パチ屋

定食亭定吉

1

今月末までに水道、ガス、電気代を未納の場合、停止との通知が届く。吉作(きっさく)は二十一才の無職。あまり頭よくなく、無器用で仕事をクビになってばかり。

 何となしに即金を稼ぐため、近所のパチンコ屋へ行った。駅から延びるアーケード沿いに、その店は所在した。午前十時前のオーブン前には行列はない。近隣ライバル店と比較し不評だからだ。軍資金は千円。パチンコ経験者に、パチンコするなら、金を持って行くなとアドバイスされたからだ。

 パチンコ屋に入店する。爆音が鳴り響く。浅はかな知識を頼りに、どの台がいいか精査する。回転率の多さから台を決定。隣は顔の薄い中年男。

(こんな平日に何している?)

そう感じながら、千円を投入する吉作。あまりパチンコ経験はなかったので、やや緊張しながら、レバーを回した。真ん中の穴に何とか数玉入る。だがカスは続く。そして二、三分してゲームセット。

「お兄ちゃん、玉あげるよ。どうせ出ないからさ」

隣に着席していた中年男。箱にあった残り玉を吉作に譲る。

「ありがとうございます!」

下心があったように見えないので素直にもらう。そして、もらった玉を投入し再挑戦。

(オオアタリ!)

パチンコ台の効果音。まさかの大当たり。信じられなかった。アタリが止んでから素早く換金所へ行く。

 換金されたのは二万円ぐらい。それを持って、コンビニで電気、ガス、水道代を支払った。

 思えば人生の中でも数少ないラッキーだったかもしれない。そして、中年男に感謝した。こういう時、神様はいるのだろうと思った吉作。

 帰りにスーパーで食材を買った後、募金を数円した。直接には中年男に恩返しは出来ない分、恩返し替わりの行動だと思った吉作。

 それから帰宅し、集合ポストの郵便物を確認する。求人誌の懸賞応募が当選していたようだ。部屋に入り確認する。商品券五千円分が当選したようだ。自分で運のツキにはびっくりしていた。占いを信じる方ではなかったが、フリーペーパーの星占いを見ることにした。〈牡牛座、運というものは日常の小さな所にある。〉という説教じみた感じの結果だった。

 よく理解出来ない吉作だったが、小さな事に感謝をしていけば、きっと大きな幸せに通じるものだと感じた。

 そして、友人に裏切られ負債を背負った事で、相手に復讐しようと計画していた自分が情けなく感じた。何を裁きを加えるのは自分でなく、天に任せておけばいいと感じられたのだ。

 料理をしながらテレビを見ていた。夕方のニュースだ。

〈今朝某市で脇見運転の車が、歩道にいた老人を跳ね、死亡させた上、逃亡しようとしたら、対向車のトラックと正面衝突して死亡しました。死亡したのは会社員T。酒気帯びだったようです〉

 一瞬、テレビのテロップを見て動作の止まった吉作。負債を背負わされた相手だった。ありきたりな名前だったが、居住地から間違いないと判定した。

 複雑な心境だった。確かに相手に対しての恨みは間接的には晴らせた。しかし、運悪く犠牲になった老人。そして、対向車のトラック運転手。何よりも、どんな事をしても、金は取り戻せない。素直に喜べない自分と、相手が憎くても、罪を憎んで、人を憎まずが一番だと感じた。

 沸騰させた鍋のお湯が漏れている事で、我に戻った自分。取り敢えず、飯を食うことにした。これからの人生を生きていくために。

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パチ屋 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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