聖女、制裁を喰らう


 221-①


 シルエッタに近寄ろうとしたマナを制止し、影光はシルエッタの顔面を鷲掴わしづかみ……いわゆるアイアンクローをブチかました。


「ちょっ!? 師匠何してるんですか!!」


 マナは慌てて影光の腕にしがみついてアイアンクローを引き剥がそうとしたが、ビクともしない。


「やめて下さい師匠!! どうしてですか!? 師匠は……師匠は姫様の話を聞いて涙を流してくれたじゃないですか!?」


 マナの指摘した通り、影光の頬には幾筋もの黒い線が走っていた。


「ああ……辛かったろうな、苦しかったろうな、心底同情もする……!!」

「だったら……!!」

「でもそれは、俺の大切な女性ひとを傷付け、悲しませて良い理由にはならん!!」

「そ、それは……」

「俺の仲間や関係無い人達を苦しめて良い理由にもならん!!」

「それでも……それでも私は……!! すみません師匠……師匠直伝、あいあんくろー!!」

「痛だだだだだだだだだ!? バカ!! お前、爪を立てるな爪を!? うひー!!」


 その時、四天王とフォルトゥナ、そして、ドルォータ、シンジャー、ネッツレッツの竜人三人組が姫の間に入ってきた。


「影光、味方の城内への撤収が完了したぞ」

「聞いてよー団長!! ガロウの奴、私に指揮ってのを押し付けてさー!!」

「……って、影光さん!? マナさん!? これは一体どういう状況なんです?」

「ゴ……グモウ……?」


 困惑するガロウやキサイ、レムのすけやフォルトゥナを尻目に、ヨミは顎に手を当て呟いた。


「えーっと……? 影光が暗黒教団の聖女の顔面を鷲掴みにして……その影光の顔面をマナが鷲掴みにしてるって事は……つまり……」


 ヨミの眼がキュピーンと妖しく輝いた。


「影光を蹴る!!」

「のわあっ!?」


 体重の乗った鋭いミドルキックが影光の尻に炸裂し、影光は思わずアイアンクローを外してしまった。

 その光景を目の当たりにした竜人三人組が目を輝かせる。


「デュフ!? 影光氏、何と羨ましい!!」

「グフフ……ヨミ様、我らにも!!」

「ヌフフ……左様、我らにもご褒美を!!」

「ひぃっ!? 黙りなさいこの三バカ共がっ!! ちょっ、尻を向けるな、そわそわするな!! ブチ殺すわよ!?」

「「「あ……ありがとうございますッッッ!!」」」

「えぇ……」


 ドン引きするヨミを睨みつけながら、影光は蹴られた尻をさすって立ち上がった。


「痛たた……ヨミ、何すんだコノヤロー!?」

「んー? 経緯いきさつは知らないけど、あんたがしてる事をマナが止めようとしてるって事でしょう?」

「いや、まぁそうだけど……俺、大将なんですけど!? た・い・し・ょ・う!!」

「えー? だってマナは可愛い妹分だけど、あんたは可愛くないし」

「嘘だろお前……そんな理由で……ま、まぁ良い、とにかく暗黒教団のかしらの身柄も押さえたし、とっととずらかるぞ!!」

「しかし、魔王城は動くのか?」


 ガロウの懸念に影光は答えた。


「ゲンヨウの爺さんが言うには、『脚の一本くらい無くとも、秘技・三本脚回転走法で地の果てまでも突き進んで見せようぞ!!』だとよ……」


 それを聞いた四天王達はげんなりした顔をした。これは間違い無く、また城中がゲ○まみれになって、またしても新生魔王軍総出で城の片付けをしなければならなくなる奴だ。


「とにかく、この場をひとまず離脱……うおおおっ!?」



 影光が撤退の命令を下そうとしたその時、突如として発生した凄まじい振動が魔王城を襲った。



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