第16話 芥川龍之介 羅生門

 「ふぁぁぁおはよぉぉぉ」


  夏子は両手を上げながら、大きな欠伸(あくび)をして目を擦(こす)る。


 「...グゥ」

 「まだ寝てるのー?おーいー」

 

  夏子はクマのぬいぐるみに抱きついて寝ているエリカの肩を掴んで揺さぶる。


 「...うぅん......」


  エリカはゆっくりと目を開けた。


 「...あへ?あつこちゃん?」

 「あつこって誰よ...」


  寝ぼけてるエリカは、夏子をじっと見つめている。

  彼女の目の焦点が動かない。


 「...おーい?」


  夏子がエリカの目の前を手で振ってみると、彼女はバタンと倒れ、2度寝し始めた。

 

 「えぇ...んーー!」


  夏子は再度手を伸ばし、肩甲骨を伸ばした。


 「エリカちゃーん!」


  痺れを切らした夏子は、エリカの首まで近づき


 「ふぅ...」


  と息を吐いた。


 「...ヒィィ!!」


  びっくりしたエリカは上半身が、神経を締められた魚の様にビクンッ!と反応して起き上がった。

  それを見た夏子は笑いながら


 「朝だぞーエリカちゃん」


  と、寝起きのエリカのおでこにキスをした。

  エリカは周りをキョロキョロしていた。


 「...おはよう...」

 「お、おはよう...テンション低いね?」

 「...うーん眠い」


  朝が弱い彼女はベッドから降りて大きく体を伸ばし、ラジオ体操の様な真似事を軽くこなして部屋から出た。

  黙って出ていった為、夏子も思わず着いていくことに。



  リビングには朝ごはんが用意されていた。

 

 「あ、お母さんが朝ごはん用意してくれてた。早く食べよう」


  隣同士に、焼き魚と味噌汁とお新香と麦米。

  日本の誇り、ザ・和食そのものだった。


 「あ、うん」

 

  エリカは席を着いて普段通りより低めのトーンで夏子に話しかけてきた。


  二人は席に着いて


 《頂きます》


  と眠たそうな声を出し、お互い食べ始めた。


  エリカが随分眠たそうで黙々と食べていた為、夏子は話しかけずに黙って食べていた。


 「......」

 「......エリカちゃーん?」


  夏子は話しかけてみる。


 「...ん?」


  エリカは食べながら聞き返してきたが、目の焦点は焼き魚の方に向いていた。


 「朝弱いの?」

 「うん...」

 「そう...なんだね...」

 「うん...」

 

  エリカは決まった言葉を返すばかりで話が弾まなかった。

  夏子は、朝ごはんは一緒によく食べていたであろう風夏はどんな感じで対応していたのか考えながら食事を続けていた。


 《ご馳走様》


  食べ終わったエリカは、食器を洗い場に持っていき、食器を無造作に置いて自室に向かった。

  夏子は、洗わないのか気になったが、同じく洗い場に置いて彼女の後を追う。


  夏子が部屋を入ると、案の定彼女はベッドに大分してうつ伏せの形で寝ていた。


 「...まぁ、お昼過ぎに本屋行くし、休日は寝させますか...どれ私も」


  夏子はエリカの隣にお邪魔して、エリカに抱きついて匂いを嗅ぎながら二度寝を始めた。



  一時間後、午前八時、エリカは目覚めた。


 「んぅ...あれ?うわぁ!!」


  うつ伏せの状態からだらしなく顔を上げて上を見ると、夏子が手を回し、背中に顔を埋(うず)めて寝ていた。


 「うわぁ、こんなヘンな体勢で寝るなんて初めてだよ...」


  彼女は引いていた。


  エリカはとりあえず上に乗っている夏子を退かして、体勢をエリカから見て逆向きの横向きに直し、布団を掛けてあげた。


 「もう、ハレンチな女の子なんだから」


  エリカはクスッと笑って、部屋を出た。


 「あれ?ご飯食べたっけ?」

 

  エリカは洗い場を確認したら、見覚えのない食器が二組、無造作に置かれていた。

  彼女はお腹をさすり、


 「んーあ、でもおなかいっぱいだ」


  と、その見覚えの無かった食器を洗い始めた。




 「むぅ...あれ?エリカちゃんは?」


  いつの間にか体勢を変えられていた夏子は、起き上がって周りをキョロキョロ見渡した。

  抱きついて寝ていたはずのエリカがいない...

  恐らくもう起きてリビングに居るのだろうと推察して、夏子はベッドから出て軽くラジオ体操擬(もど)きをこなし、部屋を出た。


 「あ、夏子ちゃん!おはよう!」

 「あら、エリカちゃん。おはよう。お寝ぼけは治ったのね」

 「え?」

 「あはは!もしかしてご飯食べてた記憶無いのかな?」

 「あ、やっぱり?見覚えの無い食器が置いてあったんだけど...」

 「エリカちゃんのお母さんが用意してくれた和食、黙々と食べていたじゃない」

 「そうだっけ?」

 「そうだよ」


  エリカは可愛らしげに首を傾げ、自分の記憶を必死に引き出そうとするも、やっぱり思い出せなかった。

  エリカは思い出したかの様に、彼女に自分に抱きついて来た事を追及する。


 「あ!もう!何であんな変な体勢で抱きつくの!」

 「抱きついてはいいんだ」

 「ま、まぁあったかいしね?夏子ちゃん、丁度いいもん」

 「ホッカイロだもん」

 「変な体勢で寝ないでよ...胸、触っていたしさ」

 「変な気持ちになっちゃった?」

 「...ノーコメント!」


  エリカは、自分の胸を守るかのように両腕で隠し、顔を逸らした。


 「あはは!ごめんって!もうやんないよ」

 「普通に、抱きつくならいいよ?」


  エリカはちらっと夏子に顔を向ける。


 「もう!可愛いなぁ!もう!」


  夏子はそんな態度をとるエリカに我慢出来ず、抱きついた。

  エリカの顔が夏子の胸に埋もれてしまっていた。


 「むぅー...やっぱり夏子ちゃんあったかいなぁ」


  そういってエリカも両手で夏子を抱きしめる。


 「おーよしよし!」

 「私は犬じゃなないわ...」

 

  エリカのツッコミは健全だった。


  現時刻は午前八時二十七分、まだたっぷり時間が余っていた。


 「まだ本屋行くのは時間がねぇ...」

 「んー。何か本でも読んで過ごす?」

 「うん...元々私たち、本屋に行く事しか頭になかったね...」

 「あはは、ごもっともで」


  二人はエリカの部屋に入り、本棚を漁る。


 「羅生門に、鼻に、芋粥?」


  夏子は一冊の文庫本を取り出し、ページを捲る捲る。

  芥川龍之介の短編集作品だ。


 「あ、芥川龍之介の奴ね。結構おもしろかったよ。羅生門は聞いたことあるんじゃない?結構メジャーだよ」

 「うん。かなり面白い、人に進められる逸品だよ」


  京都に、火事や地震などの災いが起こり続け、朱雀大路にある羅生門には誰も通らなくなり、盗っ人や、狐狸が住み着き、とうとう最後には引手が無い死体を捨てていく習慣ができてしまい、不気味な為誰も通らなくなる。

  鴉(カラス)が死体をついばみに来るぐらいだった。

  ある日、一人の下人(げにん)が羅生門の下で雨宿りをしていたが、彼はつい先日、雇い主に解雇され、途方に暮れていた若者だったが、盗賊になろうかどうか迷っていた。

  ひとまず下人は羅生門で夜を過ごす事を決め、楼(ろう)のハシゴを登って行くが、一人の老婆を見つけた。

  老婆は火を灯した松の木片(きぎれ)を片手に、女の死体から髪の毛を一本ずつ抜き取っていた様子を見て下人は、死人から死体を抜き取る行為を悪と思い、正義感を全(まっと)うしようと恐怖心に打ち勝って、足に力を入れてハシゴから上に飛び上がった。

  老婆が逃げようとしたものの下人は止めて、自分の腰にぶら下げていた太刀を突きつけ、行為を暴かせた。

  老婆は、自分が餓死するからカツラを作るためにやっていると抗議したが、下人は俺も餓死するからと、老婆の身ぐるみを剥がし、抵抗してきた老婆を死体の中に蹴り落とした。

  老婆は火の光を頼りに呻(うめ)きながらハシゴの所までいって銀髪の髪の毛を逆さまにして下を見たが、漆黒の夜につつまれていた。

  下人はもうどこかに行っていた。


  大分割愛したがストーリーは大体こんな感じである。


 「うん、短くて読みやすいね」

 「短編集だから...」

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