第120話 そんなバカげた話があるかよ

(まえがき)

 普段と投稿する日が違いますが、ちょっと告知があるので少し早くUPさせてもらいました。告知についてはあとがきの方をご覧ください。


――――――



 金色五芒星の一人、水魔法王アクアマリンは今回の獲物を舐めてはいないが、同時に容易い相手だと考えていた。

 確かに先ほど地面を殴ってクレーターを発生させたことなどを見れば、凄まじいパワーの持ち主なのは分かる。

 しかし、それはあくまで「身体能力が高い」というだけの話しだ。

 ガーフィールドが妖精の目で見たように、魔力は身体強化に使う分でいっぱいいっぱいという感じだ。

 つまりは単なる腕力バカである。

 対する自分たちは魔法を武器とする。

 魔法が身体能力に圧倒的に勝る点は、その応用性にある。

 体などいくら鍛えたところで、できることは所詮は走って近づいて殴る程度だ。

 魔法であれば、近距離中距離遠距離であらゆる攻撃方法を取ることができるし、防御や味方の補助も思いのままだ。

 しかも、こちらは四人。

 勝負は見えている。


(……ふん、なにが『殺さないように』だ。短命ザルめ)


 安心しろ。こっちはちゃんと殺すつもりで殺してやる。

 アクアマリンはリックに向けて遠距離から高威力の水属性の界綴魔法を放とうとする。


「第七界綴魔法『キリングウェ」


 次の瞬間。


 ドコン!!


 と、自分の右側にいた土魔法王、ノームが吹っ飛んで屋敷の壁にめり込んでいた。


「……え?」


 アクアマリンがそちらに目を向けると、いつの間にか拳を振り終わった姿勢のリックが、先ほどまでノームがいた場所に移動していた。


「まず、一人」


 ゾワリ、とアクアマリンの額を冷たい汗が流れる。

 ……全く見えなかった。


「……なんだ、今の瞬間移動は。貴様、いったい今何の魔法を使った!?」


 アクアマリンの言葉に。


「使ってないぞ。普通に走って殴っただけだ」


「馬鹿な!!」


「まあ、メチャクチャ鍛えて地面を上手く蹴れば魔法なんか使えなくたってこれくらいはできるさ」


 そんなわけのわからないことを不法侵入者が言うと。


「ぬあああああああああああああああああああああああ!!」


 落ちてきた瓦礫の中からノームが飛び出してきた。


「効かぬ!! 聞かぬぞおおおおおおお!!」


 さすがは自分と同じ金色五芒星の一人。

 最強の防御力を誇る鉱物の鎧は伊達ではない。


「この俺の防御力は絶対だ!! 魔法も使えぬ短命ザルごときに打ち破ることはできぬ」


「へえ。今の耐えるのか」


「な!?」


 驚愕するノーム。

 いつの間にかリックは目の前に移動していた。


「じゃあ、もう一度」


 そう言ってリックが拳を振りかぶる。

 そこで、アクアマリンが気が付いた。

 ノームが体に纏う鉱物の鎧。その一部に。


(……馬鹿な。ヒビが入っている!?)


「今度はもう少し本気でいくぞ」


 凄まじい威力の連続の拳がノームに炸裂した。

 アクアマリンの目では何発撃ったか全く見えなかったが、金属同士が激突した時のような激しい打突音が耳に響く。

 金色五芒星最強の防御力を誇るノームの鎧もなんのその。

 知ったことかと言わんばかりに、真っ向から粉砕する。


「ごっ……ばっ……!?」


 ノームは白目をむいて、その場に倒れこんだ。

 気を失ったことで、ノームの首筋に刻まれていた『アンラの渦』の発動権限である紋章が消失する。


「使用者が睡眠以外で気を失うと解ける魔法は多いが、これもその類か……」


 そんなことを呟くリックを背後から狙い撃つものが一人。

 炎魔法王、ブラスタークである。


「くらえ!! 第七界綴魔法『バーンドライ」


「やっぱり、魔法の弱点はどうしても詠唱がいるところだな」


「!?」


 先ほどまでと同じ。まるで瞬間移動のごとき速さで、リックはブラスタークの目の前まで迫っていた。

 そして容赦なく回し蹴りを放つ。


「ぐほっ!!」


 ブラスタークは凄まじい勢いで、20m以上吹っ飛んでそのまま地面を40m近く転がり気を失った。


「まあ、詠唱無しで高威力魔法ポンポン打てる化け物も知ってるけどな……さて、あとは二人」


 リックはそう言うと、地面を蹴って再び加速する。

 標的はアクアマリンではなくもう一人の金色五芒星、『風系統魔法王』ウィングである。

 今度は目にも止まらぬほどの加速で近づき、拳を放つが。


「ジャンプ!!」


 ウィングがそう唱えた瞬間、ウィングの体はその場から消失した。


「!?」


 驚きに目を見開くリック。

 振り向くとウィングは50m以上も離れた、防壁の上に立っていた。


「ふぉふぉふぉ。確かに凄まじい身体能力を持っているようだが、僕を捕まえるとことはできないよお」


「……面白いな。転送魔法の応用か」


「その通りです。風系統第七界綴魔法『アトモスフィアジャンパー』。大気の流れを媒介にすることで、瞬間移動を可能にした魔法です。確かにアナタは瞬間移動のように速いんでしょうが、本当の瞬間移動には敵わないでしょう? 先ほども私の動きに反応できていなかったみたいですしねえ」


「そうだな。速く動いてるだけだったら見極める自信はあるが、本当に瞬間移動する奴は俺も初めてだ」


 ウィングは小さな剣を引き抜いて言う。


「あとは、これで急所を一突きすれば終わりです」


 フッ、とウィングの姿が消失する。

 そして一瞬でリックの死角に現れ、蟀谷に向かって剣を突き出す。

 いや、むしろ動きとしては剣を突き出しながら、リックの蟀谷に当たる位置に瞬間移動したという感じに近い。

 よって、移動してから攻撃までのタイムラグは無し。

 回避不可能の必殺である。

 ……が。

 パシッ、とウィングの剣を持った手をリックが掴んだ。


「馬鹿な!! 瞬間移動を見切ったというのか!?」


「いや。瞬間移動は見切れなかったから、お前の剣が皮膚に触れてから反応したんだよ。まあ、これくらいできないと、アリスレートさんの電撃避けられないし」


「ぐっ、は、離せ」


「よいしょ」


 ボキィ!!

 と、リックは掴んだウィングの腕を握力に任せて強引に握りつぶした。


「ほぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫が響き渡る。

 そのまま、屋敷に向けって投げ飛ばす。

 ベコン!! という音と主に、ウィングの体が深々と屋敷の壁にめり込んだ。


「よし……三人目」


 リックはそう呟くと。


「さて、後はお前だけだな」


 ゆっくりとアクアマリンに向けて歩いてくる。


「……ば、化け物」


 なんだ、これは?


「なんだこれは、いったい何がどうなっている!? 相手は一人で魔力の脆弱な短命ザルだぞ!!! なのになんで!!」


「なんでかってそりゃ……頑張って鍛えたからだな」


「さっきから、わけの分からないことを言うなああああああああああああああ!!」


 アクアマリンは絶叫と共に、ありったけの魔力を全身に巡らせる。

 

「逆巻け水流!!海洋神の両の腕、森羅貫く三叉槍、善悪強弱区別なく渦巻飲み込む青き星の絶唱を聞け!! 第八界綴魔法『テンペスト・ウェーブ』!!」


 放ったのはアクアマリン最大威力の第八界綴魔法全文詠唱。

 生物が扱える最高位の界綴魔法は当然ながら凄まじく、発生させた水量は先ほど屋敷内で出した時の軽く三十倍を超える。

 その大量の水が凄まじい勢いでリックに襲いかかってくる。

 しかも、この魔法の恐ろしいところはそれだけではない。

 第八界綴魔法は、発生させた自然現象に何かの特性を付与する効果がある。

 ラスター・ディルムットの『ユグドラシル・ゴットインパクト』なら、人型に生成した植物に筋繊維のように動く柔軟性と伸縮性を付与する。

 ケルヴィン・ウルヴォルフの使用した『エンジェルズ・ティア』なら、落下する隕石に「標的以外をすり抜ける」という特性を付与する。

 そして。

 『テンペスト・ウェーブ』が発生させた水に付与するのは「通常の水を超える高重量」。

 生み出された水の重量は、普通の水の約五倍。

 つまり三十倍の水量と合わせて、単純計算で先ほどの百五十倍の威力の水流攻撃である。

 もはや背後にある屋敷の防壁ごと木っ端みじんに押し流すつもりで放った、渾身の魔法だった。

 ……が。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 リックは咆哮と共にその波に真正面から拳を一発。

 ドジャアアアアアアアアアアアアア!!

 という火山の噴火でも起きたのではないかという轟音と共に大津波を吹っ飛ばした。


「……お、おお」


 アクアマリンは、もはや淡水魚のように口をパクパクと開けて呆然とするしかなかった。

 なんだこれは……怪物すぎる。

 

「魔法を極めるのが強くなる王道で効率的な方法だってのは俺も納得するよ」


 化け物はゆっくりとこちらに向かって歩きながら言う。


「だがな……別に、魔法を極めなくたって強くなるやり方は沢山ある。俺みたいに体を鍛えてもいい。体を動かす技術を極めてもいい。強力な武器を開発したっていい。お金を稼いで自分より強い人間を雇うのだっていい」


 アクアマリンは恐怖のあまり、その場から動くことができなかった。


「もっと言えば、強くならなくたっていいんだよ。医術を極めて人を救うのだっていい、毎日人がやりたくない仕事を丁寧にこなせるのだっていい……ボートレースの腕を磨いて人に感動や夢をあたえるのだっていい。そこに貴賤も上下も無いんだよ、本当はな。だから俺は、お前らの『魔力血統至上主義』は嫌いだ。魔法を極めて強くなることだけが高貴で上等だなんて、そんなバカげたことがあるかよ」


 そして、化け物はアクアマリンの前までやってくると、ゆっくりと拳を振りかぶる。


「だがまあ、今のはいい魔法だったぞ。かなり本気で迎え撃たざるをえなかった」


 その言葉と同時にアクアマリンの顎に衝撃が走り、意識が途絶えた。


――――――

(あとがき)

 重大発表!!

 ……というほどでもないんですが、出版社様から許可をいただいて岸馬の今秋発売の新作「アラフォー英雄」一巻のセルフPVを作成しました!!

 七英雄全員の姿を見ることができるので、気になった方は是非ご覧ください!!


PVのURL

  ↓

https://www.youtube.com/watch?v=Sk5vFCc2d4k

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