第15話 大陸最強

「さて、次は誰だ? 遠慮はするな。うちの後輩の友人ならば今日は貴様ら全員に何かしら有益なアドバイスをしてやるつもりだ」


 そう言って一歩踏み出すブロストン。


 親衛隊員たちが一斉に後ずさった。


 うん、このまま撤退してくれるといいんだが。


 しかし、執事服がそんな部下たちに活を入れる。


「な、何をしている。確かに高い戦闘能力を持っているようだが所詮は少数。他の奴らともども一斉にかかれば恐れるに足りん」


 その言葉に何とか戦意を取りもどした親衛隊たちは、武器を構えて一斉に俺と先輩たちの方へ突進していく。


 いや、あの、恐れて撤退してください、ホントに。


「なあなあ、リックくん。これアレやろ」


 俺に声をかけてきたのはドワーフとダークエルフの混血であるミゼット・エルドワーフだった。背の低い銀髪の優男で見た目は俺と同じくらいに見えるが、長寿型の種族だけあって実年齢はブロストンと同い年で50歳を超えているらしい。


 ミゼットは突進してくる親衛隊の面々を指さして言う。


「お友達やのうて、なんかのアクシデントがあって因縁付けられとるんやろ?」


「ええ、まあ」


「リックくんとしてはアレか、敵とは言えブロストンとかに挑みかかってえらい目にあうのが心苦しいわけやな?」


「さすがパーティの中でも(比較的)常識を理解しているミゼット先輩です。そうなんですよー、どうかここは一つ穏便に」


「んー、リックくんならこの程度の相手屁でもないと思うねんけどなあ。相変わらず謙虚と言うか自信が実力と不釣り合いに無さ過ぎるというか。まあ、安心せい。ブロストンやアリスレートと違って僕はちゃんとわきまえとるつもりや。平和的に解決したるで」


 あー、よかった。この人がいてくれて。


 ミゼットは抱えている麻袋に手を入れると、中からあるものをり出す。


「よっこいしょ」


 ガシャ。


 黒光りする鉄の塊であった。先端が筒状になっている。


 嫌な予感しかしない……。


「……なんですかそれ?」


「ああ、これはこの前暇つぶしに開発した『火筒くんスーパー・三号改』やな。内部に連続で爆発魔法を発動する付与魔法をかけた魔法石と、小さな鉛の塊がいくつも入っとる」


「……つまり、どういうことです?」


「つまりこういうことやな」


 ミゼットが『火筒くん』なんちゃらの先を突進してくる親衛隊たちに向け、魔力を送り込む。


 次の瞬間。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


 という、連続の爆発音とともに。数十発の鉛の塊が撃ちだされた。


「「ぐわー!!」」


「「きゃやあああああ!!」」


 襲いかかる高速の投擲物に為す術なく体を貫かれて倒れていく親衛隊の面々。


 ミゼットはその様子を見て満足げに頷く。


「うん、なかなかの出来や。さすがワイ。天才やな!!」


「ちょっと待てい!!」


「ぬ? なんやリックくん。君もこれ撃ってみたいんか? でも、かなり魔力のコントロールむずいで」


「違いますって!!」


 俺は親衛隊の方を指さす。 


「ぐ……おお……」


「あ、あ、ああ」


 鉛玉を食らったものは痛みにのたうち回り、無事だった者たちはあまりの出来事にほとんど放心状態でその場に立ち尽くしてしまっていた。


「安心しろって言った先からこれですか!! 常識わきまえてるんじゃなかったんですかー」


「はははは、大丈夫大丈夫。ちゃんと誰も死んでへんし、戦意を失っとる。とっても平和的や」


 平和的とはいったい何だったのか。


「てか、ミゼット先輩分かっててやってるでしょう!!」


「うん、だって新しく作った武器を試してみたかったんだもん。まあ、僕が楽しめたから万事オッケイやな!!」


 サラッとそう言ってヘラヘラと笑う。常識を理解していても常識を守るかは別の問題であると痛感した瞬間である。まったくこの快楽主義者は……


 ミゼット・エルドワーフ。『千年工房』と呼ばれる、千年先の未来から来たとしか思えないこの時代の技術レベルを遥かに超えた武器を生み出す、世界最高の武器職人である。


「お、お前ら、そこを動くなあ!!」


 親衛隊のリーダーである執事服の男の声だった。ブロストンさんが先ほど肩車していた少女を後ろから取り押さえ、その顔に青竜刀を当てている。


「あ、あいつ……なんてことを……」


 俺は頭を抱える。


「貴様らの仲間の命が惜しかったらその場にひれ伏すんだ!!!」


「ま、まて、馬鹿なマネはよせ!!」 


 俺の言葉に先輩二人も続く。


「そうだな、悪いことは言わん。その子を放すんだな」


「せやせや、お前のためにならへんぞ」


「はっはっはっ!! このいかれた化物どもめぇ。さすがに少女を人質に取られては手も足も出ないと見える。おい、お前ら今のうちに袋叩きにしろ!!」


 その言葉に親衛隊で無事な者たちが、再び武器を手に取って動き出す。


 勝ち誇ったように笑う執事服。


 しかし。


「ねえねえ、りっくーん。この人なにしてるのー?」


 人質にされているはずの10歳ほどの見た目をした大変華奢で可愛らしい赤髪の少女、アリスレート・ドラクルは恐怖など欠片も感じさせない不思議そうな顔で俺にたずねてくる。


「え、えええ、えーと。あ、アリスレート先輩。そ、その人は何と言うか」


 俺は震える声で言う。どうしよう一歩間違えたら大惨事に……はっ!!


「そ、そうだ。その人たちはアリスレート先輩と遊びたいんですよ」


「そうなんだ!! いいよ、なにしてあそぶ?」


 俺の言葉にアリスレートは満面の笑みを執事服に向ける。


「ふざけたことを抜かすな、大人しくしていろ」


 執事服がアリスレートの首に回している左手に力を入れる。そのせいでアリスレートの頭が執事服の体にぶつかった。


「いた。いったいなーもー」


 あっ……終わったわ、ほんとに終わったわ。


「うるさい、ガキは黙って」


「えい!」


 アリスレートがそう言って人差し指の先を執事服に向けた瞬間。


 凄まじい電撃と火柱が同時に発生し、執事服を包み込んだ。


「ガボボボボボボボボッボボボボボ」


 こんがりと焼けた執事服はその場にバタリと倒れ込み、ビクビクと痙攣する。幸い生きてはいるが……あれ、生きてるのか? 生きてるよね?


 親衛隊たちがざわつく。 


 ――お、おい、『えい』って言ったぞ。今『えい』つって魔法使ったぞ!?

 ――最低でも第四界綴魔法レベルの威力はあったはずなのに……てかなによ今の魔法、見たことも聞いたこともないわよ!?

 ――というか、今のそもそも魔法なのか!? 魔力練ってなかったような気がするんだけど!?


「やっぱり、こうなるのか……」


 俺はため息をついた。アリスレート・ドラクルは吸血鬼にして『壊滅魔童』の異名を持つ最強の天才攻撃魔術師である。どこぞの(仮)とは違い正真正銘、圧倒的なまでの才を持っている。


 アリスレートはその柔らかそうな頬をぷっくりと膨らませて言う。


「むー、さてはきみたち、いじめっ子だなあ」


 やばい。


 俺はダッシュでその場から離れた。


「なんかいじめっ子におしおき魔法ー」


 アリスレートがそう唱えた瞬間に、その体から膨大な光が溢れだし周囲を駆け巡った。


   □□□


「……人がゴミのようだ」


 俺は少し離れたところで、親衛隊員たちが為す術もなくその光の奔流に飲み込まれる様を茫然と見る。

  

「「「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」」


 光の柱がまるで巨大な台風のようにどこまでも高く渦を巻きながら親衛隊員たちを吹き飛ばして天に向かって伸びていく。もはや神々しさすら感じる景色であったが、いかんせん巻き込まれている親衛隊員たちの悲鳴が生々しい。


「……」


 ……うん、あれだ。


 見なかったことにしよう。俺のせいじゃない。俺は必死に止めたんだからな。


 それよりも試験だ試験。今あったことは忘れよう。


 俺は踵を返して試験会場に向かった。

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