第8話 小学校時代①
チン!
レンジが音を鳴らし、リビング中にとても甘い香りが漂う。
「わぁ~すっごい!」
夏子はスポンジの出来に思わず声を上げ、彼女は冷蔵庫から冷やしたホイップとイチゴのパックを取り出し、飾り付けを始める。
彼女は夏子と交代しながらホイップ→いちごの順でデコレーションをし、数分で立派なホールケーキが完成した。
「うわぁー美味しそー!」
出来たてのホールケーキを見ながら夏子が、ジロジロとケーキを眺める姿に彼女は、ふふっと笑いながら包丁を手に取り6等分に切り分けた。
「私と夏子ちゃんで2切れ、後4切れは店長さん達の分ね」
彼女は切り割れた1切れを皿に乗せて夏子に差し出す。
「え?いいの?」
「もちろん!。夏子ちゃんにも食べさせたかったから」
「わーありがとー!」
夏子はそれを受け取った後に彼女からフォークを受け取った。
彼女も皿にホールの1切れを乗せ、フォークを取って二人はリビングに移動する。
「あ、紅茶用意するね」
「ありがとー!」
彼女はリビングにケーキが乗った皿を静かに置き、思い出したかの様にキッチンに戻り湯を沸かす。そしてマグカップを二つ用意し、ティーバッグを中に入れてお湯を注ぎ数分間待つ。
なかなかいい具合に紅茶が出来ていい香りが漂ってきたらティーバッグを取り出してゴミ箱に捨てる。そして紅茶が入ったマグカップを零さないよう慎重に夏子の待つリビングに持って行く。
「おまたせー」
「ありがとうね!うわぁ...ベリーのいい香りね!」
夏子の前に差し出された紅茶は、ブルーベリー、ラズベリー、イチゴ等が含まれているミックスベリーティー。
甘いベリーらがカップから飛び出してダンスしているかのように強い香りを出していた。
「結構いい奴なのよね」
彼女は一口啜るが余りの熱さに
「あちゅい」
とカップから口を離して舌を出してフーフーする。
その仕草を見て夏子は笑いながら
「猫舌なのね」
といい、夏子もカップからティーを一口啜る。
夏子の口の中では、程よいミックスベリーと、紅茶独特の酸味がまるでオーケストラを奏でる様な味が口の中に広がる。体はポカポカして、広い草原で両手両足を広げ、自由であると主張しているような気持ちになった。
「んん~美味しい~~」
「むぅ~熱くないの?」
「全然」
「...ケーキたーべよ」
彼女は自分だけ損した様な気持ちに陥り、腑に落ちない様子でぶーたれる。
そして、マグカップを置いてケーキの乗せた皿を手に取り、フォークで小さく切り取って口に運ぶ。
「んんー甘くて美味しー」
思わずほっぺに手をおいて微笑む彼女を尻目に見ていた夏子は、同じくマグカップを置いてケーキの乗せた皿を手に取って食べてみるも
「うわぁ!お店で売ってるやつみたい!」
「ふふ、ありがとう」
「これなんで作ったの?」
「んーお店の人達に助けられたと思ったから...かなぁ」
「まぁ不思議な体験だったしあの人たちが助けてくれたと思うのが自然だよね」
「うん」
二人はケーキを食べ終わり、テレビを見ながら紅茶を飲んでいる。
「...あんまり面白いのやってないねー」
夏子がつまらなそうに足をぶらぶらする。
「んーそうだねぇ。私の部屋に行こうか?」
「うんいくいく!」
彼女はリモコンを手に取ってやっていたテレビ番組を消し、飲み干したティーカップを回収してキッチンの洗い場に置く。そして夏子に案内をしながら彼女の部屋まで移動する。
彼女の部屋に入室した時、夏子は整理整頓された綺麗な部屋に驚く。
「わぁー部屋綺麗だね。ベッドの上にぬいぐるみ沢山あるー」
「うん。ぬいぐるみ好きだからいつもこうしてるの」
そう言って彼女はクマの150cmほどのぬいぐるみを手に取って抱いてみせる。自分とほぼ身長が同じクマのぬいぐるみを抱く彼女に夏子は
「可愛らしー」
と褒める。
「適当に座ってよ」
「うん、勉強道具だらけで娯楽が無いねぇ」
「娯楽かぁ...勉強一筋だったから何もないなぁ」
「でもファンシーな部屋だねぇ。女の子オブ女の子って感じー」
「ふふ...なにそれ」
「そういや小学校時代ってどんな感じだったの?」
夏子のその問に彼女の過去がフラッシュバックする。
聖徳小学校時代...
「エリカちゃんおはよぉ」
ふんわり穏やかな雰囲気の女の子がエリカに話し掛ける。
「あ、ふぅちゃんおはよう」
彼女らは学校指定の茶色いカバンを机に置き、用意してきた教科書などを取り出して机の中に入れる。
後から入ってきた男子小学生のクラスメイトがふぅに
「やーいオナラぷぅ!」
と、スカートをたくし上げてパンツの色を確認する。その異質な行為にふぅは泣き出してしまう。
「うっうぇぇぇん!」
「ちょっと何すんのよ!!」
とエリカはいじめっ子に立ち向かうが彼らは
「うるせぇよ」
と一言残し、体を強く押されてよろめく。
エリカはなんとか体勢を戻そうと机に掴みかかるが、彼らが机を蹴ってその机がスライドし思いっきり地面に顔を打ってしまう。
これを見兼ねた周りの女子達はエリカに
「大丈夫?!」
と駆け寄り、いじめっ子を非難するも、いじめっ子は
「ふん、馬鹿どもが」
と罵り、彼等は自席に戻る。
エリカはふぅに
「ごめんね...私のせいで。肩掴んで?」
と声を掛けられ、ふぅの肩を借りて立ち上がる。そして顔の腫れが大分酷かった為、保健室に行くことに。
「授業前なのにふぅちゃんまで一緒にいたら」
「友達なんだからそんなのどうでもいいよ」
「いつも虐めてくる奴ら!見返してやらないと」
と思いつつもエリカは女子で非力だ。ふぅは容姿がかなり可愛く女子からも嫉妬されており余り仲良くしてもらえなかった。
名前が風夏なのだが、いつも隣に居るエリカがふぅと呼ぶ為、彼女が好きな男子小学生達は意地悪のつもりで
「おならぷぅ」
と罵ってきた。と言っても本日の様まで過激に動いてくるとはエリカは思いも知らず、強く出たのがダメだったようだ。
やはり力の差は歴然で相手らは精神が幼い小学生だ。逆鱗に触れる行為を起こす事で最悪犯罪に染まるような事をされるかもしれない。
「もっと私が強かったら...こんな事にはならなかったのかな」
「ふぅちゃん、自分を責めないで。あいつらが悪いんだから!」
ふぅは自分を責めるもエリカはふぅを慰め、友達としてどんなことをしてあげれるのか考える。
あいつらを殴るのも無理...陰湿ないじめは最悪母さんまで巻き込んでしまうかも...
まだ小学生の彼女は、必死に考えるも全てうまくいかないと思った。
この時彼女は
「私が男だったら...」
と呟き、もし自分が男だったらこの子を守れたのかも知れないと、机上(きじょう)の空論を並べ始めた。
相変わらずふぅは、エリカが考え事をしている時、オロオロとしていた。
彼女は自覚していないがぶりっ子な一面がある。
ふぅは教師陣にはかなり評判が高い。
容姿端麗で食事のマナーも箸の持ち方も、苦手な勉強も必死にやる努力家だ。そこらに居る遊びが好きそうなぶりっ子とは違う。
あれらをブラックなぶりっ子と表現するならば彼女は、ホワイトなぶりっ子なのだ。彼女の言葉遣いも、よくテレビに出てくる例のアナウンサーの様な、あんなハッキリとした典型的なぶりっ子では無く、ナチュラルな感じのぶりっ子だ。
ただふぅ自身は人付き合いが苦手で、引っ込み思案な所があり、未だにクラスメイトに馴染めて居らず、女子からも陰口を言われたりしている。
幸い、過度ないじめをされては居ないが、これから起こる可能性だってあるわけで、エリカはいつも彼女と一緒に過ごしている。
彼女の悪い所を上げるとするならば、影で努力するより表で努力して見せるのは余り宜しくないと思う。
彼女は勉強が大の苦手の為、いつも教室に残らされている。
先生は彼女の生真面目さは重々承知しており、贔屓目に見ていたので彼女を帰らそうとしたものの彼女は
「私は確実克服したいので頑張りたいです!」
と張り切った声で先生に訴えた。先生的には彼女の真摯(しんし)に向き合うその心意気がとても綺麗で格好よく、学生のあるべき姿だと思っていた為に彼女自身の株が上昇し評判が良くなるだろう...。
しかし同じく教室に残らされた生徒諸君はどう思うのであろうか?
「あいついい気になってんじゃないわよ」
「うわぁー、ヒイキヒイキ!」
「なんだあの気持ち悪い宣言、当たり前の事だろう」
と、先生に特別扱いをされ、ぶりっ子特有の甘い声でハキハキと喋る彼女に対して同等の学力を持つ女子についてはかなり気味悪がられる。
しかし男子諸君は
「今日も可愛いなぁ」
「一緒に居残りできてハッピーだ。次もあの子居残りしそうだしまたしよう」
「...可愛い」
と、まぁまぁ評判が良かった。女子小学生ならぬロリ童顔の整った美少女さが彼等を甘い蜜に誘惑させているのか?魔性の女である。
そんなこんなで彼女自体にはなにも問題はないが、無意識にぶりっ子を演出していた為とその美貌のせいで、汚らしい女子共に陰口を言われ続けているのである。
ふぅは陰口については気付いていたが、その時エリカは、
「気にしない方がいいよ。私がついてるから...」
となだめ、ふぅはエリカを信頼していつもついてきてくれるのだ。
「もう大丈夫だから教室もどろ?」
「う、うん。ごめんね?」
「謝らなくていいよ。ふぅちゃんは偉いなぁ」
エリカはふぅの頭を撫で、ふぅは恍惚(こうこつ)とした表情をする。
その可愛らし差にエリカはいつまでも撫でたい衝動に駆られるが我慢して立ち上がる。
二人は教室に入室すると先程の男子が居らず、先生がこっちに来いと呼んだ。
「大丈夫だったか?伊紙、風邪宮。あいつらは反省文を書かせに別の部屋に移動させたよ。大丈夫!先生がお前達の味方だからな!」
先生になだめられている途中、もちろんホームルーム中であった為、クラスメイトの前でなだめられていた。これにより、周りの女子達から目線が募る。
二人は席に戻ると、エリカは後ろの女子に
「大丈夫だった?」
と声を掛けられ、エリカは大丈夫と一言返す。ふぅが一番被害が大きかったのに席に着いても周りは彼女に興味を示さない。
エリカは顔の被害はあったものの、本当に大した怪我出さなかった。おでこがヒリヒリするだけでそれよりもスカートを捲りパンツの中を確認してきた汚らしい男子小学生連中と、誰も声を掛けず、彼女に対して陰口をする女子小学生連中が憎くてしょうがなかった。
ホームルーム終了後、彼らが戻ってくると此方(こちら)を睨み、着席する。彼らはそのまま授業を静かに聞いていた。
学校が終わり帰る目前、彼らが近寄ってきて思わずエリカはふぅを庇うように、彼らに触らせないように前に出た。
「さっきは悪かった。ちょっと来てくれないか?」
「え?なんでよ」
「いやぁ...この手紙...いや。俺は風邪宮にちょっといいたい事があってお前もどうせ着いてくるんだろ?」
そう言って半ば強引に手を引っ張り、解こうとしたが彼らの力が強くて解けなく、いつの間にか体育館倉庫の前まで連れてこられた。
体育館倉庫の前には5、6人の男子小学生が集まっていて彼女らは強く抱きつかれ、倉庫の中に連れてかれる。
「い、いやぁー」
ふぅの無気力な返事が彼らの興奮度を上げたのか、ふぅの体をペタペタ触り始め、それを止めようとエリカは彼らの力に必死に抗うものの、それは成し遂げられなかった。
「ちょっとやめて!...あっ」
エリカは胸を揉みしだかれ、激しく数人にお触りされる。余りの気持ち悪さに涙を流し訴えかける。
「ふぅちゃん!...あんたら親に言ったらどうなるか分かるんでしょうね!」
「ふん!そんなの知らん。言われないようここでやっちまえばいいさ」
そうして男子Aは自分の男性器を取り出し、ふぅの顔に当てた。
ふぅは気持ち悪いものを突きつけられ、大きな声で泣き出してしまう。
その声を聞いた、体育館の管理おじさんが何事かと見に来た。
「おい!うるさいぞ何やってるんだこんな所で!!...おい!大丈夫か!?」
管理おじさんは、少年たちの悪質なレイプ未遂を止めようと、少年を投げ飛ばし、エリカとふぅを保護した。
後の通報によって彼らは小学校を退学処分にしたらしい
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