巫女、阻止する


 94-①


「ううーん…………ハッ!?」


 影光はオサナの部屋で目を覚ました。体を起こし、何気無く横を向くと、物凄く気まずそうにしているオサナと目が合った。


「ご、ごめんな影光かげみっちゃん……」

「お前なぁ……ちゅーしたんは、俺やなくて本体やっちゅうねん……痛てて」

「うん、ホンマごめんな……でも、影魔獣って痛みを感じないって聞いた事あるんやけど……」

「……おう、俺も最初は切腹しても痛みを感じへんかったんやけどな」

「いやいやいやいや、何してんの!? アホなん!?」

「……いつの頃からか普通に苦痛や疲労を感じるようになった。多分、俺を生み出した奴が何か小細工しよったんや」


 影光は溜め息をいた。


「そんな事より……何でお前がアスタト神殿の三大退魔奥義を使えんねん!?」

「何でって……そりゃあウチの家に代々伝わる技やし」

「う、ウチの家!? だ、代々……? ちょっと待て、じゃあナジミは──」


 オサナはうんと頷いた。


「ウチの妹やで。覚えてへん? まさちゃんとお別れするちょっと前に、『遠くに住んでるお母ちゃんが、もうすぐ妹を産むねん』って言うてたの」

「そ、そう言えば……確かにそんな事言うてたわ……」

「元々、年に一回くらいは、オオサカからこっちの世界に戻ってきてたんやけど……5歳の時、生まれたナジミに会う為に、こっちの世界に戻って来る時に、アクシデントで本来戻るべき時間より6年も後に戻って来てしもて……おかげで、ウチの方がお姉ちゃんやのに、あの子より一つ年下やねんで。赤ちゃん見たかったのになー」


 苦笑するオサナだったが、影光はに落ちない事が一つあった。


「いや、でもナジミは姉がいるなんて一言も──」

「……知らんのとちゃうかな」

「え?」

「多分やけど……あの子は、自分に年下の姉がおるなんて知らんと思う」

「何で……?」

「理由は分からへんけど……こっちに戻って来てから、たった2〜3日でウチは修行に出されたから、あの子と一緒に過ごした時間って、その数日しかないねん……お父ちゃん、戻る前は『これからは四人で一緒に暮らそう』って言うてたのに……『自分が姉だっていう事は絶対に言うな』って言われるし」


 そう言って、オサナは悲しげな顔をした。


「ワケも分からんと、師匠に預けられて……大人になった今でこそ『何か大変な理由があったんやろな』って思うけど……師匠の所におった時は泣いてばっかりやったわ……影光っちゃんは?」

「俺か? 俺って言うか本体やけど……時代劇俳優やってる」

「えええええっ!? ホンマに!? カッコイイ!!」

「ま、斬られてばっかりやけどな……」

「そ、そうなんや……へー……あはは」

「何やねんその微妙なリアクション、観客には中々伝わらんやろうけど、斬られ役ってめちゃくちゃ大変で重要なポジションなんやからな!? ええか、斬られ役ってのはやな──」

「う、うん………………あひゃっ!?」



 オサナは謎の電波のようなものを受信し、突然白目をいた。



「……あ、あれ? ここは……あっ、ユキヒト」


 影光を止めろ。


「へっ?」


 このまま放っておいたら、奴は『斬られ役の重要性』について、5000文字くらい使って5話分くらい語る!! 奴を……黙らせろ。


「いや、でも……さっきもうっかり『アスタトの地獄』を喰らわせてしもたばっかりやし……無理やわそんなん……ウチにはでけへん!!」


 ……お前がイチャイチャしまくる番外編を考えて──


「ウチに任しとき!! …………はうっ!?」


 オサナは 正気に戻った。


「うーん……あれ? ウチは一体……そや!!」


 思考がぼんやりとして、理由も思い出せないが……やらなければならない。オサナは正体不明の使命感に突き動かされた!!


 オサナは 真・アスタトの地獄を くり出した!!

 会心のいちげき!!

 影光は 沈黙した。



 ……その後、なんやかんやあって、影光達はしばらくの間、双竜塞に逗留とうりゅうする事となった。


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