第23話 ムスダス様は〇派(どうでもいい情報)

「お、お前。あたしたちを殺す気ですかっ!」

「そうよっ、笑い死ぬかと思ったわ」

「マ、マラダイよ。冗談がきつすぎる…」

 母親、妹、父親が肩を上下させ、呼吸を荒くしながら言った。

 いや、息子と兄の本当の恋を、ここまで笑う方が理不尽だと思うがの。


「冗談ではないです。俺は、やっと理想の相手を見つけたのです!」

 ここまで笑われても、マラダイは気を悪くした様子もなくそう言った。

「そ、それは、本当なのか?」

 今度は真顔で、父親が確認する。

「はい!」

「まぁっ!それなら、もうヤッテしまったのね?」

 さっきとはうって変わって、ギラギラと期待に満ち溢れた顔で母親が訊く。

「いえ、まだですけど?」


「「「ななな、なぜっ?」」」

 再び三人が、驚愕の表情で訊く。

「ルキーニ王国一の絶倫と言われるお前がなぜ?」

「このバカ息子、役立たず!その相手に限って、なにをもたもたしているの?」

「あ、もしかして、相手にはその気がないとか?」

 サエコの眼がキラリと意地悪く輝く。

「それなら、すぐに確かめなさい。我が息子よ」

「だからっ!そんなまだるっこしいことをしていないで、とにかくヤッテしまえばいいことじゃない!」

 パウラ様は過激じゃのぅ。


「いやぁ、そんな。俺はそののこと、大切にしたいんで」

「「「はぁあっ!!!」」」

 再び、驚愕の表情を浮かべる三人。

「パウラ、我が息子はヤリ過ぎて、頭がおかしくなったのだろうか?」

 狼狽えるムスダス様をギロッと睨むと、パウラ様はマラダイに言った。

「大切にしたいというのなら、速攻ヤッテ結婚して子供をつくればいいでしょう?」

 あくまでもヤルのが先決なのじゃな、パウラ様にとっては。


「ちょっと、マラダイ。じゃあ、そっちの方はどうしてるの?」

 サエコが訊きにくいことを単刀直入に訊く。さすがパウラ様の娘。

「え?ああ、そののことを想いながら毎晩何度もヌイテいる」

 ぬけぬけと、デレデレした顔で答えるマラダイ。気持ち悪いのぅ。


「ぶはっ!情けない!想像したくなくないっ!」

 サエコが再び笑い出すと、それに釣られるようにパウラ様とムスダス様も笑い出した。

「「「あ~はっはっは、あはははは、はははっ…く、苦しいっ、あははっ、ははっ…い、息ができないっ。くははははははははは」」」

 三人は揃っての大爆笑は、再び3分ほど続いた。

「「「ぜぃ…ぜぃぜぃぜぃ…。く、苦しい、苦しすぎる。お腹が痛いっ、はは、ははは、ああ苦しい」」」

 再び呼吸困難になって、やっと三人は笑うのを止めた。


「お、お前。あたしたちを殺す気ですかっ!」

「そうよっ、笑い死ぬかと思ったわ」

「マ、マラダイよ。もう勘弁してくれ…」

 これではさっきの繰り返しじゃ。話しが進まんのぅ。


「じゃ、もういいですか?」

 笑われるだけ笑われたマラダイは、つまらなさそうにそう言って立ち上がった。

「ちょ、ちょっと、待ちなさいっ!」

 パウラ様が、帰ろうとするマラダイを慌てて止める。

「そうじゃ、お前がそこまで大切?、にする女は誰なのだ?」

 やっとムスダス様が、初めて父親らしい質問をした。

「え?」

 また顔を赤らめて、もじもじするマラダイ。

「だからっ、気持ち悪いから、それ!名前は?年は?あたしの知ってる女?」

 そう訊いたサエコに、さらにもじもじしながらマラダイは答えた。

「知ってるっていうか、お前は雇い主?」

 サエコ一瞬ぽかんとした。それから…

「ええええ~~~~~~」

 大絶叫をした。

 マラダイがひなげしに夕食を持って行ったと訊いた時点で、気づかなかったのかな?ドS様よ。



✵ ✵ ✵


 その後、ひなげしについて情報を得ようとするパウラ様とムスダス様に、サエコがこれまでの経緯やひなげしの人となりを伝えることたっぷり一時間。


「なんと、日本という国から来た異世界人とは…」

 呆然とするムスダス様。

「その国は変わっているわね。不特定多数との婚前交渉は不潔と思われるなんて。ヤッテみないと、相性がいいかどうかわからないじゃないの」

 いや、パウラ様。霊玉の示すところによると、ルキーニ王国の方がまれじゃ。

「まぁ、あの奥手で初心うぶでまだ若いひなげしが恋の相手じゃ、最初から勝算はないわね」

 サエコがそう断言すると、パウラ様は悔しそうにマラダイを睨み、ムスダス様は肩を落とした。


「あのう、それがそうでもないんで」

 てへ、と照れたように笑いながらマラダイが言った。

 36歳おっさんのてへ顔は可愛くないぞ、むしろ気持ち悪い。

「なんですって!?」

 眼をくサエコ。

「勝算があるというの?」

 詰問するように身を乗り出すパウラ様。

「そそそ、その根拠は?」

 ムスダス様の顔も、めずらしく真剣になった。


「だって俺たち、交換日記してますから」


「「「交換日記???」」」

 なんじゃそれ?の顔になっている三人。

 仕方がないので、今度はマラダイが、交換日記なるものについてやその意味、それをすることになった経緯を説明する羽目になった。

 かくかくしかじか、こう言う訳で、と。


「なんと、まだるっこしい!」

 パウラ様が呆れ顔でうめく。

「しかし、その異世界人がそれを望むなら、せめてお前の良いところを目いっぱいアピールするのだ!」

 ムスダス様がそう言って、我がムスコじゃなくて息子を励ますように拳を握って見せた。

「俺の良いところ?」

 マラダイが思案顔になる。


「そうだな、まずセック〇が強い、しつこいくらい長い」

「一晩中でもできるくらいの絶倫、一日のほとんどはエロいことばかり考えている」

「女はとっかえひっかえ、3Pだってなんのその」

 ムスダス様、パウラ様、サエコよ。それをアピールしては逆効果じゃ。

 というか、この男の特長は親兄妹おやきょうだいから見ても、そこしかないのか。


「いや、むしろ『ダンユ商会』についてアピールしてはどうだ?何しろ国家事業として秘薬ピンキーノの製造を任されているのだから」

「そうね。ピンキーノだって手に入れ放題、子供が生まれた後も生涯妊娠の心配なく○ックスし放題」

「あれだけ女漁おんなあさりし尽くしたから、もう十分だし、結婚後は妻ひと筋になると思うし」

「あら、サエコ。ルキーニ王国の男女は大概みなそうじゃないの」

「あはは、そうだったわ、お母様」


「そう言えば、お前とローランも仲が良いな」

「あらあ、お父様とお母様には負けるわぁ」

「どうなの?ローランもなかなかのドМっぷりを発揮してくれていて?」

「いっや~ん、お母様ったらぁ。当たり前じゃないのっ!」

「ははは、サエコは本当にパウラ似だなぁ」

「で?ローランはどんなプレイが好きなの?」

「ロウソクか?それとも鞭か?」

「いっや~ん、そう言うお父様は縄派なわはでしょう?」

 話しがどんどん横道に逸れ、自分とは関係ない方向に暴走する隙に、マラダイはこそこそっと実家を後にしたのじゃった。



「ぶ~ん(ふむふむ、ムスダス様は縛られるのがお好き、と)」

 これ、ヴィ。余計な情報を仕入れるでない。

 耳年増の執事蜂など、可愛くないと思うぞ。

 おーほっほっほ。

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