第7話 君という謎
「なんか、ごめんなさい。もう帰ろうか」といってベンチから立とうとすると、彼女は僕の袖を引っ張って止めた。「そういうつもりで言ったんじゃないの」彼女は僕の目を見て、少し怒ったように言った。「無理やりでもいいよ、私のこともう少し信じて欲しいな。君が少し焦っているように感じたから。」彼女は僕の袖を離す。僕が少し座り直す動作を見て「続きを聞かせて」と彼女は言う。公園の電灯がもう着き始めている。「薄暗くなってきたね。」「私は大丈夫よ。別に用事なんてないし、暇だし、それより星がきれいだね。」「確かに、きれいだね」少し余っていたコーヒーを飲み干し、僕は一息つく。虫の鳴き声が聞こえる。僕は話を続けた。
「不安なんだ。何をするにしても、目的がないから、手段や理由ばかり、何もないから、不安に囚われてばかりだ。そんな生活を続けるとなぜか細かいことが気に始める。手の洗い方だとかしゃべり方だとか、自分の見た目とか、自分の不安事を確認し出す。自分の動作一つ一つに不安になる。神経質になる。もしも、そうなったらどうしようと心配事に囚われてしまう。そんな気持ちになったことはあるか。」彼女に対して少し口調が強くなった自分に気づいて、怖くなった。
「少しは分かるよ。誰にだってあるかもね。行き過ぎると病気と判断されそう。」「先ほどの焦りもそこからなのかな。私に対して話す事自体も逃げなのではないかという葛藤も少し見える気がする。」「でも君はその気持ちを抱えたまま、私の所まで来てくれた。ありがとう」最初、僕は戸惑いを感じたが、僕のことを初めて見てくれた彼女に対してありがとうという気持ちに変わっていた。「何、泣いてるの~」と 言われ、僕は恥ずかしくなって顔を手で隠して、反対のほうに向いた。彼女の笑い声が聞こえる。「ありがとう」と僕は言った。「私が君という謎を解いてあげようか」と彼女は意地悪そうに足をぶらぶらさせながら、僕の顔を覗き込もうとする。面白がってるなと思っていると、彼女のお腹が鳴る。今だと思って「あれ~お腹すいてるの~?」とからかうように彼女に向かって言う。「別にいいじゃない」と恥ずかしそうに彼女はお腹を押さえた。
星が綺麗な夜だった。
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