第6話 協力の乙女達

柏崎中学 中間テストの日がやって来た。

  周りの生徒は机に座り、いつもの騒がしさとはベクトルの違う騒がしさが駆り立てる。その場の全員が必死に教科書を開き、試験範囲をパラパラと捲り血眼になって読んでる姿は見ていてとても滑稽だった。


「今更勉強しても遅いのにねぇ」

  要点を纏(まと)めたノートをパラパラ捲り、流すように見てる夏子。


「夏子ちゃん。最後の希望なんだからそんな事言わないであげて」


  そんな彼女も同じく要点を纏(まと)めたノートを捲りながら夏子と喋る。


  二人は最後に本屋に訪れた次の週、柏崎中学のテスト勉強教科週間中に、1週間毎日お互い会って試験勉強をしていたのだ。彼女の提案「纏(まと)めノート」大作戦が上手くいって何よりだった。


  毎日会っていたのはそうだが、全て夏子の家でお世話になっていた為、夏子母にはかなり世話になっていた。その事では後日、お菓子等を手作りして夏子と夏子母にプレゼントしたりした。


  夏子母は人柄が良くてとてもできた母親だった。期間中最終日の土曜日に夏子の熱烈な提案により宿泊した彼女は、夏子母に料理を振る舞われた。

  その料理が余りにも絶品で、料理のレパートリーが少ない自分の母ももっとレパートリー増やして欲しいと思いつつも、忙しくて全然料理しないから仕方ないと自己完結してしまった。


  彼女は家では料理をするので、母さんより出来るのではないか?と個人的に思っていた。因みに彼女の父親は全く出来ないというよりキッチンに立っている所を見た事すらない。


「困った事があったら遠慮なくいってね」


  と毎日夏子母に言われた彼女は、


「自分もあんな感じの母さんだったらなぁ」


  と思わず呟いてしまい、隣に座っていた夏子が大爆笑していたのはいい思い出だった。

  お互い分からない問題は聞き合い、切磋琢磨した産まれて初めての友人との勉強+1日のみのお泊まり会はとても貴重な経験だった。


「期末も一緒にやろうね」


  と彼女が夏子に言ったら、


「あたぼうよ!」


  とペンを回しながら言われた。




「いやぁ正直助かったよ。英語さっぱりでさぁ」

「私も数学苦手だから助かったわ」

「お役に立てられたなら嬉しいよ」


  と何気なく会話し、試験監督が入室した直後、周りがすぐに参考書や教科書をしまいだした。


「では、これから試験を開始する」


 試験監督の一言で、本日の第一科目国語の試験が開始された。






「それまで!」


 試験監督の最後の一言で試験が終わった。

  テストは明日もある為、身を引き締めなければならないのだが周りの生徒はもうテストがない様な雰囲気を漂わせていた。

  あーもう終わったや、疲れたー頑張ったわとか。たった国数英の試験で一々音を上げる人達はコツコツと勉強している人達の事をどう映っているんだろうか?

 そんなの考えてもしょうが無い、私は母さんの教えを全うしているだけだと自分で言い聞かせた。


「お疲れ様ーまた明日も頑張る為、今日もテス勉する?」


  夏子が背中を叩き、彼女を勉強に誘う。


「しっかりやったんだし今日はゆっくりしない?」


  コツコツ勉強してきた私は勿論最後まで手は抜かない。きちんと要点をまとめたノートも作ったし問題演習も必死にこなした。...今までの彼女はそうだった。しかし彼女は小学生時代の様な苦労を正直したいと思わなかった。


「ダメだよ。やろうよ!ね?」

「...うんわかった。じゃあ行こうか」

「そう来なくっちゃ!」


  思えば私も堕落していたのかもしれない...周りの人間の様に。母さん母さんと理由を付けて必死になっていた私は当時ブレーキが止まらなかった。それも母さんが目の前に居たから。でも環境が変わった今、母さんは何時でもいる訳でもない。...私は......夏子ちゃんが友達で居てくれたのが救われたのかな...




「エリカちゃん、夏子お疲れ様~」


  夏子と共に家に夏子宅にお邪魔する彼女は


「本日もお世話になります」


  とお辞儀をして夏子の部屋に向かう。

 夏子母は梅昆布茶(うめこぶちゃ)を用意していてくれたようでお盆に乗せ直ぐに持ってきてくれた。彼女は夏子母に


「頂きます」


 と一言断り、スズッと昆布だしの甘みと梅の酸っぱさが調和し、尚且つそこにお茶という要素がぶつかりとても美味しいお茶だった。


「じゃあ勉強頑張ってね~」


 と夏子母からの声援を貰いお互いノートを開く二人。

  二人で作ったお互いの弱点を克服する為の要点を纏(まと)めたノートを交換し、答え合わせをし合う二人。正答率100%を目指して繰り返し繰り返し行う。


「そろそろ問題演習に移ろうか」


  彼女が提案した問題演習...単純に問題集を開き、むつかしい問題をひたすら解くのだが、制限時間を設けるのがミソである。


「じゃ、私はこの理科の問題を20分で2ページ!」

「じゃあ私も夏子ちゃんと同じで」


  制限時間も長ければ長いほど人間の集中力が無くなっていくので程々に。


 ピピピピッ!


「タイマーなったから答え合わせしようか」


 夏子がタイマーを止めた。


「うん、われながらなかなか出来がいいよ...エリカちゃんはどう?」


 夏子が嬉嬉として赤ペンで丸をつけている。


「全部正解してた」


「この天才!」


  えへへと微笑む彼女に、えいえいとちょっかいを入れる夏子。この空間が彼女にとって成長させる一つの要素であったことは彼女自身は気付かない。

  なんやかんやで夕暮れ時、お互い試験対策バッチリだという事でお開きにして帰宅した。



 柏崎中学 中間テスト2日目


「よし、今日は理科と社会の二科目だけだ!完璧にこなせよー」


 と教師がいい、周りは席につく。テストが始まる時間までは昨日よりも気の緩みが激しく、友達同士で談笑する者まで現れた。


「周りの緊張感の無さ、凄いねぇ」

「うん。夏子ちゃんは緊張してる?」

「勿論。エリカちゃんは?」

「えへへ、私も...」


 お互い、昨日やった所を見直してテスト本場まで時間を過ごした。




「お疲れ様!テストの解答は金曜日!!テスト振替の日として明日と明後日は休みな。脳をしっかり休ませて金曜日の授業に挑め!解散!」


  その場誰もが檻から開放された猛獣の如くわんさか騒ぎ出した。彼女は夏子に引っ張られてクラスを抜け出した。


「うわぁ引くぐらいやばいね。うちのクラス。主に頭が」


 夏子は後ろを向きながらあの騒ぎ立てた連中に毒を吐く。


「あはは...」


 彼女は夏子の毒に苦笑いをし、夏子は彼女をそのまま誘導して二人は下駄箱まで移動する。


「部活は来週まで決めないとやばい感じだね」


 夏子は下駄箱の前に貼ってある運動部の広報ポスターを見てそう答えた。


「そうだね。んー私はどうしようかなぁ...」


  夏子はスキー部が無いため、彼女と同じ部活に入ろうと考えていた。彼女を守る為に近くに居たいという夏子自身の答えだった。


「文学部に入ろうか?」


 夏子の提案に驚いた彼女は


「え?文学部?夏子ちゃんも入るの?」


 その問にコクリと頷き、


「私も例の本屋に行った後にネットでいろいろ読んだんだけど興味湧いちゃって。それにエリカちゃんと一緒に活動したいし」


  その答えに彼女は恥ずかしい想いが心の奥底からぐっと湧き出る感情を感じていた。彼女は一言ありがとうと夏子に言って、


「じゃあ一緒に文学部入ろっか」


 と嬉しそうなトーンで彼女は夏子に誘った。


「そう言えば興味、何曜日だっけ」


 夏子が曜日を確認すべく、彼女に聞く。


「火曜日よ」


 火曜日か...そう言えば明日、例の店の営業日か。

 彼女はそう思いながら答えた。


「あーじゃあ明日...だっけ?」

「やっぱり気になるのね」

「そりゃああんな沢山イケメンさんいたら...ねぇ?」

「女の子だし分からなくもないよ」


 そんな話をしながら帰路につく二人はいつの間にか別れ道に辿り着いた。


「じゃあまたね。明日はどうするの?」

「んー私がお昼頃そっちにいくから、エリカちゃん待ってて」


 夏子は明日其方にいく事を伝え、


「また明日!気をつけて帰りなさいよー」

「またね!」

 彼女は夏子と一旦別れた。


「明日は楽しみだなぁ」


 とスキップをしながら家に入った彼女、鍵を入れようとするが違和感に気付く。何故か鍵が開いていたのだ。


  母が帰ってきてるのかと思い、ガレージを確認するも車が無い。誰なのか不安気に除くと空き巣が入っていた。

  彼女は直ぐに緊急用の子供用ケータイから母に電話をするも、仕事中の為か出てもらえなかった。こういう時に大人を頼る者だとは言うが頭に遮ってきた夏子母...流石に他人を巻き込むわけにはいかない。


  ケータイに110ケーサツと登録されていた。

 彼女はまだ幼い中学生だ。どうすればいいか混乱していた為、よくテレビで見ていた警察なら...と思い、思い切って警察に電話する。


「はい柏崎警察です」

「あ、もしもし」

「どうしたのかな?」

「知らないおじさんが家にいて今外に私が居るんですが」


 緊張と恐怖感が押し寄せてきて、なかなかうまい具合に話すことが出来ない。


「!?大丈夫かい?家は?」

「家は...分かんないです」

「あー住所わからんか。近くになにかある?」


 彼女は見渡した。近くにあったものと言ったら


「らばーまーけっと?というお店があります」

「おk。近くに赤い建物ない?」


 周りを見渡すと、ラバーマーケットの裏手にガソリンスタンドがある。


「あります!」

「わかりましたー。じゃあすぐ行くから!おうちの屋根の色は?」

「緑色です」

「ありがとう。すぐ行きます」


 そう言って警察官は受話器を切る。

 彼女は一安心したと思いきや


 

「何をしているのかな?お嬢ちゃん」


 後ろを振り向くと鈍器を持ったおっさんが居た。

 彼女は急いで離れようと試みるが直ぐに捕まってしまい近くに止めてあった車に乗せられた。

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