第8話 穏やかな時間

 いつも通り、僕は彼女の座っているベンチの横に腰を掛ける。「お疲れさま」とお互いに声を掛け合う。「この感じ、中学や高校生のころを思いだすよ。気の合う友達と放課後や帰り道でいろんなことを語り合うひとときを。あの時間だけは仕事をしていない自分だったよ。幸福な時間だった。何を話していたかは忘れた。きっとどうでもいい話ばかりだったけど自分を出せていた。本音で話していた。自分を表現していた。何もない自分だがそれだけは、ぼくの大切な居場所だった。」「それはよかった。私もこういう時間好きよ。」「今日は何を話そうか、あまり思いつかない」「別にいいんじゃない」お互い黙ったまま、携帯をさわったり、本を読み始めたり、ぼーっと空や公園を眺めていた。そこには穏やかであたたかな時間が流れていた。

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