第61話 決殺奥義
「あまり、調子に乗るなああああああああああああああ!!!!」
リックの拳をクライン本部長は剣で迎え撃つ。
そして、同時に固有スキルを剣に集中。
実はクライン学校長の能力は摩擦をコントロールする能力ではなく、正確には「引っかかりやすさ」を操作する能力なのである。
そして、本来は広範囲をカバーできるはずの固有スキルを一本の剣に極限まで凝縮した結果、恐るべき現象が起こる。
クライン本部長の剣は「ありとあらゆるものを引っ掛かりなく切断する魔剣」と化したのだ。
決殺奥義『極大鋭剣(グラハム・コールブランド)』。
特等騎士、十三円卓の各々が持つ決殺奥義。クライン本部長のそれは、なんであろうと問答無用で切断する一撃。例外は無い。人体だろうがミスリルだろうがアダマンダイトだろうがオリハルコンだろうが、上から落としただけで断面に一切の歪みなく両断することが可能なのだ。
「死ぬがいい!!」
クラインの剣が振り下ろされ、リックの拳に命中する刹那。
一瞬だけ、意識に靄のようなモノがかかり体がふらついた。
理由は明快。先ほどヘンリーに顔面に叩きこまれた一撃である。クライン本部長に強い脳震盪を起こしていたのだ。激しく動いた拍子にそのダメージがぶり返したのである。
動きの硬直はほんの一瞬。しかし。
「十分だ。もう分かった」
パシュン、と。情けない音を立ててクラインの剣にまとわせていた、固有スキルが消失した。
「なっ!?」
瞠目するクライン本部長をよそにリックの拳は、固有スキルのエンチャントを完全に失い単なる鉄と化したクライン本部長の剣を真正面の激突でへし折り、その顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。
ベキィ!!
という生々しい音と共に、クライン本部長は声もなくほとんど地面と平行に吹っ飛ぶ。
その勢いのまま、柱に激突し深々とめり込んだ。
「ごっ、あ……っ。ば、ばかな……」
もはや完全に戦闘続行は不可能なダメージを受けたクライン本部長は、焦点の定まらない目でリックを見て言う。
「……固有スキルの……魔力相殺だと? そんなものは聞いたことが……」
「俺もアンタと同じ固有スキルもちでな。暴れ馬すぎる自分の固有スキルを制御する訓練で発見した副産物だ。まあ、いろいろと使い勝手は悪いが、たまたま今回は条件が整ってた。アンタが直前に動きを一瞬止めたおかげで、仕掛ける隙もできたしな」
「まさか、あんなガキのせいで敗れるとは……」
「それもそうだが、俺はアンタに腕を切断されても、そのまま切られた手でぶん殴るつもりだったぞ」
「なっ……!?」
「パーティに優秀な、というか優秀すぎて非常に困るヒーラーがいるからな。後でその人にくっつけてもらえばいい」
「くっ、この、狂人が!!」
クライン本部長は薄れる意識の中で、そんなことを思った。
治る算段があるとはいえ、自分の腕を全くの躊躇なく差し出すだと?
狂っている。いったい今までどんな経験をしてきたというのだ。
痛いこと、怖いこと。
クライン本部長はそれが絶対のものであると信仰している。
過去の大戦に弱者として放り込まれた日々で、クラインはその信仰を強固なものにしていった。
痛いのは嫌だ、怖いのは嫌だ。
だから、金を欲して。
だから、力を欲して。
戦場で泥水を啜りながら逃げ回る日々の中で、クラインはある男に出会う。
『君はとても「弱い」。そして、その弱さがワタシは愛おしい。だから、「これ」を受け取りたまえ』
そうして……大戦の英雄の一人は。
クライン・ガレス・イグノーブルは生まれ……。
その時だった。
「ガボッ!?」
突然、クライン本部長の体が膨張し始めた。
□□□
「なんだ、あれは……」
アルクにポーションを飲ませてもらったことで、僅かだが体力を回復したヘンリーは瞠目してクラインを見る。
いや。
正確にはクラインだったもの。と言うべきなのかもしれない。
クラインの中から皮膚を突き破り、現れたのは蠢きながら膨張する肉塊であった。
「おい、クラインのやつにいったい何が」
そして、その膨張する肉塊の中心に光るものを見て、リックが目を見張った。
可視化するほどの魔力を放つ、緑色の球体がそこにあったのである。
その性質と見た目が示すのはすなわち……。
「『六宝玉』か。まさか、クラインの体の中に埋め込まれていたとはな。道理で見つからなかったはずだ」
一度目と二度目で地図が記した場所が違ったのも、自然なことであった。単純にクラインが騎士団本部と騎士団学校を行き来していたということである。
そして、そのクラインはすでに無残な死体と化していた。弾け飛んだクラインの首から上と四肢が、床に転がっている。
それでは、今。クラインの体の中から現れたのはなんだというのか?
『痛い、怖い、痛い、怖い、痛い、怖い』
まるで呪詛のような呻きが、空気を揺らした。
次の瞬間。
膨張した肉塊は形をとる。
それは、巨大な人のようで。だが明らかに人の姿ではなく。モンスターのそれである。
千切れた灰色の翼、黒い眼、鋭い爪と牙、全身を覆う黒い岩のような肌。
ヘンリーとリックは同時にあるものを思い出した。
『英雄ヤマトの伝説』。その中に出てくる『魔王獣』と呼ばれる存在。遥か昔の英雄譚で語られるその姿に酷似していた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
絶叫が響き渡る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます