第7話 誘拐/ケーキ
「さぁ乗れ!おい!」
乱暴に掴まれた彼女は車に乗せられ、バタン!と大きな音を立てて思い切り閉める犯人。
そのまま車を走らせた犯人はひたすら走り続けていた。
「誰に電話していた?」
犯人のドスの聞いた声でエリカに問いかける。
彼女は黙りこくったまま息を殺していた。
犯人は舌打ちをして車をコンビニの駐車場に止めた。
助手席にあったナイフを彼女の首筋に突きつけ
「答えないと殺すぞ」
と脅したものの、彼女はあまりの恐怖で怯えていた。
犯人はナイフを彼女の太ももに移動させてゆっくりとナイフを刺した。
「んぐぁうう!!」
幸い傷は浅いものの、余りの痛さに失禁し、気を失ってしまった。
不自然に車が揺れる為、外に居たコンビニの客が顔を覗き込んでくる。
犯人は
「くそがっ」
と言い捨て、急いでナイフを置いて車を別の場所に移動しようと試みたものの
車が言うことを聞かない。
「なんで動かないんだよ!!」
犯人は苛立ちが募り、車を思い切り叩く。
すると次の瞬間...
パリーーン!!
犯人の乗っていた車の窓ガラスが全て、一斉に割れた。
「な、なんだ!?いったいどうなってやがる!?」
運転席に座っていた犯人は一瞬の出来事に戸惑いを隠せなかった。
周りを見渡すと此方に杖を向けている小柄な人間が居た。
「...大丈夫かい?お客様」
黒いローブを着て顔を隠す謎の人間は自前の杖だろうか、その杖を一振する。
するとたちまち雲が集まってくる。
「...イナズマ」
雲が大きくなり、不気味に思った犯人は直ぐに車から降りて逃げようと試みるも、彼の放ったイナズマはコントロールが出来る高等魔法...
犯人めがけてイナズマが炸裂する。
「ぐぁぁぁぁ!!!」
犯人に直撃して黒焦げになって倒れた。
「今のうちっと...」
彼は犯人の車のドアをぶっ壊し、彼女を助け出した。
太ももに大怪我をして居た為、得意の治癒魔法で治してあげる。
「ヒーラーっ!...無事に助かって良かった」
みるみるうちに傷が塞がり、以前の綺麗な足の状態に仕上げられた。
「人間は脆(もろ)くて助かる。治癒魔法がバリバリ効くからね」
彼は杖を収め、後ろから大柄な男が出てくる。
「イシュ、お客様の容態はどうなんだ?」
「ニカ、心配する事はない。お客様は無事だ」
「良かった...本当に良かった。しかしイシュの水晶占いはよく当たるな」
昨日イシュティルが故郷に帰った後に部屋の掃除をしていたら水晶がたまたま転がり落ちて念の為に水晶占いをした。
急にものが転がる物だから不幸な出来事があるのかと勝手に思っていたイシュティルだったが、その直感は大正解。案の定不幸な出来事がくっきりと映っていた。
誘拐されるお客様の姿が。
「まぁ水晶占いもいいもんだよね。たまには。さて、お客様は一旦連れ帰るか?親に連絡出来なさそうだし1人じゃ心配なんだが」
イシュティルが彼女をおんぶしつつ、ニカに提案する。
「イシュ、それはまずい。俺たちが誘拐犯になっちまってややこしくなる。お客様の家は何処だ?」
「多分近所だと思うんだけど...ん?ケータイあるね」
イシュティルは、エリカのケータイを見つけ、ホームを開く。
「ふむふむ...よし」
イシュティルはエリカを瞬間移動させた。
「うぉ!ナイス!」
「......」
イシュティルは部分的時間逆行魔法を発動させ、車と犯人を戻す。
必然的に周りの人の記憶が、燃えていた死体からただの人間に、ぶっ壊れていた車から普通の車に変換させられて、集まっていた人間らは何気無い日常のひとコマに過ぎないとパラパラ散らばった
「ニカ、そろそろ...」
「おう!わかった!」
イシュティルの詠唱によってニカとイシュティルはヒュン!と一瞬で消えた。
「んうぅ...ここは?」
彼女は自室のベッドで寝ていた。
「あれ?私!!なんで!!...太ももも痛くないし治ってる?!」
彼女は自分のスカートの裾をたくし上げて、犯人に負われた傷を確認する。
綺麗さっぱり傷も残らず...だ。
彼女は
「夢...だったのかな...」
と呟き、ベッドから降りると自分のケータイに数件の着信が合った。
彼女はケータイを開き履歴を確認する。
「母さん...から?...やっぱり夢じゃなかったんだ...」
とりあえず母に連絡した。
「もしもし?どうしたの」
「あ、母さん」
彼女はここで不審者の話を切り出したら話がややこしくなりそうと思い、もう終わった話だと言う事を再認識する。
「今日特売で豚バラ肉が安かったから角煮を作ったの。明日のお弁当にと思って...」
「?一々そんな事を伝える為に電話なんてした事も無かったのに...変な子ね。あ、今日夜はハメを外し過ぎないように...じゃ」
そういって母は通話をきり、彼女は疑問を思った。
「ハメ?いつも通りに過ごすだけなのに...?」
とりあえず彼女はあまり考えないようにする事にした。
ケータイを静かに置き、彼女の不可解な事件の真相について考えていた。
彼女の頭に浮かぶのは
「あの本屋さん...?」
本屋のメンバーだった。不思議な魔法を使う男の娘が居たはず。
しかし今回の一連の事件は公になっておらず、私はどうやって助けられたのだろうかと悩ませる。
記憶が無いのだ...
頭がズキズキする...
「まぁ、明日本屋さんに行けばわかるかな...あ!」
お菓子を作ろうと彼女は、リビングに降りて
「今度はショートケーキに挑戦だ!」
と、可愛らしげに腕を上げて気合いを入れる。
「ふんふーん」
鼻歌を歌いながら生クリームを泡立てる彼女...一瞬夏子の顔を思い浮かんだ...。その時、手をピタリと止め、リビングのテーブルに置き去りにしていたケータイを見つめる。
夏子はケータイを持っていないが、夏子宅の連絡先なら連絡網で確認していた。
エリカは、一連の事件が不可解な事件である為、夏子にも教えてあげた方がいいのではないか?と思い浮かんだ。
ピンポーン
いろいろ考え事をしているうちにチャイムがなり、現在進行形で行なっている行動を止めて映像付きのインターフォンを確認する。
ピッ
「え?夏子ちゃん!?」
「やっほー!あーけーて!」
「う、うん...今開けるね」
「はーい!」
ピピッ
夏子が急に荷物を纏(まと)めて彼女の家を訪ねてきた。
彼女は直ぐに限界まで小走りしてガチャッと鍵を開けた。
「夏子ちゃんどうしたの?」
「あれ?お母さんに聞いてない?泊まるって連絡したんだけど...」
彼女は先程の母からの「ハメを外さないように」の言葉の意味が良く分かった。
あぁ...そういう事か...と小さく呟き、
「ごめんごめん。どうぞ入って」
「失礼しまーす」
微笑しながら夏子を家に入れた。
「なんで今日泊まりに来たの?」
「いやぁエリカちゃんが心配で心配で。一旦家に帰った後直ぐにお母さんに連絡してね、飛び出して来ちゃった。お母さんは後でエリカちゃんのお母さんにも連絡するって言ってたからねー」
夏子は足を広げて寛ぐ。
「ごめんね心配かけて...実は...」
彼女は自分の身に起きた一連の事件の流れを一通り説明した。
説明された夏子はかなり驚き彼女を心配する...。
「えぇ!!??まじでぇ!?大丈夫??何ともないの?!」
「う、うん。太ももを刺された様な気がしたんだけど痛みも傷も無くてね...」
そう言って彼女は自分のスカートをたくし上げて夏子に良く見えるように見せた。
夏子もまた、彼女の綺麗な足をじっと眺める様にジロジロ見ている。
夏子が余りにもヘンな目で見てけるものだから彼女は赤面して
「も、もう終わり!」
といい、スカートを戻す。
夏子は残念そうにリビングのソファにだらけてブーブー言っていた。
彼女は生クリームの泡立て中だったのでその作業に戻ろうとキッチンに移動したら夏子は起き上がって、
「?何作ってるのー?」
と聞きながら、彼女について行った。
「ケーキだよ」
彼女はほぼ完成していた生クリームを指につけて、イタズラのつもりで夏子の顔まで持って行くと夏子は魚の様に食い付き、しゃぶりはじめた。
「チュパチュパ...んぅ...ムチュ...んぁぁ」
「ちょ、変な声上げないで...」
彼女は懸命にしゃぶりつく夏子を見て顔を染め、夏子を直視する事は出来なくなって目を逸らし、ぎゅっと目をつぶる。夏子は恍惚(こうこつ)とした表情で必死に彼女の指を無我夢中でしゃぶり続けた。
「んぅ...チュパブチュ...レロレロ...」
終(しま)いに夏子は彼女の指を口内で舌を上手く使い、舐めた。
彼女の指はふやけており、彼女自身もヘンな気持ちに目覚めそうになる。
「ちょ...もういいでしょ...恥ずかしいのぉ」
「んー...美味しかったよ!」
「はいはい...それは良かったですねー」
彼女は素っ気ない返事で対応し、生クリームを冷やす為一旦冷蔵庫の中に移動させる。そのまま冷蔵庫の中にあった全卵二個と牛乳とバターとバニラエッセンスを取り出し、台所の戸棚に置いてあった砂糖と薄力粉を用意してスポンジを作る工程に移る。
夏子は興味津々に彼女のテキパキとした動きに見とれていた。
夏子は彼女に近寄り、
「私もなにか手伝うよ?」
と提案。
「じゃあボウルに卵と砂糖入れた後、ハンドミキサーを使って滑らかにしてくれる?」
「ラジャー」
彼女は夏子が必死に始めているのを見て、自然と笑が零れた。
自分の仕事をしなきゃと思い、オーブンを180℃の余熱にセットし、型にクッキングペーパーを敷き詰め、食用油を塗りたくった。
食用油は植物性の油、軽いこだわりなのだが、ココナッツオイルを塗っている。
その後、耐熱容器にコップ半分くらいの牛乳を入れてバニラエッセンスをくわえて温める。
夏子に任せた作業も15分くらいで完了し、その牛乳を入れてヘラでかき混ぜてオーブンの余熱も完了したので型に流し入れ、35分間焼く。
「ケーキって結構簡単なんだね」
夏子が手を洗いながらオーブンを見つめていた。
「簡単だよ」
彼女もまた、オーブンを見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます