β032 正体不明のカゲ
この小さな小惑星も見ればクレーターでぼこぼこだ。
僕らもいつまでも船外服でいる訳にはいかない。
CMAらを探すのなら、短時間だ。
「ここにいたはずなのだが」
よく目を凝らすが、見当たらない。
しかし、元いた場所に、何故いないのか?
摩天楼が不時着できる程の奇跡的な大きさの小惑星だぞ。
ぐるっと見渡しても分からないとは、上手く影になっているのだな。
元沖悠飛だったCMA156、元沖悠宇治ノ清だったCMA157の二人。
ここへ置いて行くと確実に亡くなってしまう。
「再び信号を出してみるよ」
目の前にある、意思伝達アプリで、瞼の動きでアルファベットを拾う。
変換すると、こうだ。
『三、次、元、ポ、イ、ン、ト、し、ら、せ、た、し』
「それから、覚醒も促してみる。同じ船外服なら、目がチカチカする程眩しいはずだ。まるで、僕が丸山喜一医師に検査されていた時、睡眠時脳波を測定し終わったのを覚醒させるように」
あの点滅するオレンジの明りは忘れられない。
僕もあの時から、術中にはまっていた訳だ。
「私、CMAβとして葛葉様とライブで出逢っていたのを思い出しました。CMAβは、あの通りツンツン塩対応ですが、物事をはっきりさせたいタイプなので、勘弁してください。私は、ウェアラブルコンピュータで、ライブの中でもあなた一人だけが、あなただけがCMAβの瞳を通して見ていたのです」
綾織さんは、今朝のスープを思い出すかのように、出逢った感想を教えてくれた。
僕は、真っ赤になってしまった。
船外服の中だから、恥ずかしいのが分からなくていいと思ったが、この船外服は安全管理システムが働くようだった。
ビービー。
警報が僕の船外服内で響く。
心拍数百一。
心拍数百二。
綾織さんには、聞こえているだろうか?
どきっとして、振り返ってしまった。
目の前のパネルの『A』が点滅する。
僕は、『A』から、メッセージを受信した。
「葛葉様。心拍数が上がっているとのデータが共有されています。心配です」
胸きゅんしちゃうだろう!
これは、大事なメッセージだから、僕のナノムチップに保存したい。
ぜひとも。
「ええ? データはだだもれか。色々と心配事があるからね」
照れ隠し、照れ隠し。
◇◇◇
「綾織さんから、サイバー攻撃を小惑星からもされていると聞いたよ。他の惑星と小惑星を合わせて二百位は、空中庭園国へサイバー攻撃をしているともね」
この小惑星、リュウグウノツカイは、空中庭園国へサイバー攻撃していないよな?
先ず、人らしき気配がない。
しかし、生命体は、人の形をしているとは限らないからな。
まあ、今は、二人の行方不明CMAがいるが。
「空中庭園国は、あらゆる面で、サイバー攻撃に脆弱にできている。ソーラーパネルによる太陽光発電の一点だけの電源になっているからだ」
うん、ここからも惑星アース近傍とみえて、恒星がある。
エネルギー、光合成に必要なものだよな。
光合成をするに必要な水とかあるのかな?
「そうなったのは、古典の時代に核戦争で平和的利用とされて来た、原子力発電の全面撤廃を行ったからだと、エレメンタリースクールの頃には知らなければならないことだ」
コロニー・エーデルワイスと勘違いして、小さなコロニーに寄った時、僕は背筋が凍ったよ。
「僕は、エレジーの道中、ソレイユルネ・コロニーにもぐりこんで、分かったことがある」
ちっとも愉快なことではない。
「あの惑星アースは、一度、核戦争で、凍てついたのだろう」
だから、放射線で汚染されているとあったのか。
「僕のパーソナルフォンで起動する程に、IoTのエア・コンディショナーは、生きていたが、鼠一匹いなかった。それに、核シェルターを各ハウスで保持していたようだ。暮らしぶりから、富裕層もしくはそれに近しい者の暮らす所なのだろう」
それならば、残留の問題はどうだ?
随分と除染をしたのか。
「しかし、空中庭園国で配られている僕のガイガーカウンターは反応しなかったし、具合が悪くなった感じはしない」
僕は、大分独り言が続いてしまった。
共有している綾織さんには、話が抜けていると思う。
「この小惑星、リュウグウノツカイから、サイバー攻撃があるのかい? ふるさとの空中庭園国が機能マヒになったら、生きて行けないから、教えてくれないか」
◇◇◇
ガッガッガッガッガ……。
怪しい音がする。
そこは、二人のCMAが落ちたと思うクレーターのありそうな所だ。
僕は、バランスに気を付けながら、下を覗き込む。
太陽の影になっているが、何かが動いているのは、確かだった。
意思伝達アプリで、交信をするかためらった。
「これは、『A』でも『156』でも『157』でもない。綾織さん、僕は下へ降りて行ってみる」
緊張して話すと、アプリの文言にも表れるようだ。
「ここで、サイバー攻撃をしていたら、二百ある内のたった一つとなるが、探査し、戦うことができる」
どんなものがひそんでいるか分からないから、気を付けよう。
「分かりました。CMAβに飛翔を手伝って貰いましょう」
綾織さんから、特殊な力を持つCMAβが現われた。
「それは、ありがたいな」
僕は、がんばって行く。
だから、連携して行こう。
CMAβ、綾織さん!
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