暗黒樹、現る


 222-①


「うおおっ、何だ!? 地震かっ!?」


 影光は大きな振動に足を取られてよろめきながらも何とか窓に近付き、そして窓の外を見て驚愕の声を上げた。


「な、何だありゃ……!?」


 ソウザン城の最上階を突き破り、巨大な黒い物体が天に向かって伸びてゆき、その先端が次々と枝分かれしてゆく。


「あれは……木……なのか!?」


 天へと伸びる謎の物体は、禍々しい気を放つ漆黒の巨木へと姿を変えた。

 通天閣にも匹敵しそうな巨木を目の当たりにした影光はシルエッタの胸倉を掴んだ。


「おい!! あの馬鹿デカイ木は何だ!!」

「フフフ……あれこそ、究極影魔獣の真の姿……《暗黒樹あんこくじゆ》です」

「あの木が……あの究極影魔獣だってのか……?」

「その通りです。マナ、遠眼鏡とおめがねはあるかしら?」

「は、ハイ!!」

「14号……暗黒樹の枝をよく見てご覧なさい」


 影光は、マナが持ってきた遠眼鏡を借りて、暗黒樹の先端の方を見た。枝の先端には南天ナンテンの木の実を思わせるようなおびただしい数の球体がくっついている。


「何だありゃ、木の実……? う、動いてやがる……気持ち悪っ!? あっ!!」


 影光の視線の先で、木の実の一つが落下し、地面に落ちて割れた木の実の中から五、六体の人型影魔獣が現れた。


「フフフ……暗黒樹は無限に影魔獣を生み出し続けるのです、周囲の生物を取り込みながら」


 それを聞いた瞬間に、影光は即座に姫の間の扉を向いた。暗黒樹の発生したあの場所には……最愛の女性がいる。


「影光、お前……どこへ行くつもりだ」

「ガロウ……お前ら……!!」


 影光の前に四天王達が立ちはだかった。


「……どいてくれ」

「アンタ……あの巫女を助けにソウザン城に戻るつもりね」

「ヨミ、勝手に心を読むんじゃねーよ」

「フン、読心能力を使うまでもないわ。そんなに焦りに焦った顔をしてればね」

「分かっているなら、どいてくれ」

「影光さん、我々にも少なくない負傷者や死者が出ており、城内に撤収した我々を追って、敵勢もこの城に迫っています。今は、まだ戦える者を指揮して、再び魔王城が動き出す準備が整うまで守りを固める時です」

「すまんキサイ……きっとお前のいう通りなんだろう。それでも……俺は……!!」

「グオム……アブナイ……ダメダ……!!」


 四天王達の意見にフォルトゥナと竜人達も賛同する。


「もう一度だけ言う……そこをどけ」


 だが、誰一人として道を開けようとする者はいない。


「どうあってもそこをどかねぇって言うんなら……お前らをブチのめしてでも通る!!」


 影光が、ネキリ・ナ・デギリのつかに手をかけた。それを見たマナは大慌てでシルエッタに懇願した。


「姫様、お願いします!! あの木を止めて下さい!! 姫様であれば、あの禍々しき妖樹を制御する事が出来るのでしょう?」


 マナの必死の懇願に対し、シルエッタは静かに微笑むだけだ。


「やめとけマナ、どうせそいつはあの樹の制御に失敗する」


 影光の言葉に、シルエッタの眉がピクリと動いた。


「この私が暗黒樹の制御に失敗する? 下らない……何を根拠に」

「俺がそうだ」


 影光は右の親指で自分を指した。


「俺一人すら思い通りに出来ねぇポンコツ聖女が、どうしてあんなバカ丸出しのデカブツを思い通りに出来るってんだ!! コイツは絶対に制御に失敗する、だから……俺は行く!!」

「駄目だ、絶対に行かせん!!」



 影光と四天王達が互いに身構えたその時、城内に敵の接近を知らせる鐘の音が響き渡った。


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