斬られ役と巫女、名を聞く


 66-①


「う、嘘やろ……俺ら……」

「こ、こんな事って……私達……」


「「入れ替わってるぅぅぅぅぅーーーーー!?」」


 武光とナジミは絶叫していた。何故こんな事になってしまったのか?



 話は、およそ一時間前にさかのぼる……



 武光は宿屋でナジミにそっぽを向かれていた。クレナ達に『ナジミの武器は作らなくても良い』と言った件である。


「なぁ、俺が悪かったって」

「フンだ、武光様なんて知りません!!」

〔まーまー、許してあげなよ〕

〔そうだよ、ナっちゃん〕

「知りません!!」


 イットー・リョーダンと魔穿鉄剣がナジミをなだめるが、ナジミはヘソを曲げたままだ。


「もう、今日という今日は許してあげませんからねっ!!」

「あっ、オイ!!」


 ナジミは宿屋を飛び出してしまった。


〔あーあ、出てっちゃった。ナっちゃん〕

〔全く……君の悪い癖だ、変なトコでワルぶるから……〕

「す、すまん……」

〔謝る相手が違うんじゃないですかー、ご主人様?〕

〔魔っつんの言う通りだよ、武光〕

「せやな、俺……ちょっとナジミを探してくる」


 そうして、武光は川沿いの土手に座っていじけ倒しているナジミを発見した。


 武光は、膝を抱えていじけているナジミの隣に、そっと座った。

 武光に気付いたナジミは慌ててその場を立ち去ろうとしたが、手首を掴まれてしまった。


「は、離して下さい……私の気も知らないで!!」

「……お前もな。ええから俺の話を聞け」


 武光はナジミを座らせた。


「……まずは、クレナ達に言った事、謝らせてくれ……ホンマに悪かった。ただ、俺は……お前に前に出て欲しくないねん。危険やし」

「私は……三年前の旅の時からずっと、武光様の隣で力になりたいと思ってました。姫様や、リョエンさんのように」

「いや、それでも……お前は後ろにおってもらわな困る」

「どうしてですか!? 私、そんなに足手まといですか!?」


 ナジミの問いに、武光は強く拳を握り締めた。


「こ、この…………アホーーーっ!!

「ひっ!?」


 ナジミは、武光の叫びに体をビクリと震わせた。


「俺は……俺はなぁ……お前が後ろにおるから、怖くてたまらんかっても……逃げ出したくて仕方なくても……最後の最後で踏ん張れるんや!!」


 武光はナジミの両肩に手を置き、彼女のうるんだ瞳を真っ直ぐに見つめた。


「だから……例えお前がミトより剣術が上手くて、先生より強力な術が使えたとしても……これからも俺の後ろにおってくれ、頼む……!!」

「武光様……」

「あーもー!! っず!! もうやめやこの話!! オチも無いし……めちゃくちゃ恥ずかしいやんけ、何言わせんねんこのド貧乳!! こういう事言うと、クレナ達に『うっわー、熱々じゃないですかー』って冷やかされるんやからな?」

「それであんな事を……でも、それはそうと腹は立つので……えいっ!!」


 ナジミは武光のほおをつねった。


「痛だだだだ!?」

「よし、これで許してあげます」


 ナジミは武光に寄り添った。


「今は……後ろじゃなくても良いですよね?」

「お、おう……」


 夕日に照らされた二人の影が重なったその時……


「あれ……? 何か急に眠く……?」

「わ、私もです……うーん……」


 二人は気付いていなかった……二人の影に、柄頭を鎖で繋がれた二本の操影刀が突き立てられた事に。


 二人はそのまま昏倒こんとうしてしまい、しばらくして二人は目を覚ました。


 ……かくして、話は冒頭に戻る。


 66-②


 武光は最初、影光が再び現れたのかと思って身構えたのだが、どうも様子がおかしい。髪も黒いし、こちらを見てめちゃくちゃ戸惑っている。武光は恐る恐る聞いた。


「き……君の名は……?」

「え……? ナジミですけど。あ、貴女こそ誰ですか!? ま、まさか私そっくりの影魔獣!?」

「誰が影魔獣やねん!! 俺の名は唐観武光、天下御免の斬られ役や……って、えっ? お前、ナジミなんか?」

「ほ、本当に武光様なんですか……?」


 武光とナジミは互いに頷くと、土手を降り、川に近付いて、恐る恐る水面を覗き込んだ。


「う、嘘やろ……俺ら……」

「こ、こんな事って……私達……」


「「入れ替わってるぅぅぅぅぅーーーーー!?」」


 武光とナジミは絶叫した。


「やれやれ……やっと目を……覚ましたかい?」


 ???が 現れた!

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