第18話
☆三南航星
首都の気のいいオヤジ達におごって貰ってカノンはご満悦だった。たっぷりリンゴを使ったケーキを食べ、俺も肉を食べた。表情がほころんでいたことだろう。リザだけは食べていいものの制限があるのか、注文の時に少し時間がかかったが、それでもオヤジ達によって腹が膨らんだ。
「あ、そうだ。そういえばあの二人って兵士引き連れてどこ行ったの?」
腹一杯食べた後、あの二人の行方が気になったようだ。腹が一杯になる前は気にならないのが実にこいつらしい。
「ああ、おそらく賊の討伐作戦だろうな」
「賊の討伐?」
「ああ、このあたりを荒らしている奴らがいてな。そいつらを討伐するために行ったんだと思うぜ」
教会を襲撃してきた五人組を思い出す。あんな奴らが他にもいる。そう考えると兵士を動かして討伐に動くのも無理はない。
「よし! じゃあ助けに行こう!」
カノンが席を立つと、いきなり言い出した。すると少しの間を置いて野次馬だった奴らが大笑いする。
「その必要はねぇよ。一国の王子様とあのオルレアさんの娘さんだぜ。心配いらねぇよ」
「それに一緒にいた兵士達も手練ればっかりだ。行ったって何もすることねぇぞ」
「行ったって邪魔なだけだぜ」
助けに行く。そういう発想を持つことがそもそもおかしい。野次馬達はそう考えている。下手に介入すると逆に足手まといになる可能性もある。それほどの戦力であれば確かに助けに行くなどと言えば、大きな笑いが起こるのも無理はないだろう。
「えー、じゃあ観戦しに行きたい」
助けに行くのは諦めた。でも行きたい気持ちに変わりはない。つまりカノンは近くで見たいのだ。箒に乗っていた彼女の戦う姿を。自分が憧れた魔法使いという存在の戦い方をその目で見たいのだ。
「観戦くらいだったらいいんじゃないか?」
カノンの気持ちもわからないことはない。俺は野次馬根性と言うより、この世界の戦いというものがどういうものかを知りたい。純粋にそう思っている。そのためには戦いというものを直に見るのが手っ取り早い。
「どこに行ったか知ってるか?」
行き先を聞くと、オヤジ達は顔を見合わせる。知らないのか、それとも言えないのか。
「さっきの通りから外に出てまっすぐ行ったら廃城がある。おそらくそこだろう」
野次馬達の中の誰かが言った。
「わかった。ありがとう!」
カノンはそう言うと店を出て行く。こうなるともう後先を考えない。とにかく目的地に直行する。
「じゃあ行ってくる」
俺も席を立つ。するとリザも席を立った。
「リザ?」
「私もご一緒します。私も見ておきたいことがありますから」
「そっか。じゃあ行くか」
店を出る前におごって貰った礼を言って、俺達はカノンの後を追う。大きな通りを歩くカノンに追いつき、賊が集まっていると聞いた廃城へと一直線に突き進む。
「まっすぐでいいんだよね」
「そう言っていたな」
「よーし! 魔法使いの戦い方、しっかり見るぞ! ゴーゴーレッツゴー!」
好奇心と興味で満ち溢れたカノンの足取りは軽い。俺も今回は好奇心や興味で動いている。今回に限ればカノンと動機に大差はなかった。
城郭都市を出てまっすぐ。すると以外と早く廃城が見えてきた。
「あれが廃城?」
「はい。昔は軍事拠点だったのですが、今は必要がなくなって放棄されています。規模は小さめの砦のようですね。放棄する際に城壁などを壊すのが基本ですが、賊達が応急処置を施したように見えます」
リザが遠目に見て、瞬時に判断した。教会騎士を目指していると言うだけあって、彼女の状況判断の能力は心強い。そしてこの世界の知識が全くない俺達にとって、彼女ほど助けになる人もいない。
「よーし! じゃあ行こう!」
「行くのはいい。けど、行って簡単に見学させてもらえるとは思えないな」
向こうは任務で動いているのだ。全く関係のない人間の存在はただの邪魔でしかないはずだ。
「近づけるだけ近づいてみましょう。それでダメそうなら引き返すのがいいでしょう」
無理矢理接近してもいいことはない。心証を悪くするとせっかく危機を乗り切ったのに、また新たな危機を招くことにもなる。しかしこの世界の戦いというものを見ておく必要があるので、ここは行けるところまで行ってみるというリザの考えに賛成だ。
「えー、中まで入ろうよ」
「状況にもよるだろ。敵に見つかったらどうするんだよ」
「うーん、段ボールがあれば大丈夫だと思うんだけど」
「大丈夫じゃねぇよ。わがままは言うなよ」
廃城まで近づけるまで近づく。すると見るものも増えてくる。城壁よりも高い位置に箒に乗ったリリアルが見えた。彼女が手を挙げて振り下ろす。すると大きな音が鳴る。度やら魔法を使用して戦っている真っ最中のようだ。
「おぉーっ! 魔法だ!」
今にも走り出しそうなカノンを無理矢理引き留め、慎重に近づいていく。太陽が少しずつ沈んできており、もう間もなく日暮れだ。しかし見た感じでは日が暮れる前には終わりそうな印象しかない。
「楽勝のようですね」
俺の見立てとリザが同じ意見だ。なら自信を持って言える。戦力差が圧倒的なのだと。
崩れた城壁の一部から廃城の中をのぞくことができる。逃げ惑う盗賊達にリリアルが空中から魔法を撃つ。反撃の魔法は箒を軽やかに操って華麗に避け、また魔法を撃ち込んでいく。隊列の乱れた地上ではルワーリオの指揮で兵士達が盗賊を確実に倒していく。そこに慈悲というものはなく、確実に殺していく。
そこは戦力こそ圧倒的に差はあるが、間違いなく戦場だった。
「わぁ、すごい! 強いね!」
空中から魔法を撃つ。反撃は当たらない。地上では隊列の乱れたところを腕利きの兵士達が確実に仕事を果たす。ルワーリオ王子本人も強いようで、接近してきた賊を瞬く間に殺してしまう。
「リリアル……ローシュバイン……」
戦いの様子を見ていたリザが小さく呟いた。
「リザ、どうかしたのか?」
「あっ、いえ、何でもありません」
彼女は否定した。しかしその様子はどこか慌てているようにも見える。彼女が貴族嫌いなことと何か関係があるのだろうか。
リザについて考えているとき、カノンが急に俺の方を連打する。それも短時間に何十回と叩く勢いで、だ。
「なんだよ」
「あれ、あれはヤバくない?」
「あれってなんだよ」
カノンの言う、あれ。それは廃城の外にいた。サバンナにいそうな大きいライオンほどもある獣。黒い体毛と鋭い牙。いかにもどう猛な獣だ。それが廃城の近くを十数頭の群れでうろついている。
「おそらくこの近隣に出るモンスターでしょう。あれは人を襲います」
「人を襲う?」
「はい。ですが死体あさりの可能性もあります」
人間同士の戦いで出た死体を食料とするために来ているということか。それなら問題はないかもしれない。
「あ、背後の方に回っていくよ」
廃城の周辺をうろついているモンスターの群れ。その群れは最悪なことに、賊と戦う兵士達の背後の方へと移動していく。もしモンスターが人間を襲った場合、兵士達にも被害が出てしまう。
「どうしよう!」
「どうしようって、どうしようもないだろ」
「ダメだよ。あのままだったらバックアタックされちゃうよ」
モンスターがドンドン兵士達の背後の方に近づいていく。賊を相手にするだけなら問題ない戦力だろう。モンスターだけでも対応できるかもしれない。しかし賊とモンスターとの三つどもえになれば、どんな被害が出るかわからない。
「行こう!」
そう言って走りだそうとするカノン。その肩を両手で押さえ、無理矢理地面に座らせる。
「お前が行ってもダメだろ。戦えないんだから」
「うー、でもぉ……」
「とにかく、あのモンスターを兵士の背後に近づけない。もしくは兵士達に背後にモンスターが迫っていることを知らせる。このどちらかができればいいんだろ?」
「うん!」
「じゃあ俺がやる。お前はここにいろ」
戦闘能力皆無のカノンを向かわせるわけにはいかない。行ったところでモンスターにやられて終わりだ。
「リザ、あのモンスターって強いのか?」
「単体ではそうでもありませんが、集団での行動では脅威です」
「おぅ、そうか」
集団で大きな獲物を狩る野生動物の映像を思い出した。あんな感じで獲物を狩るとなると、下手にモンスターを刺激するのは得策とは思えない。
「リザ、カノンを頼む」
「あ、はい」
俺はリザにカノンを預け、廃城の方へとかけていく。十数頭もいるライオンほどの大きさのモンスターだ。俺一人でどうにかできるとは思えない。なら、早く兵士達に伝えるのがいいだろう。
モンスターが兵士達の背後に到着する前に俺が到着すればいい。俺はそれを目標に兵士達の元へ、モンスターの接近を伝えるために大急ぎで走って行った。
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