第10話 風邪宮風夏の第二の人生

 「ねぇ?なんで避けるの?」


  彼女から逃げるエリカに、少しずつ這い寄る。


 「落ち着いて!」

 「ねぇナンデナンデ?」

 「その目辞めて!怖いから!」

 「怖い?」


  彼女は動きがピタリと止まった。


 「...私はふぅちゃんの事すきよ」

 「...」

 「大丈夫...」

 

  エリカは彼女の肩を掴んで、そっと抱き寄せる。


 「...エリカちゃん。甘いよ」

 「ひゃう!?」


  彼女は抱き寄せられたその瞬間、エリカの首筋まで近づきキスをする。

  その感触に思わず変な声を上げてしまう。


 「...エリカちゃん、私ね引っ越す事にしたの」

 「ふぇ?」

 「私のお父さん、横須賀に居るのね。それで私はお母さんと横須賀に行こうか話してたの」

 「...」

 「でもね、今までこんな私でも仲良くしてくれたエリカちゃんの事が忘れられないの。だって好きなんだもん。格好よくて、優しくて、頼りになる。私を守ってあげると言ってくれた時ね、とても嬉しかった...」

 「...」

 「エリカちゃんは、私が嫌い?」


  彼女の問いに思いっきり首を振るエリカ。


 「大好きよ」

 「そっか...ねぇ一度、遠くに行っちゃうからエリカちゃんに最後のお願いをしたいの」

 「私に出来ることなら何でもするよ」

 「じゃあ...キスして」


  彼女が目を閉じて此方(こちら)を見つめてくる。

  エリカは彼女にそっと近づき、


 ちゅ


  キスに応じた。

 

  彼女は満足気にはしゃぎ、いつの間にか彼女の目は正気が戻って輝いていた。エリカは安堵し


 「どう?」

 「うん、気持ちよかったよ!」

 「気持ちよかったって...照れるよ」


  伊紙エリカは初めてのキスを同性の風邪宮風夏に捧げた。


 「二人ともーご飯ですよー」

 「あ、おばさん呼んでるから行こうか?」

 「うん、いこ!」


  二人は密着していた体を崩し、体勢を整えて手を繋ぎ部屋を出る。

  二人はフレッシュな気持ちでリビングに降りてきた。


 リビング


 「今日はカレーよ」

 「わー美味しそー!」

 「美味しそうです!おばさん!頂きます!」

 

  エリカに合わせるように彼女も手を合わせた。


 「頂きます!」


  二人が談笑しながらスプーンでカレーを掬(すく)う姿におばさんは笑顔で、だけど申し訳なさそうな表情で見つめていた。

  おばさんは力が無い声で


 「ふふ、風夏、明るくなったわね」

 

  と言い、おばさんもスプーンを使ってカレーを口に運ぶ。

  彼女はスプーンを置いて


 「だってエリカちゃんとキスしたんだもん」


  と言い、エリカは飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

  おばさんは、あらあらと微笑みながらエリカの方を見る。


 「うぇ!?」


  エリカはまさかの不意打ちで取り乱してしまった。


 「ちょっとふぅちゃん!?は、恥ずかしいよぉ!」

 「あはは!」


  微笑ましい光景を目の当たりにしておばさんは涙を零してしまう。


 あぁ...この子達の笑顔を見れて良かった......


  二人がはしゃいでる姿を見ておばさんは、


 「ほらほら!早く食べないと冷めちゃうわよー!」


  と呼びかけ、二人は


 「はーい!」

 

  と返事する。


  食後、おばさんは


 「二人共、お風呂入ってきちゃいなさい」


  と呼びかけた。


 「じゃあ入ろうか」

 

  ふぅがエリカに手を差し伸べ、


 「うん!久しぶりだね!」


  その手をエリカはぎゅっと握った。



 お風呂場


  ジャーとシャワーの音が響き渡る白い空間に二人はとてもはしゃいだ様子でシャワーを掛け合っていた。

 

 「やぁー!冷たい水だぞ!」

 

  彼女はシャワーの水温を低くくして、その水をエリカに向けて放つ。


 「きゃっ!この!」


  エリカは直撃した後、桶でお風呂のお湯を組んで彼女に掛ける。


 「あっつぅーい!」


  彼女はとても熱そうに、でも高笑いをしていた。

  エリカもまた、つられて笑ってしまう。

  そのまま二人はシャンプーとボディーソープを塗りたくって、お互いに泡の量を競い合ったり、それを落とし合うシャワーのシューティングゲームをして、幸せなお風呂の時間を過ごす。


 「ふぅーいいお湯だねぇ」

 

  彼女は遊びに疲れたのか、お湯に浸かって目を閉じた。


 「そうだねぇ」


  エリカもまた、彼女の様に目を閉じる。


 「ねぇ、エリカちゃんは私が遠くに行っても会ってくれる?」

 「勿論よ。悲しい事いわないで。いつまでも友達だよ。だって私はふぅちゃんのナイトだもん」

 「...えへへ。そうだったねナイト様」

 

  お互い苦笑する。


 「...昨日はちゃんと寝た?」

 「あんまり...」

 「そう...か。今日はぐっすり眠れそう?」

 「うん。エリカちゃんが居るからね」

 「あはは...」


  彼女はエリカの腕を掴んで自分の方へ寄せた。


 「これまで本当にありがとう、ナイト様...」


  彼女は涙を零しながら笑顔で言った。


 「此方(こちら)こそ!あり...がとう...ね...」


  エリカも涙を零し、お互い強く抱き寄せ合う。

  彼女は涙を流し、声を殺しながら強くエリカの体を抱いているその様子に、エリカは優しく背中を撫でてあげた。


 「よしよし...」

 「うぅ...離れたくないよぉ!えりかぁちゃぁん......!!」

 「大丈夫...大丈夫...。遠くに居ても私たちは繋がってるから...」


 「うわぁぁぁん!ごめんねぇ!最後まで私のわがままばかりで!」

 「なに言ってんのよ。親友のわがままを苦に感じたことは無いわ」

 「ごめんねぇぇ!」

 「いいから謝んないで。ふぅちゃんは、今のままあの学校で学んでも苦しむだけよ。でもね?ふぅちゃんが転校して新しい生活を始める事をきちんと決めたんだったら、そうした方が絶対ふぅちゃんの成長に好影響を与えると思うの。私は簡単に死なないわ。だから会おうと思えばいつでも会えるから。私はふぅちゃんに強く生きてほしいの」

 

  エリカは微笑みながら、彼女をなだめる。

  彼女は頷きながら真剣に聞いている。


 「新しい事に挑戦するその気持ちを持てたふぅちゃんは、とっても強くなったね。今まであの学校で色々辛い事が沢山合って、私も少し手伝ったけど、こうして変わる心が持てた事ですっごく尊敬する!よしよし」


  エリカは彼女の頭を撫で、ぎゅっと抱きしめ直す。


 「お風呂、上がろうか」


  とエリカは、彼女と共に湯船から立ち上がり、二人は脱衣所に移動する。

  白い太陽の匂いがするふわふわタオルが、女の子のきめ細かい肌に優しくフィットする。

 

 「お風呂...気持ちよかったね」


  と彼女は笑顔でこちらを振り向き、


 「うん、そうだね!」


  エリカも笑顔で答えた。


 風夏の部屋


  エリカは着替えを持ってきていない為、彼女は自室のタンスから寝巻きとして着用する服を漁るが、ファンシーな服ばかりが出てくる。


 「これどうかな?」


  彼女が手にしたのはフリフリのピンクカラーのワンピース。


 「うん、可愛いしこれでいいよ」


  エリカは拒否する気も無かった為、それに着替える。

  着用後、クルリと一回転して自分を魅せた。


 「どう?似合うかな?」

 「うんうん、凄く似合ってる!」

 「あはは!ありがと!」


  彼女は出しまくったファンシーな服をタンスに無理やり押し込んでしまおうとしたが、ボンッと出てきてしまい、エリカが近寄って


 「畳(たた)もうよ...」


  と声を掛け、彼女はえへへと頭を掻きながらベロを出して、出てきた服を取り敢えず床に散らかした。

  エリカはテキパキとした動作で服を畳(たた)むが、彼女は不慣れな様子でどうしても覚束無い(おぼつかない)動きだった。

  エリカは彼女に畳(たた)み方 を教えて上げ、エリカの動きをじっと観察する彼女にエリカは微笑ましい気持ちでいた。


 「ずっとこうしていたいね」

 

  悲しそうにそう言う彼女


 「大丈夫。横須賀なら電車で直ぐだし休みの日とか、会いに行くから」

 「うん...」


  彼女らは数分見つめ合い、彼女が大きな欠伸(あくび)をして目を擦る様子にエリカは、


 「ふふ、もう遅いし寝よっか?」


  と提案。彼女はコクリと頭を下げて、自分のベッドに移動した。

  エリカも彼女の隣に入り、掛け布団を掛ける。


 「今日はもう終わっちゃうんだね...」

 「ふふ、楽しい時間はあっという間だよ。光の速度みたいにね」

 「そうなんだね。また明日も楽しい事があるといいな」

 「私が居るから楽しくない思いなんてさせないわ」

 「...ありがとう」


  彼女はエリカの体を抱き枕のように抱き寄せ、眠りについた。

  エリカは、小さな声で


 「おやすみ」


  と呟き、眠りに落ちた。



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