斬られ役、再び剣を交える


 201-①


「人間共め……この俺の爪と牙で引き裂いてくれる!!」

「このミト=アナザワルドがそうはさせないわ!! リョエンさん、援護をお願いします!!」

「お任せ下さい、姫様!!」



「さてと……私の吸命剣、返してもらうわよ? クソヤロー(弟)!!」

「くっ……行くぞ黒王!!」

“グオアアアアッッッ!!”



 仲間達が周囲で戦闘を繰り広げる中、武光と影光は互いに剣を構えた。


 武光はつかを顔の右側面に持ってきて、切っ先を天に向ける『八双』に構え、対する影光は剣を腰溜めに構え、切っ先を前方に向ける『中段霞ちゅうだんがすみ』に構えた。

 

 影光の構えを一目見て、武光とイットー・リョーダンはうなった。


〔武光、気を付けろ……!!〕

「ああ、結構手強いかもしれへん……!!」


 前回ネヴェスの里で剣を交えた時は、まるで鏡写しのように自分と同じ構えを取ってきた。動きの癖や呼吸、その全てが寸分違わず自分と同じだった為に、それこそ二、三手先まで相手の動きを予測する事が出来た。しかし──


「せやあああああっ!!」

「くっ……せいっっっ!!」


 影光が突進してきた。影光が繰り出してきた鋭い突きを、武光は素早く身を翻してかわすと、そのままガラ空きになった影光の背にイットー・リョーダンを袈裟掛けに振り下ろしたが──


“キンッッッ!!”


 影光はつかから左手を離し、右手でネキリ・ナ・デギリを担ぐようにして刀身を素早く背後に回し、武光の袈裟斬りを受け止めた。


〔防がれたっ!?〕


 イットー・リョーダンは驚愕の声を上げた。影光の剣捌けんさばきにではない、相棒武光の記憶と能力を複製しているというのであれば、その程度の事は驚くに値しない。

 イットー・リョーダンが驚いたのは、自身が持つ特性と相棒である武光のとある資質によって、鋼鉄の塊や巨大な岩ですら “すん!!” と斬り裂く事が出来る自分の一撃を影光の剣が容易く受け止めた事だ。


〔……ぬん!!〕

「うおっ!?」

〔武光!!〕


 ネキリ・ナ・デギリの刀身から発した衝撃波が武光を吹っ飛ばす。吹っ飛ばされた武光はすっ転ぶ寸前で何とか踏ん張った。


〔気をつけろ武光、あの剣は……ただの剣じゃない!!〕

「……ああ!!」


 体勢を立て直した武光は攻撃を仕掛けた。


「うおおおおおっ!!」


 右横面!! 左横面!! 真っ向斬り!! 


 続けざまに攻撃を繰り出すが、全て防御された。やはり敵の剣には刃こぼれ一つない。反撃の横薙ぎを素早く身をひるがえして回避した武光は小さく息を吐いた。


 前に剣を交えた時には二つの大きな差があった。


 一つは経験の差である。


 『百聞は一見に如かず、百見は一考に如かず、百考は一行に如かず』という言葉の通り、目の前の影魔獣は自分の記憶を複製されたと言っても、それは影光自身がその身をもって体験したものではなかった。

 『知っている』と『経験した』という、一見僅かに見える違いが、前回の戦いでは大きな差を生み出していた。しかし、今の攻防で相手は今日まで幾多の死線をくぐり抜けて、戦いの経験を積んだという事を武光は肌で感じ取った。


 そしてもう一つは武器の差である。


 相棒であるイットー・リョーダンは、その桁違いの圧倒的な斬れ味によって、相手の剣を易々と破壊する事が出来た。

 その相棒による一撃を敵の剣は軽々と防いだ。


「ヤバイかもなイットー……」

〔ああ……〕

「アイツ……めちゃくちゃ手強なっとるやんけ……!!」


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