β009 CMAなのに
僕は、内偵について、CMA157にかまをかけた。
「沖悠飛くんについてですが、一度名を聞いたことがあります。綾織と名乗る女性から、彼が結婚相手を紹介する会社にいるらしいので、僕は知らないかと訊かれたのです」
「そうであったか。どこかで繋がりがあるのであろう」
初老のCMAは、初めて知ったようにうなずくが、いかんせん怪しげな点もある。
「僕は、『マリッジ◎マリッジ』の社員です。関係があるか調べたいのですが、鳳室長に頼まれた仕事を放り投げてしまいました。自社で内偵するのは、今は厳しい状態です」
「ここの施設を利用するのがいいのではないか」
僕は、ありがたくマルクウにて調査にあたった。
研究室のCMAは、CMA157を含めて十人いる。
二十代程度のハンサムな面差しに白髪で白いツナギを着ているのが、目立つ。
皆、AIなのだな。
命令系統はどこから来ているのだろうか?
僕の持っているパーソナルフォンに比べたら、格段の差がある情報処理機能を巧みに操作している。
優秀なのだな。
みようみまねで、参加させて貰う。
「葛葉創くん、ゲストとして参加してはどうであるか」
「お願いします」
CMA157が自身のパーソナルフォンで、僕をゲストとして認証させ、ログイン可能な状態にしてくれた。
お陰で、いつものお見合い写真修正とは違う、やりがいのある仕事を始められた。
先ずは、接点の綾織という女性について、パーソナルデータを探ろう。
ウィンドウは、瞬く間にオープンした。
適切かと思われる『結婚適齢期』のブロックアプリをインストールすると、正十二面体がくるくると回って存在をアピールした。
ゲージが満タンとなり、アプリを開くと、タヌキさんとは違って、巫女アイドル姿のCMAβが現れた。
「CMAβ!」
思わず叫んでしまった。
どこをどう見ても等身大のCMAβだ。
こんな手の届く所に……!
『リョウカイしました。ワタシは、CMAβです』
CMAβのホログラムは、使用方法を手厚くリードしてくれた。
ライブのCMAβのツンツン塩対応が全くない!
これは、願望によるマスコットキャラクターなのか?
性格が普通過ぎるから、CMAβもどきだよな……。
「僕は、綾織さんも国民なのだから、どこかに勤務していると思う。勤務先を調べたい」
『綾織さん。リョウカイしました』
五角形のパネルが二つ現れたので、僕は両手でタッチした。
パネルの中で、ぐっぐっぐっと五芒星が膨れ上がって来る。
一人、二人と顔が流れていき、しだいには、ザーザーと高速でデータが走っていく。
お願いだ。
何とか、ひなに繋がりたいんだ。
綾織さんに存在して欲しい。
『――ピッ。ヒットがありました』
二件もあるのか。
左右の五芒星に簡単なデータが表示される。
一つは、
そうだな……。
若い女性の声だったと思う。
「綾織志惟真さんの詳しいデータを提示してくれ」
僕も少し慣れて来たのか、タップして、五芒星に膨らむパネルを要求した。
『リョウカイしました』
その一言の後で、CMAβがぎしりと止まってしまった。
「ん? 僕に操作をさせてくれ、CMAβ」
どうしたんだ。
ぎしりとは、なんなのだ?
CMAβが正常に動かないかと慌てて対応している時だった。
マルクウの研究室中に、エラーを知らせるけたたましい音がした。
ピーピーピーピー!
ピーピーピーピー!
「どこにいるのだ。CMA157! 鳴り止まないが? 僕はまだ捜査を終えていない」
音の発信源は、各CMAだった。
次々と、AIのCMA達が立ち上がる。
皆、白いので、何かの山が動いたようだ。
『
ピーピーピーピー!
ざっざっざっと行進しながら、データを書き換えて行く。
『
ピーピーピーピー!
ざっざっざっと行進しながら、新規データを立ち上げる。
『
ピーピーピーピー!
ざっざっざっと行進しながら、各ウィンドウは閉ざされて行く。
――空中庭園暦二十五年三四二日、三年前の労働改革以来の騒動が起きた。
これは、CMAの反乱か……!
僕は、隣にいたやわらかそうな肌のCMA513に殴られそうになったので、手元にあった何かのボードで防ごうとした。
だが、ボードごと割られて、僕は直撃を食らった。
「何故だ……? 先程まで、従順に働いていたのではなかったのか?」
初老のCMA157が、泥を吐くようにこぼした。
「私は、AIではなく、ただの老いた人間である。ふ、ふふふ」
狂気じみた笑いを天井に向けた。
この混乱の最中、更に混乱を招いた。
僕にとっては、敵であっても味方につけたい存在だったのだが。
「私は、沖悠飛の父親である。彼のやらかした爪痕を補修すべく、マルクウを立ち上げた。この国のサイバーセキュリティは、マルクウで担うのである」
この台詞を頭で繰り返し流されながら、僕は気が遠のいて行った。
覚えのある感覚だ。
――とろとろとろと、耳に心地よいせせらぎのような音が流れ、僕は聞き覚えのある声に包まれた。
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