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