第3話 異世界書房
「異世界書房??」
彼女は手紙を手に取り中は開封せずにとりあえず家に入った。
「おかえり。エリカ」
エプロン姿の母が居た。
「え?お母さん!?」
母は学校の役員に所属しており、メガネをキリッとかけたバリバリの教師で学内では有名だ。恐ろしく怖く、娘に対しても風当たりが強く、随分教育熱心だった為、勉強は小さい時から仕込まれた。お陰で勉強に関しては不自由は無く、小学校時代の成績も体育以外はオール五だった。体育は3だったが必要が無いからと大目に見てもらえた。
ただし、算数や国語などの主要科目で4でも取ってしまうと、酷い罰が待っているのだ。なんとこの鬼母の勤務している柏崎中学に連れて行かれ自習室にて現役の中学生に混じって勉強を強いられること三日間、お陰様で彼処の学校の先輩は彼女の事を知ってる者も居るだろう。こんな母なのだ。
「早く部屋の片付けをしてきなさい。散らかってたわ」
母の眼光が私を睨む。
「は、ふぁい!」
惚けた返事をしつつ、彼女は急ぎ足で自室に篭もり、机の上にある学習道具を整理整頓し、ものは落ちていなかった為、とりあえず掃除機をかけた。
その後に水に濡らした雑巾がけをし、乾拭きをする。
母の目は誤魔化せない為、短時間だけど兎に角徹底して掃除をした。
「そろそろ終わった?」
「はい、終わったよ」
「ん...まぁいいわ」
いつも居ない母が急に家に居るという現状がまだ飲み込めていない彼女は
ちょっと吃(ども)りながりも理由を聞いてみる。
「えっと母さん?役員で忙しいんじゃ...」
「今日はすぐ終わったのよ」
「あぁ...」
そういや半ドンだったのすっかり忘れてた。
って母が居るってことは...
「来週テスト強化週間!確実にテストを攻略するもの休むべからず!あんたは一流大学に進学させますから学校のテストは完璧に仕上げなさい!」
といい、自室に仁王立ちして此方を見てくる。彼女はやっぱり...と内心思いつつも仕方が無いからと勉強道具を出して母の前で勉強する事に。
母は自分で言った事は曲げない人で執着心がかなり強い。随分変わってる人だと彼女自身も思うのだろう。だって小学校時代数時間の自習をずーと目を見開いて監視していた人だからだ。
多分今回のケースは初めてだが中学に入り難しくなる科目ばかりだという事で母はこういった逸脱した行動を取るのだろう。これも娘の為に時間を割いてくれているものだから気持ちは汲み取っている彼女は黙々と試験勉強をする。
「前期は簡単だけど後期に入ると引っ掛けも多くなりケアレスミスも少なくない。前期を完璧に仕上げれば後期に入る授業は対応できる。しっかりとやりなさい」
苦手な数学を解きながら煩いなぁと思いつつも嫌な気はせずに黙々とやり続ける事にする。それが一番なのだ。
30分後に学校で渡された試験対策プリントを取り組み、元々得意だった英語は100点、国語も社会も100点。ただ数学は90、理科は98という結果に終わった。
彼女は見せたくない気持ちでいっぱいで小細工をしようか考えたが、母は終わったのかと机に顔を覗き怒りに狂う。
「数学!なんだこの点数は!!理科もケアレスミスに気をつけろ!勉強時間3時間追加だ!」
といわれ、頭をバシンを叩かれた後に対策プリントを取り上げられた。
彼女は対策プリントの答えを丸暗記しようと企んだがその計画は失敗に終わってなんとも言えない気持ちになった。
しかし彼女自身、頭の中では数学なんかよりも、異世界書房?からの手紙と例の本屋についての不可解な出来事についての事で頭がいっぱい過ぎて、集中力が続かなかった。
「ん?太宰治か。最近読んでるの?」
母は本棚にあった一冊の本を手に取り興味津々に本を開く。
「う、うん。面白かったよ」
「文豪たちの遺した作品がつまらないわけないだろう。私も読破してる」
そういい本に目を通す母を尻目に黙々と勉強を続け、いつの間にか夜になった。
「さぁ、同じ試験対策プリントよ。やりなさい」
さっきのプリントは9割は取れていた為、多少は問題なかった。出来なかった問題もスラスラ解けるようになっていて自分でも驚いた。
採点は母にやってもらう事に...
「...合格」
そういい残し、母はリビングに降りていった。
「良かった」
安堵した彼女は手紙を取り出して中身を読んだ。
初めましていきなりの手紙失礼します。
以前、お客様が立ち寄られた本屋の店長です。
私は異世界書房というお店を営んでおります。
異世界書房というお店は特殊なシステムで、
異世界から此方に出張という形でやって来ました。
私は異世界の人間ですが、あちらの書物でニホンという
場所がある世界について知り、色々研究しました。
どんどん追求していくと小説という概念がある事に驚いたのですが
異世界では小説というものは浸透しておりません故
私は小説を広める為に異世界と此方の世界のニホンという国と繋がったポータルをつくりました。こちらで調達して広めています。
定期的に出張所を開きますので彼処の店に入れば此方の世界に来れます。
是非当店に起こし下さいませ
P.S 異世界出張所は普通の人には見えません。お客様には不思議な力が宿っているのだと考えました。興味がありますので是非お越しください。
「ううんよくわからん。とりあえず明日夏子ちゃんに見せてみるか」
その後、リビングにて母手作りカレーを頂き風呂に入って寝た。
朝は母に起こされた。いつも母は早めに出るのにちょっと変だと思っていたら、以前遅刻しそうになった事を知っていたのだ。親の勤務先の学校で学ぶというのはかなりのリスクがあるということを痛感した。
「早く起きなさい」
母さん...6時だよ今...
そのまま母は支度をして家を出た。彼女は母に6時に学校まで連れて行かれるのかと内心ハラハラしたのだ。あの鬼母ならやりかねない...と。
彼女が起きて1時間、順調に準備を進めていたらポストに何か音がしたのに気がついた。
「ん?なんだろこれ...また手紙?」
以前貰った手紙とは、柄の違う手紙が投函されていた。
彼女は今は開けずに、前回もらった手紙と共に夏子に見せる事にした。
「よし、じゃいってきます」
遅刻はしないよう余裕をかませる時間に家を出た為、あのような過ちは起こさない。本を読める部活とかあるといいかなぁと思いながら足を進める。
彼女は突然視線を感じて、後ろを振り向いた。が、誰も居なかった。
もしかして不審者?と恐ろしくなって早足で学校まで走り去った。
ホームルーム前に...
「おっはよーん!」
「おはよー夏子ちゃん。これみてよ」
「ん?手紙?」
「ポストに投函されてたの」
「うわぁ怖いねえ。ストーカーかなんかじゃないの?」
「朝、視線感じたしそうかも」
「ちょいと見せて」
夏子は手紙をひょいと取り上げて開封済みの手紙を黙読した。夏子の表情が険しくなる。
「...なんだこれ」
普通の反応だろう。普通に生活している人がいきなり異世界なんて単語を聞いたらどう思うか?ただのオカルトマニアか、頭のおかしな人に見られる...世間体はそうなのだ。有り得ない事に口を出すほど世の中の人間は暇じゃない。
「怖いよね異世界とか」
「かっこいい!!私も絶対連れていってもらうからな!」
「ヴぇ!?」
予想外な反応に変な声が出てしまう彼女。
「凄い度胸ね」
「それにそれがウソかホントか分からないにしても住所も知らない奴から手紙届いたら友達護衛しなきゃね。大丈夫!守ってやるよ!」
まかせな!と胸を叩くもケホケホと咳き込んでかっこいいシーンを台無しにする夏子に笑ってしまう彼女。それにつられて夏子も笑う。
「探検みたいで楽しみだな」
「そうだね夏子ちゃん」
「あ、授業始まるからまた後でな!」
そういって机の中から教科書を出して準備をする夏子。
国語の教師が入ってきて、黒板に本日の内容を書き連ねる。この先生はいつもこうだ。チャイムが鳴る前から黒板に書くのだ。お陰でその分授業出やる内容が長くなるから不評の先生なのだ。禿げてるし。
六限目終わりの教室内
「さて、今日は部活でも探す?」
「そうだね。早めに決めないと...」
二人は一階通路の掲示板に張り出されている部活表を眺めた。
「野球部...水泳部...ラグビー部...スキーがない...」
「文芸部...文学部...小説部...どれに入ろうか迷っちゃう」
流石名門校だ。部活の量が盛んであるが故、迷ってしまう傾向が強いのであろうか掲示板前には初等科の男子女子らを悩ませている。
「夏子ちゃん、今日はとりあえずいいかな」
「そうだね。また明日見ようか...人多すぎて引く」
取り留めのない空間で混在していた二人は、兎に角(とにかく)手を引いて、また後日来ることにした。
手元には配布された部活連の雑誌があった為、別にそこから選んでもいいかなぁと思う二人だったが、帰りのホームルーム後に見てこいとしつこく言うため見に行ったのが凶と出たらしい。
「いやぁ疲れたねえ」
「うん。あ、こっちの手紙も読んだ方がいいかな?」
「まぁなにがあるか知らんしねぇ。早めに見といた方がいいよ」
彼女は未開封の手紙の封を切り、中身を確認する。
昨日ぶりですね。
伝え忘れた事がありました。申し訳ございません。
定期的にというのを具体的に書いてませんでしたね。
無駄な御足労をさせるのは我々心苦しいものですから
きちんと曜日を書かせてもらいます。
水、金、日の週三回
此方(こちら)の世界で本を調達して異世界で異世界書房の店で販売して
いますので是非お越しくださいませ
「!!明日じゃん!!」
「......」
二人は不安げな気持ちも隠せないまま、彼女は手紙をバッグにしまって二人は解散した。
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