斬られ役(影)、壁を越える


 141-①


 天驚魔刃団の乱入により、劣勢だった百鬼塞側は勢いを取り戻しつつあった。


 百鬼塞のオーガ達は影魔獣を倒すすべを知らないので、敵をひたすら城壁から叩き落とすのみだが、それでも徐々に戦況を押し戻し始めた。

 しかしながら、今現在も城壁を越えようとする敵を何とか水際で食い止めているという状況で、投石機によって城壁を飛び越えて砦内部に侵入した影魔獣の対処にまで手が回らないという状態だった。

 このままでは内側と外側から攻撃されて、何とか踏み止まっている城壁の守備隊が総崩れになる恐れがある……そう判断したキサイは声を張り上げた。


「ヨミさんと影光さんは砦の内部に侵入した敵を排除して下さい!!」

「フフ……任せなさい!! 片っ端から殺してあげるわ!!」


 ヨミは妖しげな笑みを浮かべると、上空から漆黒の翼を広げて砦の内部へと滑空して行った。


「よーし!! 俺も行くぜ……って、俺はどうやって壁を越えるんだよ!?」


 それを聞いたキサイはニヤリと笑った。


「さっきの投石機の要領で、レムのすけさんにブン投げてもらいましょう!!」

「ウソだろお前……」

「僕の計算上、影魔獣の肉体を持つ影光さんなら大丈夫です!!」

「いやいやいやいや!? 計算上だと肉体的に大丈夫でも死ぬほど痛いって結果が出てるんだが!?」

「レムのすけさん、お願いします!!」

「れ、レムのすけ!? ちょっと待て、心の準備が──」

「グオーーーッ!!」

「おわーーーーーーーーーっ!?」


 レムのすけは 影光を ブン投げた!!


「うひーーーーーーー!?」


 影光は見事な放物線を描いて百鬼塞の城壁を超えた。影光の眼前に物凄い勢いで砦の石壁が迫る。


 ……《五点接地ごてんせっち》という着地方法がある。爪先つまさきで着地し、そのまま体を丸めて転がりながら、脛の外側→尻→背中→肩の順に着地する事で、着地の衝撃を身体中に分散させて落下の衝撃から身を守る技術である。熟練者ともなれば、三階の高さからコンクリートの地面に落ちても無傷でいられるとされる。


 ……が、影光は別に熟練者でも何でもないので、普通に石壁に思いっきり叩きつけられ、全身がひしゃげた。


「やっぱ死ぬほど痛ぇぇぇぇぇーーーーーっ!?」


 その後、ひしゃげた肉体を再生させた影光は、砦の内部に降り立った。


「ふー、今のはマジで痛かった……さて、行くか!!」


 影光は、影醒刃シャドーセーバーを取り出すと、怒声と金属がぶつかり合う音のする方へ走り出した。


 141-②


「うおおおおおっ!!」


“ザンッッッ!!”


「でやあああああっ!!」


“ズバッッッ!!”


 影光は砦の内部に侵入した影魔獣を斬って回った。そして今も一人のオーガを刺し貫こうとしていた槍影兵を背後から叩き斬った。


「大丈夫か!?」

「不死身の影魔獣を一撃で!? お、お前は一体!?」

「俺は天驚魔刃団の頭領、影光という。魔王城から来た援軍だ」

「え、援軍!? た、助かった……」

「安心するのはまだ早い、砦に侵入した影魔獣はまだまだいるはずだ。砦の中を案内して欲しい」

「お、おう!! 付いて来てくれ!!」


 突然現れた影光を警戒していたオーガも、影光が魔王城から来た味方と分かると、砦内を先導した。


 そして、オーガ達を救援しつつ、砦内の影魔獣を排除して回る事およそ一時間……影光とオーガ達は百鬼塞内部に侵入した剣影兵を殲滅した。それと同時に砦の外からも大歓声が聞こえた。どうやら外の敵も撃退に成功したようだ。


「どうやら……終わったみたいだな」


 ふぅ、と息を吐きながら影醒刃の刀身を消した影光に、影光と共に影魔獣を倒して回っていたオーガ達が駆け寄る。


「いやぁ、助かったぜ!!」

「影魔獣を易々と斬り倒すとは……やるな、アンタ」

「お前は命の恩人だ!!」

「そうだ……俺達の大将に会ってくれよ!!」

「そうだそれが良い!!」


 影光はオーガ達に、大将の間へと案内された。


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