執事、思い出す
93-①
「お、お嬢様ーーーっ!!」
影光の首根っこを捕まえたゲンヨウは、マナのいる姫の間に突入した。
「何事ですか!? 騒々しい!!」
「お、思い出したのです!! こ奴は……この男は……!!」
「ふげっ!?」
ゲンヨウはマナの前に影光をドサリと投げ捨てた。
「ゲンヨウ!! 私はこの方を客人として扱うようにと言ったはずですよ!!」
「はっ!? も、申し訳ございません!! しかしながら、私は……私は思い出したのです!!」
「一体何を思い出したというのです!?」
尻を突き出して突っ伏している影光を、ゲンヨウは震える指で指し示した。
「こ、この男こそ……三年前の大戦において、我が主にして魔族の王……シン陛下の名を
指を差された影光は焦った。
「じ、ジイさん!? ど、どうしてそれを……」
「お嬢様……私は一目見てすぐに
ゲンヨウはそう言って遠い目をした。
「敬愛する我が主の名を騙るなど言語道断……断じて生かしてはおかぬ!! そう息巻いたものの……あの偽者は凄まじいまでの力を持っておりました……三百年前ならともかく、すっかり老いさらばえ、衰えてしまった今の私の力では、まともにやり合って勝てる見込みは全く無かったのです……そこで私は、あの偽魔王に執事として仕えるフリをしながら、寝首を
ゲンヨウは拳を握り締めた。語りにも熱が入り始める。
「来る日も来る日も私は、偽の主に頭を下げ、顎先で使われるという屈辱に耐えながら、何とか奴の正体や弱点を探ろうとしておりました……そして、三年前のあの日……この男が現れたのです!!」
「お奉行様……言い掛かりはよして頂きましょう!! 何の事だか、あっしにはこれっぽっちも身に覚えがありませんぜ」
武光の記憶をそっくりそのままコピーされているのだ、『身に覚えが無い』どころか、三年前 (武光にとっては半年前)の魔王城での最終決戦は、互いの一挙手一投足ですら鮮明に思い出せるのだが、再び指を差された影光は、『遠山の◯さん』でお
「髪の色を変えた程度で、魔王の執事たる私の目は誤魔化せぬ…………
「ちっ……ダメか」
「私はあの時、姿を消して一部始終を見ておったのだ!! 偽魔王の正体、そして古の勇者の真実、そしてお前が凄まじき力で偽魔王を叩きのめした事も!!」
影光は大いに焦った。まさかあの時、謁見の間に自分達以外に人がいたとは……
「じゃ、じゃあジイさん、アンタまさか……その
「無論、知っておる」
「ゲェーッ!?」
「中々楽しませてもらったぞ、『魔王陛下が勇者なんぞに敗北する』というゴミのような結末だけは頂けなかったがな。それにしても……お主、
「い、いやアレは俺じゃなくてだな、えーっと……そう、アレだ!! あれは俺の……双子の兄だ!!」
「……お主はさっき『俺達の芝居』と言っておった」
「うっ……うるせーーーーー!! とにかくアレは俺じゃないの!! やったのはぜんぶ1号なの!! 魔王を倒したのも、その後、大芝居を打ったのも……ナジミとちゅーしたのも!!」
「なっ……何しとんじゃーーーーー!?」
オサナが勢いよくドアを開けて姫の間に入ってきた。
「あっ……オサナ、丁度良い所に。ジイさんに俺とアイツは別人だって事を──」
「こんの……浮気者ーーーーーっ!! アスタト神殿三大退魔奥義が一つ……『アスタトの地獄』ッッッ!!」
“ガガァン!!”
オサナの必殺奥義が影光に炸裂し、影光の顔面が姫の間の石壁にめり込んだ。
石壁に顔面が突き刺さり、まるでハンガーに掛けられた服のように “ぷらーん” と垂れ下がっている影光を見て、マナはゲンヨウに問いかけた。
「ゲンヨウ、本当にこの方が、凄まじい力を持つ『お父様の偽者』を倒したと……?」
「さ、左様でございます!!」
とは言うものの、ゲンヨウもだんだん自信が無くなってきた。
「壁に突き刺さってますが……」
「た、確かにこの者だった……と、思うのですが……」
マナとゲンヨウの眼下を、オサナに足を掴まれた影光が引きずられて行く。ピクピクと痙攣している影光は、さながら死にかけのテントウムシだった。
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