第9話 小学校時代②

  あの後、レイプ未遂を受けたふぅは心に深く傷を負い、不登校となってしまう。エリカは、精神的ダメージはそこまで負っていなく、何食わぬ顔で学校に登校していた。


  ふぅが不登校となってしまった為、彼女を支持していた教師陣は深く落ち込んでいたのと、今件について聖徳小学校の問題は校長と教頭が心の無い、むつかしい言葉を連ねて、保護者や教育委員会のお偉いさんに頭を下げる事になった。

  彼らは、今後このようなことがないように...とテンプレート満載の謝罪だけで、まるで気だるそうに軽い頭を下げるのだ。

 

  エリカの両親はこの時も柏崎中学の教師兼役員を任されていた為、直ぐにこの件は耳に入った。

  エリカの母は、今件の被害者であるエリカに対し、転校する事を求めたがエリカは彼らはもう居ないからと拒否した。

  母は納得いかない様子だったが彼らの連絡先を教師から聞き出して、裁判を開こうとした。

  この逸脱した行動は流石にヤバイと感じたのか、エリカの父が止めてくれたので大事に成らずに済んだ。


  エリカが教室に入ると、身を案じてくれたのか心配してくれるクラスメイトが多かったが、案の定彼女の話題は無かった。

  しかも昨日まで彼女が登校していた空気とは一変して、邪魔者がいなくなって清々したような、そんな空気を感じ取った。


  エリカはこの空気が不味くなって彼女についての事を大声で喋ろうと思ったが、声が出なく自分の席に崩れ座る。

  隣のヤツが


 「大丈夫?伊紙さん?具合でも悪いの?」


  と、柄もなく話しかけてくる。彼女らはエリカの友達、風邪宮風夏の陰口をずっと叩いていた奴らだ。気持ち悪い...


 「...」

 「え?どうしたのぉ?」


  無視を試みたものの、しつこく聞いてくる。

  彼女はそこまで他人の具合を心配するほどなのか?と思いつつも、仕方なく彼女に付き合う事にした。


 「いや、お腹の具合が悪くてね。大丈夫よ」

 「あ、そう。良かった」


  彼女はそう聞いて素っ気のない返事をし、反対側の仲間と思われる奴らの方向に向き、ぺちゃくちゃ話し始めた。

  エリカは


 「...興味無いなら聞くなよ」


  と小さく呟き、茶色いカバンから学習道具を出して授業の準備を始める。



  学校が終わり、エリカは担任に呼ばれたものだから、彼女は職員室に向かう。教室を出る時、何か聞こえたような気がしたがエリカはふぅの容態が気になりすぎて、頭がいっぱいだった。


 「失礼します」

 「おぉ、伊紙!すまんが、コレ、風邪宮に届けてくれ。いつも仲良さそうにしていたから君が適任だと思ってね」


  担任は、プリントの書類の束をふぅに送り届けて欲しいという件だった。

  彼女は丁度お見舞いに行こうと思っていたので、素直に受け取り、職員室を出た。帰り際に


 「...何かあったら相談するんだぞ...」


  と言われた。彼女はバツの悪そうな顔をして軽く会釈して退室する。


  風邪宮風夏の陰口はかなり陰湿なものなのは間違いだったが、彼女がそれに徐(おもむろ)に怯えていた事実、彼らは本当に気づかなかったのか?

 教師は何のために居るのか、彼女自身分からなくなっていた。

  故に彼女は、担任なんて信用ならないと思い始めた。




  エリカはプリントの束を持ちながら彼女の家まで帰る。

  彼女の家は、エリカの家からそう遠くないが近くもなかった。

  エリカはプリントを落とさないように自分のカバンに丁寧に入れて、歩く。

  歩いて歩いてまた歩く。


  数分後、彼女の家に着くとインターフォンを鳴らした。


 「...はい」

 「あ、すいません。エリカです。プリント持ってきました」


 疑心暗鬼に、疑う様に彼女の母がインターフォンを出るが、来客がエリカだと分かると


 「エリカちゃん!?今出るから待っててね」


 となにか必死な感じで開けてくれた。


  彼女の家はよく遊びに行っていた為、彼女の家族とは幼稚園からも含めるともう6年ほどの付き合いになる。

  その為か、エリカと彼女の両親はかなり仲良くさせてもらっていたし、エリカの両親と彼女の両親も仲が良い。

  因みに彼女の両親は父が海上自衛官、母が柏崎高校教論だ。


 「いらっしゃい、入って入って」

 「先日ぶりですね、おばさん」

 「えぇ...エリカちゃんは大丈夫?変な事され無かった?」

 「いや私は...胸だけ揉まれてしまっただけで...」


  その事を聞いておばさんは絶句。


 「女の子にとっては大変な事じゃない!!ふぅは部屋に居るわ。エリカちゃんに会いたがってたから会ってあげて」

 

  おばさんはエリカの手を両手で握ってお願いする。

  エリカもそのつもりで来た為、


 「はい、」


  と一言返事して2階に上がり、彼女の部屋の前に辿り着いた。

 ドアを2階叩く。


 「ふぅちゃん?エリカだよ。大丈夫??」


  と声を掛けた瞬間、バッと凄い勢いでドアが開き、彼女がエリカに掴んで顔を埋める。彼女は大粒の涙を流しながら


 「ごめん!ごめんねぇぇ!...私...学校に...どう...しても...行けなくて!!...寂しかっ、寂しかったよぉぉぉエリカちゃーーん!!!」

 「...辛かったね...部屋に入ろう?」

 

  急な出来事に戸惑ったが、エリカは彼女を優しく抱きしめて部屋の中に誘導する。彼女は落ち着くまで背中を叩いてあげ、彼女は数分後に泣き終わり、心が落ち着いてきたようだ。

  その隙にエリカはカバンの中から担任に頼まれてたプリントを渡して


 「ありがとうエリカちゃん...」


  彼女は笑顔で受け取ってくれた。


 「無理しなくていいから。私がついてるって言ったでしょ。ふぅちゃんの理解者は私が居るから...」


  そう言ってエリカはぎゅっと優しく抱き寄せる。彼女はそれに身を任せ、これからどうするかを考えていた事を告げる。


 「私、学校に来れないかもしれないの...。怖くて...」

 「大丈夫!私が居るから!」

 「ごめんね。エリカちゃん...」

 「気にしないで!」

 「...もし私が引っ越すって言ったらどう思う?」

 「...えっ?」


 それは余りにも突然の告白だった。


 「もし、もし、私が!...遠くに行っちゃうって言ったら...どう...思うの?」


  涙を流してエリカに問う。


 「...離れたくない...私はふぅちゃんの事が好きで...これからも守りたいと思っているもん!」


  彼女は数秒間、エリカをじっと見つめて、顔を伏せた。


 「...エリカちゃん.........ごめんね...」

 「な...なんで謝るのよ...」

 「エリカちゃん...好きでした...」

 「...え?」

 「かっこ良くて、頭が良くて、いつも助けてくれたエリカちゃんが!!...好きでした!!」


  彼女の声が部屋に響く。


 「わ...私も...好き...だよ?」

 「違うの!そういう好きじゃなくて...」


  と答え、彼女は自分の胸元を掴む。


 「心がぎゅっと痛くなるの!」

 「それって、病気じゃないの?」

 「違うよ!」


  エリカは彼女の容態を心配するが否定される。


 「エリカちゃん!...エリカちゃんは...私の事どう思ってるの?」

 「それは...妹見たいな感じ...かな?」

 「そうでしょ!私は...エリカちゃんと恋人になりたいの!」


  エリカは彼女の2度目の告白に驚きを隠せなかった。


 「恋人って...私たち女同士よ?それに特別な関係に成らなくても、私はふぅちゃんを特別な友達だと思ってるし、大切なかけがえのない幼馴染だよ?」


  部屋に沈黙が続く。そして彼女が口を開いた。


 「...エリカちゃん、明日休みだよね?泊まっていきなよ...ね?寂しかったの...お願い...」


  急に話が変わって驚いたエリカだったが、傷心の彼女を一人にしたら危険だと思い了承した。

  その事をおばさんに伝えると、おばさんは大変喜んで、エリカの両親に連絡してくれた。

  エリカは着替えを持ってきていなかった為、身長も近かった彼女の着替えを借りる事に。


 「トントン拍子で進んでるけど、これで良かったのかな...」

 「私、エリカちゃんとお泊まりできるなんてとても嬉しいよ?」


  彼女の目のハイライトが消えかかっていたのにエリカは気が付かなかった。


 「はは...私もよ。それよりさっきのは...」

 

  エリカが彼女に聞こうとした時、彼女はそれを遮るかのようにエリカの口に指をくっつけた。そして指を話した彼女はその指を舐めて


 「好き...なの...」


  と上目遣いで這い寄って来た。エリカは脳内処理がついていけず、その場で固まってしまい、言葉を失う。そして彼女が...


 「コレ見て」


  自分の左手首を見せた。


 「うっこれって!!」


  エリカは彼女の手首を見て思わず吐きそうになってしまい、口を手で防いだ。

  彼女の目はもう正気を失っていて、エリカに近寄っていた彼女は、まるで小動物の様に密着してくる。


 「一体なんてことを!は、離れて!」


  エリカは恐怖の余り離れさせようとするが、彼女はエリカの腰周りを強く回して抱いていていたので、なかなか離れてくれなかった。


 「ちょっと痛いよ...エリカちゃん...」


  こちらを見つめる彼女に思わず


 「ひぇ!」


  と声を出してしまう。ヒステリック化した彼女は、


 「諦めて」


  と彼女の首元まで指を伝えながら耳元で囁(ささや)いた。

 

 

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