第9話 女子高校生 やらかす
「アンタ、服装が変わってるじゃないの」
『職業・痴漢魔導士』という凄まじ過ぎる名前のせいで気づかなかったけど、いつの間にか痴漢男の格好が変化していた。
Tシャツジーパンに茶色の布を羽織っただけの痴漢男の姿が、映画とかの魔法使いがよく着ているような漆黒のローブを纏っていた。案外似合ってやがる。どうやら私と同じように職業を発動させると身なりも変化するらしい。
「…………ねぇ。何か変わった?」
「……むぅ。特に変化した感じはないが――こう、ムラムラするな」
「それって、私の尻を触ってるからじゃないの?」
「それだ!」
「それだじゃねぇよ! もうヤダ何なのこの危機感の無さは!」
変化した感じはしない――? そんな事は無い筈だ。
少なくとも、私が『紅蓮騎士』を発動させた時は――自分でも実感できるほどに強くなった感覚があった。
……もしかして騎士っぽい格好になった私と違い、魔法使いっぽい姿になった痴漢男は、上がったステータスが違う?
「――ふん。安心しろ巨乳。自分が強くなったかどうかさっぱり分からないが――強くなるであろう方法は知っている」
「ほんとにっ?」
「当然だ」
痴漢男はそう言うと、ニヒルな笑みを浮かべる。
「俺は『痴漢魔導士』なのだろう? 痴漢をしてみたら分かるに決まってるではないか」
「………………!」
え? え? …………それってもしかして……!
「ふむ。盗賊を倒すためには致し方ないな。本当に仕方がない。痴漢など決して許される行為だが、人の命には代えられないな。手軽な女体に痴漢をしてみる事にしよう」
「……ひっ……や、やだ……!」
「よっと」
痴漢男はゆっくりと私を鉄製の床に置くと、両手をパキパキさせてゆっくりとにじり寄って来た。
片や女の体にしか興味がない痴漢魔。片や麻痺のせいで自由に体が動かせない私。
……アレ? ……これって、もしかして……。
私の初めて――鉄製の檻の中なのッ!?
「やだ――――――ッ!!」
「落ち着け。盗賊に聞かれたら面倒だ」
「でもだってヤダヤダヤダ! こんな人がたくさんいる中で辱めを受けるなんてヤダッ!」
「さっき体で支払うと言っただろう?」
「……うう……そうだけど……。こう、雰囲気とかあるじゃんッ! 心の準備も出来てないし!」
突然スカートを捲った。
「……む。このピンク色のパンツ、何かシミが出来てないか……?」
「出来てないわよ馬鹿ッ!!」
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!
男なんて大っ嫌い!
分かってるけど! 現状を打破するには黙って痴漢される事が最善だと分かってるけど!
嫌なもんは嫌だってば!!
「おお……」
痴漢男の『シミ』という言葉に反応して、檻の中のおじさん達が鼻を伸ばしながら感性の声を上げた。何でよ! さっきまで死んだような顔をしてたじゃん!
「見るな見るなぁ――ッ!」
憎い! 前の世界でも異世界でもロクな目に合ってない私の不運が憎いッ! 暗闇に慣れた目が憎いッ! 痴漢魔導士なんて馬鹿な理由で触って来やがる痴漢男が憎いッ!
「この――――ッ!」
もし私が動けるなら、こんな男ぶっ飛ばしてやるのに――と、思って力を込めたら何と予想外にも本当に拳が動いた。
痴漢男の死角へ飛んだ私の拳は見事頬に直撃して――檻の端まで吹き飛ばした。
「がはっ!!」
「わわわわごめんっ! 体が動くなんて思わなくてっ!」
威力はなかったと思うけど、成人男性が勢いよく檻にぶつかったせいで荷馬車が大きく揺れた。――それがいけなかった。
荷馬車の揺れで驚いた馬が――鳴きながら暴れ始めたのである。
「おい急げッ! 檻で誰か暴れてるぞッ!」
馬の鳴き声で檻の中の異変に気づいた盗賊がそれほど遠くない場所で声を荒らげる。数十秒もすれば盗賊がやって来るだろう。
「だ、大丈夫っ! 体が動けるようになったみたいだから、私が倒すから――」
動けるようになったのならこっちのものだ。『紅蓮騎士』を発動させて、盗賊を蹴散らせばいいだけだ!
――しかし、動かせるようになったのは痴漢男をぶっ飛ばした右手だけだった。両足は未だピクリとも動かない。
マズイ――――――ッ!!
「…………おい。誰だこの女の『痺れ針』を取った奴は……? どうやらよっぽど死にたいようだなぁ……!」
慌ててやってきた盗賊の一人が、檻の鍵を開けて私を見下ろした。その瞳は怒りによって炎のように揺らめいていた。
最悪の展開であった。私という役立たずのせいで、せっかく助けに来てくれた『痴漢魔導士』の男も、村人も助けられずに終わる。
そんな考えが頭を過った刹那――
「――くっ――――」
村人に紛れていた痴漢男が、全身を使って盗賊にタックルをブチかました。流石の盗賊も不意の攻撃を避ける事は出来なかったらしく、男は檻を飛び出し固い地面に勢いよく叩き付けられた。
「――――なんだっ!?」
「今だッ! 檻の奴らはバラバラになって全力で逃げろぉッ! 死にたくなかったらな!」
痴漢男はそう言い放つと、急いで起き上がり私を担ぎ上げる。
「逃げるぞ」
痴漢男と私は、檻から飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます