第19話 男の娘イシュティル

  夏子とエリカは身支度を整え、早めに家を出た、

  異世界書房まで大分距離がある為、丁度いいだろうとのエリカの判断だ。

  季節は梅雨に入っているのだが、運がいいのか晴天だった。


 「最近天気いいよねー」


  夏子は空を眺めながら呟いた。


 「うん、あーなんか暖かい」

 「天気がいいからじゃない?」

 「そうだね。大分乾燥してる...」

 「あはは、確かに乾燥してる。リップ付けないとカサカサだもん」


  そういって夏子はカバンから自前のリップを取り出して唇に塗り始めた。

  塗り終わり夏子はエリカにも渡したが、衛生面の心配で断っていた。

 

 「ちぇ〜」

 「当たり前でしょ。嫌だよ」

 「ふーん。キスしたのに?」


  夏子に突かれて赤面する


 「そ、それとこれは別!」

 「あはは、そうかい。あ、乾燥って言えば唇もそうなんだけどさ」


  夏子はカバンからハンドクリームを取り出した。


 「女の子と言えば手の乾燥!手元は周りの人見るって言うし、プルプルのお肌で大人の女!って感じに見せなきゃ!」

 「ハンドクリーム?...私塗った事ないなぁ」

 「だめだよー、ほら手を出して」


  夏子に言われ、エリカは両手を差し出し、夏子は馴れた手つきでハンドクリームを塗りたくった。

  全身に行き渡るよう、丁寧に撫で回しながら塗ってきた為、摩擦(まさつ)熱でちゃっと暖かくなった。


 「これでばっちり!保湿効果が高めのハンドクリームだから期待してていいよ」

 「ありがとう。暖かいし湿っていてなんかヘン」

 「カサカサしてたからそんなもんでしょ。女の子の肌はいつだって潤(うるお)ってなきゃ!」

 「はは。夏子ちゃんはお洒落だねぇ。可愛いし」

 「そ、そう?」


  夏子は頬を染める


 「私より女の子っぽいしさ」

 「うー、エリカちゃん顔めちゃくちゃ可愛いからなぁ。身長小さいし」


  エリカはちょっとムッとなった。


 「私のコンプレックス、掘り起こさないで。どーせチビですよーだ」

 「ごめんごめん、そんな怒らないでー!」

 

  エリカは早足で歩き始める。

  それに追いかけてるように夏子もまた、早足で歩き始めた。


  二人は異世界書房に着いた。


 「お邪魔しまーす」


  エリカが小声で挨拶する。


 「お、お邪魔しまぁす...」


  夏子は知らない人の家にお邪魔するような、そんな感じで挨拶した。


 「いらっしゃいませ」

 

  スウェルが出迎えてくれた。

  彼は現在進行形で本の整理をしている。

  彼の持つ本は児童向けの本だった。


 「子供向けの本も仕入れているんですか?」

 

  エリカは尋ねた。


 「はい、なかなかあちらの世界の子供に受けがいいものでして」

 

  そう答えながら彼に


 「あの、イシュティアさんが私を助けてくれましたよね?...御礼にこのケーキ焼いたので食べてもらいたいです」


  例の事件の御礼にと、ケーキを差し出すエリカに、少々驚いた表情をするも彼は素直に受け取った。


 「そんな、助けたのは確かにイシュですが当然な事をしたまでって彼はそう言ってましたし、クッキーに続いてこんな立派なケーキまで...折角作って下さったのでありがたく頂戴致します。ありがとうございます」


  彼はお辞儀をする。

  それを横目に見ていたイシュティルが出てきて


 「お客様、おかげは御座いませんでしたか?」


  と、エリカの心配をした。


 「全然元気ですよ!それよりどうやって助けていただいたんですか?確かに私、刺された様な気がするんですが...」


  彼女の疑問にイシュティルは言おうか迷ったが、ケーキの御礼にと話すことを決めた。


 「...ケーキの御礼に話しましょう。時間を巻き戻す呪文を使ったんです。部分的時間逆行魔法って言って、一部分だけ座標を決めて、時間を巻き戻しました。ですのでその周りにいた人の記憶には残ってませんからニュースにも取り上げられませんでしたね。私の師匠は全ての範囲の時間を巻き戻したり、時間を止める事が出来る御方で私はちょっとその域まで辿り着かなかった者で悔しいです。今も修行してます」


  師匠がやばいと二人は思いつつも心の中で、そこまで使えるようになったら何するんだよ!と突っ込んだ。


 「夏子様...この魔法はどんな属性から発動してると思いますか?」

 

 「あーそのーイシュティルさん?その...」


  夏子は申し訳なさそうに頬を掻きながらイシュティルに言う。


 「はい。如何(いかが)なさいました?」

 「その、様付けは辞めてほしいかなぁって...ねぇエリカ!」


  投げやがった...


 「え、う、うん。これからもお付き合いが長くなりそうですし素直に仲良くしたいなぁって...」


  エリカがそういった後にイシュティルとスウェルがお互いの目を合わせて笑い合う。


 「あはは...気にしてらしたんですね。申し訳ございませんエリカさん、夏子さん。ほらイシュも、」


  イシュティルは可愛らしく恥ずかしそうに


 「な、夏子さん...エ、エリカさん...」


  と答えてくれ、彼女らは萌えた。


 「えっと光ですか?」

 「えっ?あ、はいそうです」


  イシュティルの問いに答えた夏子に対し、惚(とぼ)けた声で返事をしてしまうイシュティル。

  彼は彼女らに対しての今までの意識の変化と云うものが、頭の中で急に変わってしまっていたのだ。


 「ふふふ、イシュティルさん可愛いです」

 

  エリカは笑いながらイシュティルをいじらしく笑う。


 「エ、エリカさん。そんな事は...」


  イシュティルはエリカに言われて事で顔を赤らめて慌てふためく。

  その様子が尤も可愛らしさを引き立っていた。


  スウェルは微笑みながら


 「ふふ、イシュは言われ慣れているのでそういった反応をするのは意外でした。イシュを余りに苛めないで下さいね」


  と、持っていたケーキを奥にしまって行った。


 「イシュティルさん、本当に男の子なんですか?」


  夏子がじっとイシュティルの顔を覗き込む。


 「そ、その前にも申し上げました通り...です」

 「ふーん、でも姿を変えているんでしたっけ...?元はもしかして...」

 「元も男ですよ!」

 「あら残念です」


  エリカは彼の必死さに笑う。

  彼は見た目は身長がエリカと同じくらいかそれより低く、目はまん丸で紅い目をしており、髪の毛もエリカに似せて銀髪である。お前に細身。

  その美貌はまるでお人形さんの様であり、誰がどう見ても可愛らしい女の子にしか見えなかった。


 「イシュティルさん」


  エリカが微笑みながら近づく。

  それに怯えるも彼は答えた。


 「な、何でしょうか?エリカさん...」


  エリカは手を差し出して


 「頭を撫でてもよろしいでしょうか?あと抱きついて見たいです」


  と、上目遣い...は難しかったが少々ぶりっ子を演出するかの様なわざとらしい甘い声で誘惑する。

  エリカ自身こんな真似をする事は人生初であろう。

  夏子は隣で吹いていた。


 「え、え、まぁ少しなら...」


  彼は了承したのである。

  エリカも彼は嫌がる姿を見たかった為、少々の意地悪のつもりだったがこれも本望である為、遠慮なく彼に近づき、抱きついて頭を撫でた。


 「うわぁーとてもいい匂いしますね!髪の毛もさらさらー!よしよし」

 「うう...恥ずかしいです...早く終わらせてください...」

 「はい!勿論ですとも!」


  夏子は見ていて物欲しそうな目で見ていた。

  エリカは彼女も誘い、一緒に抱きつき撫でることを実行した。


  一方イシュティルは余りの恥ずかしさに目を閉じて、抱きついてきたエリカの胸に顔を埋めて居た。

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