第5話 異世界書房の仲間たち②
「あ、店長さん!一昨日はありがとうございました!あの!」
彼女はそういってバッグから可愛らしい包み紙によって綺麗に梱包された箱をテイに渡すと、テイはその箱を受け取った。
「開けてもいいですか?」
「はい!」
彼女の答えにテイは嬉しそうにリボンを解き、丁寧に包み紙を剥がしていく。そしてフタを開けると...
「おぉ!クッキーですか!」
30枚ほどのクッキーが綺麗な7色のペーパークッションの上で整理されていた。しかもクッキーの形が別々で可愛らしいクマの形があれば、なんだか良く分からない形のクッキーまであって中々面白い。
「これ、ご自分で?」
「はい!手作りです!」
その返しに、夏子を含む一同全員が感心する。
「凄いですね!とても嬉しいです!ありがとうございますお客様!」
「えへへ、後で皆さんで食べてください!!でも喜んでもらえて良かったです。本のお礼もまだだったのに...」
「そんなお礼だなんて...そういえば太宰治の人間失格、どうでした?」
テイはクッキーの箱を包み紙を上手く戻し、誇りのない奥に置くようにイシュティルに渡した。イシュティルはクッキーの箱を優しく両手で持ち、慎重に動いていた為、彼女は
「イシュティルさん、そんな大層なものでもないし丁寧に持たなくても...」
というと、イシュティルは
「お客様に頂いたものはとても貴重です。ましてや礼品だなんて...本当に感謝します」
といい、ゆっくりと持っていった。
「はは...お客様に頂いたものというのは信用と同等のものと私たちは捉えてます。本当に感謝してますよ?」
とスウェルは頭を下げた。
「そうです!お客様からの頂き物なんて滅多にないですからね!」
とニカがにこやかに喋る。
「皆さんにそこまで褒められるなんて、嬉しいです」
彼女は俯いて目線逸らした。
「店長さん、ここの空間は異世界なの?」
クッキープチ騒動が落ち着き、夏子がテイに話を振る。
テイは目を閉じてこう答えた。
「はい。仰る通りここは異世界書房、出張所というのはまああちら側からこちら側に出張しに来てるようなニュアンスで手紙に書きましたが厳密に言うと、ここは異世界の中なのです。空間移動のようなものですかね...彼が全てやってくれました」
テイは椅子にちょこんと座っているイシュティルの方向へ向き微笑んだ。
「はい。空間移動の類で間違えありません」
「属性は?」
イシュティルの魔法の話が気に入ったのか、彼の空間移動はどのような属性で動かしたのか気になった夏子は挙手してイシュティルに質問した。
「光です」
イシュティルは微笑んでこう答えた。
「この魔法は光なんですが、座標を確認して移動する高度なものでして、間違えたら空間が歪み物質が崩壊しちゃうんです。ですので人生の中で一番神経を使いました」
そういってイシュティルは、簡単なものですが...と呟き、手元にあった本を向かい側に座っていたニカの所まで瞬間移動させてみせた。
すると瞬間移動し、いつの間にかニカの膝上に置かれていた。
「うぉぉすげぇぇ!!」
ニカはすごく興奮していた。
「すぐそこのニカの膝上までの瞬間移動くらいなら座標を指定しなくても瞬間移動できます。私の半径800メートルまでの範囲内なら...ですが」
脳みそが機械の様に自動的に計算して座標指定くれるから...らしい。
話を聞く所、高度な数学の知識と超記憶能力が必要との事。
つまり常人には不可能なわけだ。
「いやでも本当に凄いですね!」
夏子がイシュティルに大して賛美の拍手を送る。
照れ隠しなのか
「別に凄くないですよ」
といい、顔を背けていた。
「まぁこんな感じで同志が集まり、なんやかんやで此方まで来れた感じですね。あれを見てください」
テイが話を纏め本棚を指さす。
一同はその本棚に目を向けた。
「あの本達は日本のとある文学を読んでからこれらの本を集めるようになったんですね。その本がお客様に勧めた人間失格なんです」
そういい終えたら奥からお盆を持ったスウェルが現れた。
静かにコーヒーを置き、頭を下げられたので彼女らも軽く会釈する。
テイはコーヒーを人啜りし、話を続ける。
「文学作品の構成、深く練り込まれた物語、そして人間味のある登場人物達。全てが素晴らしく思い、日本の文豪たちに驚かされました。我々の世界ではこのような文学なんて文化は御座いませんでしたから。私は後日、人間失格を持って帰り皆さんに読ませてみたらとても面白くて楽しい娯楽という印象を与えてくれました。私たちの世界は戦争などが起きていたのがつい最近で今は安全ですがそのような事があった為、娯楽は少ないのです。ですがこういった作品を故郷の人らに提供して楽しませたいから私たちが集まり、力を合わせて輸入しているんです。此方にはお世話になった方がいますので、その方が居なければ、日本文学すら読めていなかったのかも知れません」
テイは一呼吸おき、コーヒーを啜った。
「このコーヒー美味しいですね」
彼女はコーヒーを啜りながらこう答えると
「ありがとうございます。これは日本製の珈琲豆から焙煎して挽いたものです。手作り...みたいなものですかね?拘りが強くて」
頬を掻きながら淡々と説明するスウェルに、話に吸い込まれた彼女と夏子。
「スウェルさん、料理は得意なんですか?」
夏子が質問すると
「はい。料理人だったんです」
スウェルが微笑んで答えてくれた。
「みなさんは元々他の仕事をしていたんですか?」
彼女は気になったので聞いてみると、
「我々は軍で働いていました。役職は別々ですが...ちなみに私は通信士です」
テイが答えた。
「俺は兵士でした。前線で戦う人間です」
ニカはそういって片足を見せると義足になっていた。
戦争でやらかして亡くしてしまったらしい
「義足!?大丈夫なんですか?」
彼女は驚くが、
「全然へーきですよ!」
鼻を親指で弾き、笑顔で答える。
「私は魔法士です。おまけで軍医もやりました」
イシュティルが話終えると
「そう言えば聞きたいことがあったんですが」
テイが彼女に質問をした。
「聞きたいこと...ですか?」
「はい。エリカ様と夏子様はよくこの場所に入れましたよね。エリカ様は以前一度来られて居るので分かるのですが夏子様まで...。もしかして一般人の方には見えてるんですか?」
「いやそんなことは無いはずだ。お客様らに微量ながら魔力を感じる。つまり魔法の適正があるってことだよ店長」
テイの発言にすぐさま反応したイシュティル。テイはなるほどと頷きイシュティルはこちらを見た。
「お客様、ちょっと失礼致します」
イシュティルは変な紙を彼女と夏子に渡す。
「この紙をぎゅっと握ってくれませんか」
言われた通り、彼女と夏子は紙がくしゃくしゃになるまでぎゅっと握りしめ、
くしゃくしゃに成り果てた紙をイシュティルは二人から受け取り、魔法をかける。
「今掛けているのは無属性の魔法なんです。これを掛けることによってお客様達の適正属性が分かるんです」
そういって呪文を掛け終えたイシュティルは二人に色がついた紙を見せた。
「まず夏子様。夏子様は火の色をしていますね。火属性に適正があることが分かりました、そしてエリカ様。エリカ様は緑色なので自然属性に適正があることが分かりました。どちらも適正がありますので充分、見えるのは納得しました」
そのまま席に着いて紙を捨てるイシュティル。
「ありがとうイシュ。変に疑って申し訳ございませんでした。本に興味があるんですよね?」
そういって二人に目線を配るテイだが、夏子が申し訳なさそうに
「私は付き添いで...ちょっと読んだ程度なんですけど...」
と答えたがテイは微笑んで
「そうだったんですね。わざわざお越しくださりありがとうございます」
とお辞儀する。
「いやいやそんな!」
傍若無人な流石の夏子でもテイの丁寧すぎる対応に困り果てた。
「私は店長さんに教えて貰った人間失格を読んでどんどん読みたくなりました。本当にあの時は紹介して下さってありがとうございます」
「喜んでいただけたのなら良かったです」
外を見ると空が焦げて綺麗な夕焼け空になっていた。
「そろそろお暇(いとま)しますね。本日は本当にありがとうございました」
彼女は立ち上がり、メンバー達に深くお辞儀をする。
「私も勉強になりました!ありがとうございました!」
夏子も後を追うように一緒にお辞儀をした。
「いえいえ私共の勝手で御足労頂き誠に感謝しています。ありがとうございました。お帰りはご気をつけて」
テイ、ニカ、スウェル、イシュティルの4人は深くお辞儀を返した。
「また来ます」
彼女のその一言で幕を閉じた。
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