第20話 宮沢賢治 風の又三郎/異世界人エム
「おやおや、楽しそうですねぇ」
奥から羽織袴のイケメン店主...テイが歩いて来た。
「あ、店長さん!どうも!」
夏子は元気よく挨拶をする。
エリカはイシュティルから離れて軽く会釈した。
テイも軽くお辞儀し、エリカの方を見る。
「エリカさん、体調の具合はどうですか?」
「はい、お陰様でこの通り元気です」
「それは良かった...イシュと遊んでいたのですか...?」
テイは、顔を赤く染めたイシュティルと、艶やかな表情をしたエリカを交互に見る。
「あ、ごめんなさい...つい可愛くて」
「ははは...全然構いませんよ?良かったですね、イシュ」
テイは笑いながらイシュティルの方をじっと見つめた。
イシュティルは目を逸らして少し怒り気味に反論する。
「なんでテイが決めるんだ!」
「まぁまぁイシュが楽しそうで何より。異世界では浮いていましたもんね?」
「うぅ...お師匠ぐらいしか仲良い人が居ないのは事実だけどさ...」
二人の会話に夏子はお師匠について気になったのか、会話に割り込んで来た。
「あのあの!結構前から気になってたんですがお師匠さんってどんな方なんですか?」
テイとイシュティルは、夏子の方へ向き、一旦目を合わせて頷く。
そしてまた夏子の方へ向いてイシュティルはこう答えた。
「えっと、何というか...傍若無人な方で誰にでも優しくて人望が厚いっていえばいいのか...。面倒見がいい...かな?」
「うんそうですねぇ。イシュも彼に助けられましたからねぇ。随分懐いてましたね」
夏子は彼というワードに反応する。
「男の人?」
「ええそうですよ。彼のお仲間も居ましたね」
「テイ、彼女の話は寄せ。私はあいつが嫌いだ」
ふーん...女の人...かぁ
エリカは心の中で想像した。
女の人で異世界人...冒険者をしているのだろうか?
かっこいいなぁ...と。
「エリカさん、ケーキありがとうございます。スウェルから聞きました。しかし助かって本当に良かった...。我々も安心しましたよ」
「あ、いえ此方(こちら)こそ助けて貰ってばかりで...」
テイは申し訳なさそうに手を振る。
「そんな滅相もない...気にしないでくださいね」
夏子は彼女の幼馴染みについての事を言っていいか尋ねた。
「...ねぇねぇ、あの子の事言ってもいい?」
「いいよ。私が言おうと思ってたけど」
「えぇ?...じゃあどうぞ...」
夏子に背中を押され、エリカは感謝しながらテイに聞くことに。
「テイさん、ちょっとお聞きしたい事がありまして」
エリカはテイに彼女の幼馴染、風邪宮風夏の事を多少省略はしたものの、話してみた。
その上で彼なら彼女にどんな文庫本を勧めるか聞いた。
「なるほど...壮絶なお思いをされてらした幼馴染様が...うーんそうですねぇ。私なら童話作家の宮沢賢治の本を読ませてみようかと思いますかね...。童話作家とだけあって短編で読みやすく、とても面白いと思いますよ。内容は...」
風邪の又三郎
夏休み明けの9月1日、クラスが1つしかない小さな学校に一風変わった男の子が転校してきた。
彼は赤毛で、父親の会社の都合でモリブデンという鉱石が採れるという事で北海道から来た、高田三郎という名だそうだ。
ねずみ色のだぶだぶ上着に白いズボン、赤い皮の半靴という身なりで、顔が熟したリンゴのようで目はまん丸の真っ黒。オマケに言葉が通じなかった。
三郎は色々と噂する級友に顔を向けると、風が吹き教室の窓がガタガタ震えだし、それを見た5年生の級友嘉助(カスケ)が三郎の事を、風の又三郎だとそういった。
2日目、三郎は級友らにおはようと挨拶をするが、先生以外に挨拶する習慣が無かった為、級友らは、もにゃもにゃと何を言ってるかよくわからないような返事をしてしまう。
算数の授業中、隣の席の4年生の佐太郎が、2年生の妹のかよから鉛筆を取り上げて泣いてる妹を見ていた三郎は、たった一本しかない鉛筆を佐太郎にあげて、三郎は小さな消し炭で計算を書いていた。
3日目、級友が集まって三郎と待ち合わせし、三郎の家の近くの野原まで遊びに行った。嘉助は馬の草刈りをしてる級友一郎の兄がおり、危ないから土手の中で遊べと言われ、級友たちは競馬ごっこをするが、馬が2頭飛び出してしまい嘉助は深い霧の中で倒れてしまう。
彼はガラスのマントとガラスの靴を履いて空を飛ぶ三郎の夢を見て、目を覚ますとそこには馬と三郎がいて後から一郎らがきて助かった。
ここで嘉助は三郎を風の又三郎だと再認識する。
4日目、彼は学校が終わるとブドウ畑に行くことに。そこで級友耕介が三郎に意地悪をする。三郎は仕返しに栗の木を揺らし、耕介に悪戯をするも喧嘩に発展するがお互い仲直りし、一郎は三郎にブドウを、三郎は級友らに栗を分け与え、仲良く帰る。
5日目、彼らは川に行くことに。大人が爆発させて魚を大量にとろうとするも気付かぬふりをして石取りをした。爆発したら横向きで魚が大量に手に入り、小さな生簀(いけす)に魚を取り込んだが三郎は大人に返すよと魚を置いた。
わらじの大人がこちらに寄ってくるが、わらじを洗っていた為、川を汚すなと子供たちは大人に大きな声で追い返した。
6日目、佐太郎は学校に魚の毒もみに使う山椒(さんしょう)の粉をもってくる。級友らは川に行くが魚が全然浮かんでこないため鬼ごっこをして遊ぶ。
すると嵐がおきて、どこからともなく 雨はざっこざっこ雨三郎、風邪はどっこどっこ又三郎と言うが、三郎はお前達が言うたのかと問うが、級友らは違うと答えるばかりだった。
7日目、酷い風が吹いていて、一郎は喜助を誘って早めに学校に行くことに。
先生がやってきてモリブデンを採らない事になったから母の元に帰って言ったと聞かされた。
「...とこんなお話です」
「不思議な話ですね...」
エリカは興味深そうに話を聞いていたが、うずうずしていた夏子は痺れを切らしたのか
「結局三郎は人間なんですか?」
と質問した。
「結局作者は正体を隠したまま終わらせたので分からないんですよね」
テイは残念そうに答える。
「因みにテイは宮沢賢治はあまり好かないんです。なのでちょっとめちゃくちゃな所も有るかもですね。童話自体読まないので」
スウェルがそういいながらお茶を運びながら近づいてきた。
そして席に招かれ、夏子とエリカは座り、お茶を頂いた。
「恥ずかしいですね。にわかなのでちょっと間違ってますかも...解釈も良くわかりませんし...」
テイは申し訳なさそうな表情をしながら頬を掻く。
「仕方ないです。童話なんですもん。空想上の作り話に過ぎないでしょう」
エリカはそういいながらお茶を啜(すす)る。
テイは彼女のその堂々としたる姿を見てクスッと笑った。
「ふふ、そうですね。楽しめれば何よりですもの。ではこれを...」
テイは本棚にしまってあった宮沢賢治の文庫本を取り出してエリカに手渡す。
エリカは椅子に座ったまま、その本を貰い、表紙を確認する。
宮沢賢治 風の又三郎 短編集だ。
「是非これをプレゼントしてあげてください。他にも有名な短編集が沢山有りますから楽しめると思いますよ」
テイは微笑んだ。
「うわぁ!いいんですか?とても喜びますよ!」
「お役に立てたのなら何よりです」
夏子は周りをキョロキョロし始めた。
「あれ?今日はニカさん居ないんですか?」
「ニカは本日の晩御飯の材料を買ってきてもらっています。もうすぐ帰って来ると思いますよ?あ、因みに今日は...」
テイが何か言おうとした瞬間、店のドアが開いた。
エリカが振り向くと、そこには大量の荷物を持ったニカと見慣れない女の子が居た。
「あら、噂をすれば何とやらですね。お疲れ様です、ニカ、エム」
「テイ!あ、お客様来てらしたんですね!いらっしゃいませ!」
「あ、どうもです」
エリカは思わず躊躇(ためら)った声で返事をした。
夏子はというと、エムをずっと見つめていた。
「どうしましたか?お嬢さん。私の顔になにかついていますか?」
「いえ!余りにもお美しかったものですから」
夏子は笑いながら誤魔化す。
「あら、ありがとうございます」
「エム、この方達が例のお客様です。ニカ、エム。お二人はさん付けで呼んでほしいとの御要望が御座いましたので考慮願いたい」
「わかった!」
「分かりました、テイさん」
ニカとエムが返事をした。
「右からエリカさん、夏子さんです。そして此方(こちら)はエム。我々と同じ異世界の民です」
テイが答えるとエムは此方を見て、お辞儀をする。
「初めましてエムです。どうぞよろしくお願いします」
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