聖道化師、名乗る


 67-①


「やれやれ……やっと目を……覚ましたかい? ったく……遅いよっっっ!! まぁいいさ、ボクの名は──」


「何じゃこりゃああああああーーーーーっ!!」

「入れ替わってるううううううーーーーーっ!?」


「……フフフ、お前達の魂を入れ替えてやったのさ、このボク──」


「どうしましょう!? どうしましょう!? うわーーーーーん!?」

「泣くなーーー!! おおお落ち着けーーー!! 落ち着くんやーーーーー!!」


「……いや、あの、ボクの名は──」


「だってだってだって……どうすれば良いんですかこれぇぇぇぇぇ!?」

「あ、安心しろ!! こういうシチュエーション、映画で見た事あるぞ!! 元に戻る為には確か……」

「どうするんです!?」

「まずは……お◯ぱいを揉みしだくッッッ!!」

「待てぃ!?」


 胸に両手を伸ばそうとしたナジミ(中身は武光)だったが、武光(中身はナジミ)は、すんでの所でナジミ(中身は武光)の両手首を “ガシッ!!” と掴み、自分の胸を揉みしだかれるのを阻止した。


「ちょっ!? 何ですかそれは!? 意味が分かりませんっっっ!!」

「うぐぐ……ええい!! 離せ離せーーー!! だって見たんやもん、映画やと確か……胸を揉んだ後、口噛み酒を一気飲みして、逢魔が刻に相手のてのひらに『私は好きにした』って書いて、無人在来線爆弾を全車投入するんや!!」


「いやいやいや、混ざってる、混ざってるから!! 『君のナントカ』と『シン・ナントカ』がごっちゃになっちゃってるから!! 確かに同時期に公開されてたけども……って言うかボクの話を──」


「ぐぐ……ものは試しや!!」

「ちょっ、そんなお試し感覚で人の胸を揉まないで下さいよ!?」

「………………揉んだら大きくなるかもしれんぞ」

「えっ、ホントですか……………………いや、やっぱりダメですーーーっ!!」


 一瞬、手の力を緩めかけた武光(中身はナジミ)だったが、羞恥心が上回り、再び力を込めた。


「い……いい加減にしろお前らぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」


 テンパりまくりの大混乱状態に陥っていた武光とナジミの二人は、自分達の背後に立っている男にようやく気が付いた。


「すんません!! 今ちょっと取り込み中なんで後にしてもらえませんかね!?」

「ごめんなさい、私達今、とんでもない事になっちゃってて……」

「うん!! 知ってるよ!? それボクの仕業しわざだし!!」

「な……何ぃぃぃっ!?」


 男は仮面で顔を隠しているが、声から察するに若い男だろう。


 仮面は真ん中から左右に白と黒のモノトーンに塗り分けされており、右目は星型、左目はしずく型の覗き穴が空いていた……そして男は仮面と同様、中央から左右に白と黒に色分けされたロングコートを着用していた。


「ボクの名前は──」

「ふんぬっ!!」

「えいっ!!」

「うぐぅっ!?」


 武光とナジミは仮面の男にタックルを喰らわして転倒させた。


「お前……暗黒教団の人間やな!? 俺らを元に戻せーーー!!」

「そうです、戻して下さい!!」


 仮面の男はヨロヨロと立ち上がると、武光達を睨みつけた。


「ぐぅぅ……吸命剣と引き換えだ!! あとお前、聖剣ってのを持っているらしいな……そいつも寄越せ!!」

「な……何やと!?」

「明日の正午、ここから東に4キロほど進んだ所にある廃村で待つ!! フフフ……言っておくが、その時間を過ぎると……お前達の肉体と魂は拒絶反応を起こして死に至る!!」

「うえええええーーーーーっ!?」


 仮面の男は、コートに着いたホコリを払うと、含み笑いをした。


「ククク……お前達の命運は……このボク、暗黒教団六幹部が一人!! 《聖道化師》の月之前つきのまえ 京三けいぞうが握っているのさ!!」


 男の名を聞いて、ナジミ(中身は武光)は思わず息を呑んだ。


「月之前京三……? お前……まさか!?」

「ああそうさ、ボクは……お前と同じ日本人さ!! 良いか? 明日の正午、東の廃村だ……遅れるんじゃないぞ?」

「あっ、待てっ!?」


 京三は影転移の術を使い、武光とナジミの前から姿を消した。


「くそっ、早速向こうから仕掛けてきよった……!!」

「武光様、ど……どうしましょう!?」

「行くしかあらへん……ひとまず、皆の所へ戻ろう!!」

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