β028 セキュリティ対戦
摩天楼のセキュリティか。
何かあるはずと、僕が、古代の六角形の操作パネル解明に当たっていた時だった。
「おおおおおおお……」
人工物の下の方、つまりは、摩天楼の最下層の方から嗚咽が聞こえた。
そう言えば、下へと消えたと思われる沖悠飛くんと父のCMA157は、どうしているだろうか。
CMA157は、マルクウにいたんだ。
セキュリティには明るいはずだ。
「クズハツクル様!」
後五分との綾織さんの声に、僕は、なんて甘い考えをしていたのかと思った。
ひなを探すのを餌に、息子の悠飛くん探しをさせたCMA157などを頼ろうとしていたなんて。
いや、それよりも自分以外にセキュリティ破りを手伝って貰おうだなんて、反省しきりだ。
……と、そこまで考えるのに、空中庭園国時刻で一分。
構っていられない。
――この摩天楼を飛ばすんだ!
「よし。準備は、いいかい。機体が揺れると思う。先ず座って、近くにあると思う赤茶のベルトをしてくれ。CMAβも気を付けて、綾織さんに従ってくれ」
僕が右に立ち、ネココちゃんが上方に目を光らせている。
左に綾織さんが、座って二点式シートベルトをする。
CMAβはウェアラブルコンピュータの主、綾織さんに一時退却させて貰った。
「何か、何か、キーになることがあるはずだ。意外と単純なキーワード絡んでいると思われる」
うんうんと唸る暇もない。
「エーデルワイスと打ち込んでみるか? エ,ー、デ、ル、ワ、イ、ス」
パンとタップしてエンターするが、無反応どころか古代の操舵席がギイギイときしんで反抗されてしまった。
エーデルワイスではない。
では、では、ネココちゃん?
そんな訳はない。
この子は僕のパーソナルフォンの愛称だ。
「まさか、綾織さん? とにかく、入力しよう。あ、や、お、り、し、い、ま。よし!」
グリーンの六角形をしたエンターマークにタップするが、またもやギイギイときしまれた。
ぐらりっ。
機体が揺れる。
鉛筆の芯が折れるように。
「ぐはあ!」
僕は、立っていたもので、揺れも激しく、摩天楼のセキュリティ解除が上手く行かないからと、操作盤をダンと叩いた。
すると、警戒する音が響き渡る。
キュイーンキュイーキュキュキュ。
僕の精神性が幼いことを恥じたが、お陰でいいこともあった。
「分かった! 目の前の機器の操作だけでは、ダメなんだ。僕の愛したキジトラ猫のネココちゃん……。ここへ、ここへおいで」
僕は、喉をくすぐるように、パーソナルフォンの案内役のネココちゃんを招いた。
「そして、綾織さんの白いエーデルワイスよ、主なる力を起こすのに力を貸して欲しい……!」
「わかりました。クズハツクル様のお役に立ちたいです!」
さすがに巫女なだけあってか、集中力が優れている。
いつくかの文言を唱え、綾織さんの白いエーデルワイスがリングが大きな輪の形に輝いた……!
「ネココちゃん、綾織さんとシンクロするんだ……! 前転して輪に入ってくれ。僕のネココちゃん!」
その先には、六角形ではなく、空中庭園国にあふれていた五角形のパネルがあり、僕の推理では、間違いなく主電源だ。
もう、エーデルワイス時刻も切れる――。
「これしかない!」
秒速でタップした。
タンッ。
――僕の心は、真っ白になった。
◇◇◇
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
ドゴオオオオオオ……。
ごう音と共に上下左右構わず揺れる。
「ゆ、揺れます!」
綾織さんも初めての経験のようだ。
こ、このまま行けばコロニー・エーデルワイスを飛び出すだろう。
ブフホオオオオ……。
このシートからは、外が見えないと思っていたが、レイシイの絡んだケビクマミをネココちゃんの光線ではらうと、視界ができきた。
高度な惑星アースの科学力を感じる。
「クズハツクル様。このまま上へ行くのでしょうか?」
珍しく、綾織さんからの質問だった。
僕はそれに首肯する。
揺れが激しくなり、脳ががくがくと音を立てているようだ。
綾織さんも気を付けて貰わないと。
「喋ると舌を噛むぞ」
ドゴオオ!
何故、パーソナルフォンのネココちゃんと同じくエーデルワイスが交差になければならなかったのだろう。
だが、その先に、五角形のパネルが唯一あった。
惑星アースでは、六角形ばかりで、空中庭園国では、五角形とは、何を表しているのだろうか?
五角形に六角形は……。
確か、布地から球体を作れるな。
小さい頃、かや乃母さんが、ボールを作ってくれたっけ。
僕もエレメンタリースクールの頃、ねだって作り方を教わったな。
それで、二つあったから、ひなとかっこうの遊び道具になったのだ。
では、この摩天楼に正五角形パネルが十二枚、正六角形パネルが二十枚あるのだろうか。
落ち着いたら探そう。
もし、この摩天楼にCMA157が乗っていたら、悪用されてはならない。
パーパーパーパー。
いくつかのパネルが、赤く光り出した。
冷静さが大切だ。
よく見よう。
五枚が六角形で、一枚が五角形だ。
「クズハツクル様、これは?」
「やってみるよ」
僕は、冗句のつもりもあって、懐かしい名を刻みこんだ。
六角形のレッドパネルに入力する。
「く、ず、は、ひ、な」
そして、五角形のグリーンパネルでエンターをする。
摩天楼が揺れるのと違う振動を感じた。
『ブブ……。ブブブブ……』
どこかからの救命艇から着信があった。
「はい、こちらは、クズハツクル。未だ惑星アースを抜け出ていないので、今は自由に動けない」
あ、断ってしまったが、大丈夫だろうか?
でも、僕らは対流圏で、圏界面にも達していないのだ。
『……創兄さん』
暫くの雑音が、僕を不安にさせた。
あれは、間違いなくひなの声だ
「なんだって?」
僕は、大きく後悔した。
大切な兄弟の糸がぷつりと切れた。
操舵パネルで今の救命艇をサーチし、メッセージを打ち込む。
「こちらは、クズハツクル。クズハツクルだ」
――僕は、摩天楼から、ひなと交信したのだろうか。
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