第2話

『先輩へ。

 佐々木由紀子は、三月末をもってこの街を離れます。

 本当は、先輩と一緒に新入部員の勧誘をしたかったんですけど……。

 私が一人で残る事を、親は許してくれませんでした。

 ずっと、言わなきゃとは思ってたんですよ? ……思ってたんですけどね、結局、最後まで言えませんでした。

 言ってしまったらもう離れられなくなってしまうと思いましたので。


 先輩が、一人で新入部員の勧誘が出来るかとっても心配です。

 だって先輩、朴念仁だから。

 もっと笑った方がいいと思いますよ?



 そうそう。朴念仁と言えば、ですけど。

 朴念仁って、“無愛想”って意味だけじゃないんですよね。

 ――“”、です。

 知ってましたか?


 今、「そんな事は知っている」とか思いました?

 私が聞いたのは、朴念仁のの事じゃないですよ?




 私、先輩の事が好きだったんです。

 私が文芸部に入ったのも先輩が居たからですし。

 ……言っときますけど(書いときますけどかな?)、池田先輩とか佐藤先輩とかの事じゃないですからね?

 いや、もちろん嫌いじゃなかったですけど……あぁもう、そういうのはいいですから。

 私が先輩とだけ言う時は、先輩の事なんです!

 この際だから勢いに任せて書きますけど、一目惚れだったんですよ?!

 私が! あんなに無愛想な! 先輩に!!!


 ……まぁ、結局最後まで言えませんでしたけど。

 言っても困らせるだけだったでしょうし。

 それとも、困らせる事すらなかったのかもしれないですね。

 今、困ってもらってたら、それだけでちょっと嬉しいかも、なんて……。



 閑話休題(これ、一回使ってみたかったんです)。

 去年の部誌の題材テーマは“卒業”でしたね。

 作品は出しましたけど、それとは別に。

 私は、先輩から、卒業したいと思います。

 ……そもそも入学すらしていませんでしたけどー。

 だから、先輩も。

 朴念仁から、卒業して下さいね?

 ちょっとくらいは愛想を良くしないと、新入部員が入ってくれませんから。

 出来れば同好会になるよりも、私と先輩がいた、文芸部を残してくれると、嬉しいです。

 ――以上、不出来な後輩『ゆき』より』

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