β034 冷戦キレル
この小惑星リュウグウノツカイと僕のふるさと空中庭園国の冷戦が切れた。
原因は、僕の国民服が船外服を着ていても分かってしまったことにあるようだ。
あんなに目立つ摩天楼の不時着よりも何よりも。
どこで、僕を見ているのだ。
それに、ミー、ミーと音がするのはどこだろう?
『空中庭園国のあなた。ここからあなたの母国が見えるのをお分かりですか? 我々は、大望遠鏡で日夜敵との攻防に明け暮れております』
「まて。まてー。ここから、空中庭園国が見えるのかい? 空中庭園国が? それ程に近傍だったのか!」
僕は、見通しの悪いクレーターの中から、上を向いて周囲を見渡す。
だが、窪みにいるので、恒星しか見えない。
月はどうしたのだ?
「CMAβ、あの空中庭園国が見えるかな?」
側を飛ぶCMAβに声を掛けたが、うんとは言わないので、綾織さんの『A』へアプリで語り掛ける。
「綾織さん、ここから空中庭園国が見えると言うのだが。何か僕らのふるさとらしき星は見つけられるかい? マップでは、もう少し離れていたと思ったのだが」
直ぐに、僕の『K』に返信が届いた。
「葛葉様。空中庭園国の件は、後でお話ししましょう」
もしや、消滅してしまったのか!
いや、消滅すれば、僕のパーソナルフォンにも異常が伝えられるはずだ。
ここは、リュウグウノツカイと上手く応答するしかないな。
「僕らの空中庭園国は、サイバー攻撃をしていない。ここに降り立った、初老のCMA157は、サイバーセキュリティの第一人者だ。聞いてみるといい」
マルクウは、攻撃を回避するだけだと聞く。
迎撃などモノレール内ニュースですら、流れていないよ。
『侵入者の母国はすべからく攻撃すべしとのリュウグウノツカイ
むむ、大惑星なのか。
遺言とは穏やかではないな。
『あなたの小指にあるコンピュータを破壊する』
「破壊って、オレンジの光線でか? 確実に僕の船外服が破ける。それに惑星アースへ惑星流しされる。止めてくれ」
いい迷惑だな。
それにしても、CMA156とCMA157の
『ミー、ミー。いや、我々が特化させたウイルスを送る。どうやって繋がっているかは、分かっているはずだ』
一人が使うのに十分なコンピュータ機能をそなえる、パーソナルフォンへのコンピュータウイルス対策は、個々に入っているのが原則だが、アップデートを怠ったりして、もったいないことになっている。
僕は、常にアップデートをしているが、この世界に来て以来、脆弱になっているのかも知れない。
「ちょっと待ってくれ。僕は、このネココちゃんを最適な環境にしていない。この子が亡くなったら、僕は哀しい。止めてくれないか」
ジッとオレンジの光線が小指を狙って来るので、僕は軽い重力の中、そっと回転して、避けた。
『あなたのコンピュータから、空中庭園国へ、今のと同じ光線を送り、冷戦で凍結していたネットワークを再開させる』
僕のパーソナルフォン、ネココちゃん狙いか。
えさを与えてしまったようだな。
「データが目的か? データの改ざん、破壊、悪用する為に収集することなど、データ一つとっても色々と危険にさらされている昨今、我が国の空中庭園国特殊国家保全対策推進室、マルクウも優秀だ。ただでは済まないぞ」
ブラフではないぞ。
マルクウの実力は。
あれから、立ち直っているに違いない。
データを暗号化して守ると言うのも僕なら『マリッジ◎マリッジ』の社員としてやらなければならないな。
ああ、秋月秘書に隠れて送られたマザー・コンピュータの悲鳴は、誰かに侵入されていたからだったのかな。
大手企業のサーバ攻撃もマルクウはテロと戦っていたのだろう。
企業への侵入は、侵入口が異なるだけで、空中庭園国への攻撃になっているからな。
しかし、旅立った際、CMAらは倒れていた。
立ち直っていると願ってはいても、やはり、ここで僕が止めなくてはならない。
太陽光発電システムの電気に頼りがちな母国が危ぶまれる。
どうする?
僕の長い考察は、リュウグウノツカイの方へ時間を与えてしまった。
『ミー、ミー、ミー! エナジー充填。ネットワーク解凍光線を宇宙空間
しまった!
「どこにその発射台があるんだ!」
僕は、カウントダウン百が始まると、すぐさま発射台を探し始めた。
「どこにもないな。発射台を探している。CMAβ、クレーター内にないか? 綾織さん、摩天楼付近には見えないか?」
協力して貰おう。
「今! 今、探します!」
綾織さんが、珍しく高い声で歩き始めた。
「分かった! ワタシも探す」
CMAβも心強い。
「僕も、あっちこっち探すよ」
目を皿にしているが、ちっとも見つからない。
発射台だぞ、目立つだろう?
「ああ、愛しい空中庭園国よ……」
ネット依存の高い社会になっている今、サイバー攻撃は、秩序を乱すため、大変な被害となり、国家転覆となるだろう。
古典的とも言われているインターネットも利用度が高い。
危ないサイトを閲覧したりした為、マルウェアに無頓着でいると、トロイから木馬がやって来る。
「は!」
僕は、最大のミスに気が付いた。
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