β008 マルクウと創
リムジンはチューブを抜け、普通サイズのドームに入った空中庭園国特殊国家保全対策推進室の手前で僕を降ろした。
マルクウの建物を初めて見るが、教科書で見た本惑星アースを象徴するピラミッドによく似た
カーテンウォール工法と見受けられ、採光に美しく、虹に似ている。
それ程大きくないのは、攻撃を回避する為か?
パーソナルフォンは認証が厳しいのに、ゲートは自動ですんなり入れた。
がらんとした中は、螺鈿細工のような綺麗な床一面しかないことが分かった。
ご相談窓口らしきものもなく、いかつい男性が仁王立ちしているのみだ。
「僕は、葛葉創と申します。マルクウにご相談があるのですが、どなたかとお話しできますでしょうか?」
僕はひやひやして声を掛けたが、男性はアルカイックスマイルで応じてくれた。
「空中庭園国特殊国家保全対策推進室へのご用向きは、
「はあ? CMA024だって?」
CMAβと関係があるのだろうな。
むしろ、思いっきり紐づけがある。
ここは、僕にとって味方となるのか敵となるのか、慎重にしなければならない。
「CMA024は、葛葉創様を攻撃しません。ご安心ください」
何もない床の模様だと思っていた五角形パネルの中から、螺鈿細工をうつし込むガラスの椅子とミニテーブル、そして僕好みのカフェがせり上る。
「こちらで、しばらくお待ちください」
窓口の男性は、胸に手を当てると、正十二面体のホログラムをオープンし、僕に音声メッセージを吹き込むように促した。
「初めまして。葛葉創と申します。妹の葛葉ひなが行方不明になりました。様子から、誘拐だと思われます。そこで、パーソナルフォンが残されているのですが、何か捜査はできないでしょうか? よろしくお願いいたします」
ふう。
簡潔に伝えられただろうか。
「承りました。自分がAIのCMA024です」
「なんだって?」
このCMA024は、AIなのか。
人と区別がつかない位に精巧だな。
驚きの技術が結晶している。
だが、恐ろしいのはそれだけではない。
人は、正しく命令できるのかが肝心だと思う。
「このウィンドウに、右手に持っている葛葉ひな様のパーソナルフォンをかざしてください」
「はい」
何か、分かってくれるといいが。
「このパーソナルフォンは、ロックされています。ウィンドウの起動もできません」
「どうしてだろうか? ひなは、生きているのか?」
僕が生きているのは、ひなに笑顔でいて欲しいから。
だから、生きていて……。
「死亡した証拠にも、生きている証拠にもなりません」
「今は、これしか頼みの綱がないのに。もう、行き詰まりか?」
僕は、いただいたカフェを見つめるばかりだ。
「地下にある空中庭園国特殊国家保全対策推進室に依頼に行きましょう。CMA024は、ここの要員ですから、動けません。案内に
ものの数分で、さっきのテーブルとは違う、床の五角形パネルからせり上がって来たのは、初老の男性だった。
まさか、CMA157とはこの検査服を着た男性なのか?
「ようこそ、葛葉創くん。私がCMA157である」
「初めまして」
僕は、次々と現れるCMAに戸惑っている。
「話がある。地下にあるマルクウに来て欲しい」
「分かりました」
話って、勿論、ひなのことだよな。
チューブの中をボードに乗ってすすうっと高速で降りると、地下といっても驚く程に天井が高い研究室に案内された。
僕は、マルクウとはもっと配線機器や古典的なキーボードに囲まれているものだと思った。
いくつかの起動しているウィンドウは、僕らの使用しているアプリの正十二面体をオープンしている。
それに、人員は少なくて、十人しかいない。
これだけで、空中庭園国の全てを担っているのだろうか。
「ここにいるのは、全てCMAだ。人はこのフロアにはいない」
このフロアということは、どこかに人がいるのだな。
しかし、AIのみで仕事をするのは、危険な気がする。
「葛葉創くんは、葛葉ひなさんを奪われて憎くないか? 人は、憎しみを抱くらしい」
「……それは否めないです」
元々、ひなを探しに来たのだが、誘拐した犯人を捕らえたい気持ちもある。
それが、戦いだと思う。
CMA157が、僕にある嫌な気持ちを掘り起こした。
「葛葉創くん、内偵に興味がないか? 可愛い妹さんを取り戻して溜飲が下がる思いを保証しよう」
初老のCMAが、僕の気持ちを見透かしているように思えた。
怖いな。
「沖悠飛くんにコンタクトを取り、機密事項、沖悠飛くんのβコードを探ってくれ。『βXXXXX0412』と、前方が不明なのだ。このβコードを知ると、妹さんのひなさんの所に行けると思う」
初老のCMAに、何故かと言いかけた。
愚問だ。
僕は、無条件にひなを救う気持ちで一杯なのだ。
今日は、三四一日だ。
明日の九時までに、鳳室長にナノムチップを持っていく約束があるけれども。
それも愚問だな。
ゴーゴー。
こんな所にも聞こえてきて驚いた。
清浄の鐘が鳴っている!
翌日の昼だ。
昼を過ぎてしまった!
「今は、会社のことを忘れます。僕に、沖悠飛くんのβコード探しを手伝わせてください」
僕には、これしかない。
沖悠飛くん、どこにいる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます