斬られ役、格好つける


 157-①


 ソウザン城への突入は……隊員達にそう告げた武光を見て、ロイが口を開いた。


「唐観武光……お前──」

「シュワルツェネッ太!! お前何ボサッとしとんねん、はよ行って本番の準備せんかい、『兵は神速を尊ぶ!!』ここテストに出るからな!!」

「…………分かった」


 武光はロイの言葉を遮り、ロイとアルジェを半ば無理矢理に追い払うと、隊員達に指示を出した。


「よっしゃ、ほんならフリードとクレナは兵糧ひょうろうと水の準備!!」

「分かった。行ってくるよ、アニキ!!」

「任せて下さい、隊長!!」

「頼んだ!! ほんなら、ミナハとキクチナは医薬品の調達や!!」

「承りました、隊長殿!!」

「わ、分かりました武光隊長!!」


 あわただしく走り去るフリード達の背中を見送った武光はナジミの方を向いた。


「えーっと……ナジミ、お前は──」

「アスタト神殿三大退魔奥義が一つ……アスタトの閃光!!」


 ナジミは アスタトの閃光を くり出した!!

 会心の一撃!!

 武光に 96352 のダメージ!!


「ぐはぁっ!? お前、いきなり何を──」

「武光様ッッッ!!」

「は、ハイッ!!」

「……また一人で無茶しようとしてるでしょう!?」

「な、何の事だか……」

「私の目を見て言って下さい……!!」


 大粒の涙を目に浮かべているナジミを見て、武光は露骨に狼狽した。


「な、泣く事ないやろ!?」

「うう……だ、誰のせいですかぁぁぁ……武光様のアホぉぉぉぉぉっ!! バカぁぁぁぁぁっ!! カッコつけやろーーーーーっ!!」

「か、カッコつけ野郎!?」

「だってそうでしょう!? どうせ……『親友を救う為!!』とか『敵の本拠地に突入するのは危険過ぎる!!』とか『場合によっては影魔獣だけやなくて、人もあやめなあかんかもしれん……アイツらの手を汚させるわけにはいかへん!!』とか言う気なんでしょう!?」


 一言一句違わずナジミの言う通りだった。見事に嘘を見抜かれてしまった武光は苦笑するしかなかった。


「お前なぁ……先に全部言うなや!? 格好つかへんやん」


 ナジミは肩を振るわせながら、言った。


「私は武光様のそういう所が大っっっ嫌いです!!」

「うっ……」

「でも……でも私は……そんな武光様が大大大大大好きです!!」

「いやどっちやねん!? って言うか、大声で叫ぶなや、こっ恥ずかしい!!」

「大体、武光様が格好つけようとして格好良く行った試しなんか無いんですからね!?」

「い、いや……無い事はないやろ!?」

「とにかく、私も一緒に行きますから!!」

「いや、せやかてめちゃくちゃ危険なんやで!?」

「大丈夫です!!」

「何やねん、その自信は!? どこから来るねん!?」

「武光様が守ってくれますから!!」

「俺頼み!?」


 ニコリと微笑むナジミを見て、泣いたり怒ったり笑ったり、ほんませわしない奴やで……と、武光もつられて笑ってしまった。


 一緒にいると自然と笑顔にしてくれるナジミの優しさと明るさが、武光はめっちゃ好きだった。そして、だからこそ……


「しゃーない、ほんなら一緒に来てくれるか?」

「もちろんです、武光さ──」


“ドンッ”


 武光は不意を突いてナジミの鳩尾みぞおち当身あてみを喰らわせた。


「た……武光……様……?」

「許してくれ、俺には……こんな方法でしかお前を止める事が出来へん」


 武光は気を失ったナジミを抱き上げた。


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