第22話 イン〇詮議

「マラダイ様ぁ、またお母様から呼び出しだそうですよ」

 長女リスのナルが言う。

「はい、伝書カラスさんが運んできたお手紙」

 次女リスのニナが、遠慮がちに手紙を差し出す。

「見ないぞ、俺はっ」

 かたくなにそれを受け取ろうとしないマラダイに、末っ子リスのノワが言う。

「そんなことしたら、かえって大事おおごとになりますよぉ」


「いいんだっ。母上からの呼び出しは、いつもロクなことがない」

 そう言ってマラダイは、店の奥にある研究室(ピンキーノの製造や、新媚薬などを研究開発する部屋じゃな)に閉じ籠ってしまった。


「「「しょうがないなぁ」」」

 困り顔で顔を見合わせるリス3姉妹じゃった。


 それから小一時間ほどして。

「こんにちは~」

 やってきたのは、ローランだ。


「あれ、ローランさん。いらっしゃいませ」

 看板リスらしく、にこやかに迎える長女リスのナル。

「マラダイさんは?」

「え、えっとぉ」

 次女リスのニナが、どう誤魔化したものかと言葉を濁す。

「届いてるでしょ?お義母様からの手紙」

「やっぱ、その件ですか」

 末っ子リスのノワが、あきらめ顔で言う。


「だって1時間待っても一向に来ないから、連れて来いって命令が下ってね」

 ローランの声音にも顔にも、マラダイへの同情が滲んでいる。

「命令、ですかぁ」

 長女リスのナルが、顔を曇らせる。

「マラダイ様ったら、今回はいったい何をやらかしたんでしょう?」

 次女リスのニナが、そう探りを入れる。

「僕もよくわからないんだ。でもサエコもいるから、簡単には済まないと思うよ」

 ローランがそう教えてくれた。

「げ。サエコさんまでいるんですか?それ、マラダイ様、大ピンチじゃないですか!!」

 末っ子リスのノワが驚いたようにそう叫び、リス3姉妹は身を寄せて軽く震えあがった。

「うん、ごめんね」

 思わず謝ってしまう、気の優しいローラン。


 それからリス3姉妹とローランは、研究室に籠城したマラダイを1時間かけて説得したり、泣き落としたりしてやっとドアを開けさせることに成功した。


「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ~~~~~」

 暴れるマラダイを、ローランと御者が懸命に引きずって迎えの馬車に乗せる。

「マラダイさん、観念してください。どうせ、見逃してなんてもらえないんですから」

「そうですよ、旦那。あの奥様とサエコ様ですぜ。大人しく従うのが身のためです」

「うぐぐぐぐぐ~~~」

 退路を断たれたマラダイは、唸るしかなかった。


 かくして実家へ連行されたマラダイは、広間で待つ影の薄~い父と眉を吊り上げた恐ろしい形相の母と、その隣で腕を組んで睨みつける妹サエコの前へ連れ出された。

 マラダイはと言えば、これから死刑を宣告される罪人のように真っ青な表情で震えておった。


「マラダイ。今日呼び出された理由がわかりますか?」

 鬼の形相で、あたりの空気が凍りつくような冷たい声で、パウラ様がまず口を開いた。

「い、いえっ、いえっ」

 マラダイはそれだけでもう、縮み上がっている。

「マラダイ、街の噂は本当なの?」

 サエコが見下すような態度で、問い正す。

「街の噂?」

 マラダイには何のことかわからない。ここのところ、ひなげしのことばかり考えていて、街に女漁おんなあさりにも出ていないのだ。


「お前が、イ○ポ不能になったという噂です」

「は、はぁ?」

 パウラ様の単刀直入な言葉に、かえって思考がついて行かないマラダイ。

「嘆かわしい。『ダンユ商会』の後継者が、跡取りをもうける前にもう○ンポ不能になったなどと」

 父親のムスダス様がめずらしく口を挟んできたと思ったら、さめざめと泣き出すではないか。

「本当にっ、お前と来たらっ!大体、私の忠告も聞かずにその歳になるまでヤリ放題の淫乱三昧、その挙句にヤリ過ぎてイン○不能になったなんてっ!ダンユ家の恥さらしですっ」

 パウラ様が興奮した様子で、そう断じる。

「そうよ!ヤリ過ぎたくらいでイ○ポ不能になるなんて、なんというていたらく。マラダイも結局、そこいら辺にゴロゴロいる絶倫と大差なかったってことねっ!妹として恥ずかしいわ!」

 恥ずかしがるポイントが違う様じゃが、まあそれがダンユ家だとも言える。


「い、いや、あの」

 おろおろと誤解を解こうとするマラダイの言葉を、誰も訊こうとしない。まぁ、それはいつものことじゃが。

「それにしても、どうしましょう、あなた。これでは『ダンユ商会』ももう終わりだわ」

「そんなことは、できない。なんとかマラダイの○ンポ不能を治療してもらわなければ」

「そうね。取りあえず、1、2回だけでもいいからセッ〇スできる状態にしてもらって、すぐにでも子づくりをするのはどう?お母様」


「で、相手はどうするの?サエコ」

「この際、誰でもいいから。そうだ!マラダイのセフレを片っ端から集めて、結婚してもいいって相手を見つけるのはどう?」


「でもサエコ、マラダイの絶倫ぶりを知っているセフレ達が、マラダイの異変に気づかない訳がないのでは?」

「お父様、どうしよう!その前にマラダイのセフレ達なら、きっとこの噂はもう知っているわ!!」


「なんてこと!!それじゃあ、マラダイを知らない、行き遅れでも何でもいいから結婚したがっている女を隣り町からでもさらってきて…」

「お母様、それなら不細工でも若い女の方が、子供をバンバン生んでくれるんじゃ…」

 話しがどんどん物騒でえげつない方向へと向かっているが、いいのかマラダイ?



「あのう~」

 とうとうマラダイが、恐る恐る口を挟んだ。

「「なにっ?」」

 パウラ様とサエコが、同時にそう言ってマラダイをキッと睨む。

 怖さ倍増、見事なシンクロじゃ、さすがはドS母娘おやこ

「俺、別に不能になってないけど」

「「「えっ!!!」」」

 今度は三人が、同時に驚きの声を上げる。


「じゃ、じゃあ、どうして近頃、夜の街に出かけたり、女漁おんなあさりをしなくなったのよ?」

「…それは」

「「「それは?」」」

 パウラ様、サエコ、ムスダス様が声を揃えて、身を乗り出す。

 

「それは…俺が本当の恋を知ったからで…」

 ちっさなちっさな声でそう言うと、マラダイはあり得ないほど顔を赤くした。

「「「はっ?」」」

 あまりに小さな声過ぎて、よく聞こえなかった三人が訊き返す。

「だから…俺は初めて本当の恋をしたんです!」

 とうとうマラダイが、そう言って胸を張った。


「「「はぁっ?」」」

 今度は聞えたが、理解が追いつかなかったらしい。

「ちょ、ちょっと待って。マラダイ、いまお前、なんと?」

 パウラ様がそう訊き正す。

「ですから母上、俺は生涯で初めて本当の恋に落ちたのです!」

 観念したのか、いっそう誇らしげに胸を張るマラダイ。


「「「………」」」

 父親のムスダス、母親のパウラ、妹のサエコが揃って絶句し固まった。

 そして数分後。

「「「あ~はっはっは、あはははは、はははっ…く、苦しいっ、あははっ、ははっ…い、息ができないっ。くははははははははは」」」

 三人は揃って大爆笑をはじめた。そしてそれは3分ほど続いた。

「「「ぜぃ…ぜぃぜぃぜぃ…。く、苦しい、苦しすぎる。お腹が痛いっ、はは、ははは、ああ苦しい」」」

 物理的にこれ以上笑うと死んでしまいそうになって、ようやく三人は笑うのを止めた。

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