斬られ役、城へ向かう


 158-①


 武光は当身で気を失ったナジミを建物の陰に連れ込むと、携帯していた信徒捕縛用のロープで手足を縛りあげた。


〔なあ、武光……そこまでやる必要あるか?〕


 イットーの問いに武光は即答した。


「あるね!! 三年前のあの時も……アイツは俺の為にたった一人で魔王城に乗り込んだんや、これでも足りへんくらいやわ。あとついでにひたいに『肉』と書いておいてやろう……さっきの《退魔奥義ツッコミ》もめっちゃくちゃ痛かったしな!!」


 落書きを終えた武光は立ち上がり、歩き始めた……捕らえられている親友を救う為に。


 それから武光は歩き続けた……城が徐々に近付いてくる。見上げた視線の先には、タンセード・マンナ火山を背に、勇壮にそびえ立つ城がある。


「うわー、近付いて来たでイットー……」

〔向かってるんだからそりゃそうだろう。またビビってるのかい?〕

「ああ、俺かてホンマはあんなヤバイ所行きたないねんて……でも1%だけな……」

〔1%?〕

「……今もめちゃくちゃ怖いけど、1%だけ……恐怖よりもヴァっさんを助けたい気持ちが勝ってしもてんねん……」

〔1%か……〕

「ああ、1%だけやけどな〕


 人間、100%の勇気など発揮しなくても、恐怖をほんの1%だけ凌ぐ勇気があれば、存外やれてしまうという事を、今まで数々の戦いをビビり倒しながらも切り抜けてきた武光は知っている。


〔あれ? でもご主人様、恐怖が半分の50%だとして、勇気がそれより1%多い51%だったら、合計すると100%越えちゃいませんか?〕

「ま……魔っつーーーん!?」

〔そこにツッコむかーーー!?〕


 武光のもう一振の愛刀である魔穿鉄剣のマジレスに武光とイットー・リョーダンは苦笑した。


 とうとう城下町を抜けた。長い一本道の先に大きく頑丈そうな城門が見える。


 武光は深呼吸すると、イットー・リョーダンの鯉口こいくちを切った。


「行くで相棒……本番や!!」

〔応ッッッ!!〕


 武光が駆け出そうとしたその時だった!!


「待てぇいッッッ!!」


 物陰から飛び出して来た影が、武光の前に立ち塞がった。


「なっ!? お、お前ら……!?」


 フリードが あらわれた!!

 クレナが あらわれた!!

 ミナハが あらわれた!!

 キクチナが あらわれた!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る