第31話 ただいま特訓中
「誰かに盗られるくらいならぁ~ あなたを殺していいですか」
「「「わわわわ~~~」」」
「あなた…山が燃える~~~」
「「「ああああ~~~」」」
マラダイとリス3姉妹は、今日も必死こいて練習中のようじゃな。
ふむ、やはりマラダイはセクシーで良い声じゃ。音域も広くて、石川さゆりの歌をここまで歌いこなせるとはたいしたものじゃ。
リス達のコーラスと踊りも、なかなかサマになってきたのぅ。
「よ、よしっ。もう一回!」
「「「まだやるんですかぁ。マラダイ様ぁ」」」
「無論だっ。一日も早くひなげしにプロポーズするんだっ」
気合十分のマラダイに、長女リスのナルが感動する。
「こんな真剣なマラダイ様、見たことないっ!」
次女リスのニナも感心する。
「本当にひなげしちゃんが好きなんですね。マラダイ様の純愛、応援しますっ!」
末っ子リスのノワも、精一杯励ます。
「もうすぐですよ、マラダイ様。思う存分、ひなげしちゃんとヤレる日は近いっ!」
惜しい! せっかくの純愛エピソードが、エロ落ちしておる。
とにもかくにも連日連夜の練習は続いた。
しかしお前たち、ほとんど仕事をしていないが、良いのか?
✵ ✵ ✵
その頃、首都ザラハドではまた様々な噂が立っておった。
「近頃、『ダンユ商会』が閉まってることが多いんだ」
「あ、そうそう。伝書カラスたちも、遠方からの注文書を持って、『ダンユ商会』の前で列をつくっていたわ」
「俺は『ダンユ商会』の中から、何やら怨念のこもった声がするのを訊いたぞ」
「僕は、それに合わせるようにあの看板リス達が、苦しそうに叫んでいるのを訊いた」
「なんですって!?」
「もしかして…」
「とうとうマラダイは…」
「ヤリ過ぎて気が狂ったとか?」
「もしかしたら、リス達に何か恐ろしい所業でも?」
「ど、動物実験とか…か?」
「まぁ、酷いっ!」
「…どうする?リス達を助けに行くか?」
「…でも、もしかしたらものすごい惨状を目にするかも…」
「手遅れって場合もあるな」
「わん(やっべぇ、ヘンな噂が立ってるぞ。何とかした方がいいんじゃねぇの?)」
「そうだね」
マリウスと犬は、ひそひそと噂話をしている男女の輪に近づいて行った。
そして、さり気なくこんな話をする。
「ねぇ、ポムポム。マラダイさん、何か凄い媚薬を開発中らしいよ」
「わん(ここは話を合わせるか)」
「でね、
「わん(へいへい、それから?)
「リス達もね、大興奮らしいよ」
「わん(へいへい、なるほど?)」
「これはこれは、領主様のご次男、マリウス様ではないですか」
噂話の輪にいた大柄な男が、そう言って近づいてきた。
「あ、こんにちは」
「マリウス様、いまの話は本当で?」
「え?いまの話?」
「ええ。マラダイさんが、何か凄い媚薬を開発中だとか?」
30代くらいのボンキュッボンの美人も、そう言って近寄ってくる。
「よくはわからないけど…僕、子供だから」
マリウスは上手いこと、とぼける。
「どんな媚薬なのかしらぁ?」
ボンキュッボンの美人が、期待溢れるまなざしをマリウスに注ぐ。
「お父様が言ってたことしかわからないけど、これまでにない凄いものだって」
「おいおい、マリウス様はまだ8歳だ。詳しいことは『ダンユ商会』が再開すれば、いずれわかるだろう」
「そうだな、これは楽しみだ」
寄ってきた、いかにもチャラそうな男もそう言う。
「じゃあ、リス達も大丈夫ってことね。よかったわ」
20代くらいのスレンダー美人も、ほっとした表情になった。
一様に安心した様子の男女は、マリウスと犬に手を振りながら散っていった。
「これで、ヘンな噂も立たなくなるね。ポムポム」
「わん(お前、いいヤツだな)」
確かに。
マラダイよ、マリウスには感謝しても、し足りないくらいじゃぞ。
「わん(このこと知ったらマラダイさん、俺らに感謝するだろうなぁ。いいってことよ、気にするなって)」
お前は何もしておらんし、感謝されることもないぞ、犬よ。
✵ ✵ ✵
さて、そんなこんながあったとは、ツユとも知らぬマラダイとリス達であったが。
とうとう、特訓の成果を見せる日がやってきた。
「中央広場なら雰囲気が良くて、告白ソングと踊りを披露するには絶好の舞台だと思います」
そんなマリウスの助言もあって、マラダイは花が咲き乱れ、噴水と女神の像がある中央広場にひなげしを呼び出していた。
マラダイが異国の歌と踊りで、異国式のプロポーズをするらしいと訊きつけた面々がギャラリーとして集まっていた。
その情報源であるサエコと夫のローラン、母上のパウラ様と父上のムスダス様、何故か領主のアサムド様にミーナ様とジュリアス様、マリウスと犬。
ひなげしのアパートの住人であるジェシカ、リモーネ、ドリスがそれぞれ今日のパートナーである男を連れて来ていた。
皆が待つ中へ、少々緊張した面持ちで歩み出るマラダイ。
後ろに続くリス3姉妹は、いつものお揃いのエプロンを外し、かわりに薄く透けるピンクのスカートをはいて、頭に花をあしらったカチューシャをしている。
マラダイは中央広場の下から5段目の階段に、CDプレーヤーを置いた。
リス3姉妹は、階段の最上段に並ぶ。
それからマラダイはギヤラリーの中央にいるひなげしを、じっと見つめた。マラダイの眼に熱がこもり、それを受け止めたひなげしの顔がかぁっと紅潮し、目が潤みだす。
明らかに相思相愛のふたりを、ギャラリーが無言で見守る。
「いくぞ」
マラダイがひなげしを真っ直ぐに見たまま、リス3姉妹にそう声をかけた。
「「「はいっ」」」
緊張しながらも、リス3姉妹が力強く答えた。
若干震える指で、マラダイは2曲目に入っているカラオケ・バージョンを選び、CDプレーヤーのスタートボタンを押した。
石川さゆりの魂を揺さぶる名曲、『天城越え』のメロディーが流れる。
ギャラリーたちは、初めて聴く曲調に興味津々じゃ。
隠しきれない移り香が いつしかあなたに染みついた
誰かに盗られるくらいなら あなたを殺していいですか
寝乱れて隠れ宿 ~(中略)~ あなた…山が燃える
くらくら燃える火をくぐり あなたと越えたい天城越え
覚悟を決めてしまえば、むしろ堂々と男らしい美声で謳い上げるマラダイ。歌詞の意味などわからぬであろうに、感情は見事にこの歌のソウルフルな本質をとらえていて、ギャラシーはしんと静まりかえって注視しておる。
マラダイの歌に合わせて踊るリス3姉妹も、まるで日本舞踊のように可憐な
「お母さん…お、お父さん」
その言葉にどんな思いが込められていたか、後にマラダイは知ることとなる。
歌い終わったマラダイは、訳のわからぬ感情に支配されて身動きすら取れずに静まりかえっているギャラリーの、その中央にいるひなげしのところへ歩み寄った。
そして
「ひなげし、キミだけを一生涯愛すると誓う。結婚してください」
「…は、はい」
ひなげしが小さな声でそう答え、恥じらいながら
「「「わぁ~!きゃー!」」」
「「「おめでとー!」」」
「「「よかった~!!ひなげし、マラダイ!」」」
「「「お幸せにねぇ~~!!」」」
「「「ヤリすぎんなよぉー!!!」」」
一部不謹慎な言葉があったような気がするが、まあ良い。
取りあえず、よかったのぅ、ひなげし、おっさん。
さて、ここで『ルキーニ王国プチ情報』じゃ。
ルキーニ王国では、プロポーズのときはこうして花束を渡す。
プロポーズが成功したら、速やかに領主館に結婚の書類を届け、受理されれば一緒に暮らすことができる。
結婚式を行う習慣はないが、かわりに1か月間の結婚休暇が与えられる。
多くのカップルは、その1か月をほぼベッドで過ごす。つまり歯に衣着せずに言えば、濃密なヤリ放題休暇ということじゃな。温泉のある海岸のコテージに旅するカップルもいるが、美しい景色を見ながらヤリ、温泉に浸かってはヤリ…つまりやることはたいして変わらないということじゃ。
婚約指輪も結婚指輪もないが、かわりにひと組のピアスを男は右耳、女は左耳につける。
…ん?
わしは何か、大事なことを忘れていたような…。
ああああ~~~~! そうであった!!
これは失態、わしとしたことがっ~~~~!!!!
「ぶ~ん(さぁ、どうなる?)」
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