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 箸を投げ出し、やにわに斎子に組みついた。

 確かめねばならないことがある。絶望的な想像を、確かめてみなければならない。

 レイプじみた行為を受けながら、むしろそれをリードするように、斎子は躰を泳がせた。

 包装紙を開かれた大好物の菓子。魅惑的なはずのものを前に、正人は不自然な努力をしていた。欲望に火をつけようと必死になった。苛立ちで荒々しくなる。それでも火はつかない。冷えきったまま。

 空回りの喜劇を、笑わぬ顔で斎子が見上げている。

 夜ごと睦んだやわらかな躰が、解剖図のようにしか見えない。皮膚の下で肉がうねり、腱がきしみ、体液が浸潤する。その音が聞こえてくる。どうしても総体として認識できない。

 正人の口から呻きが洩れた。絶望的な想像のとおりだ。躰は異性に対して機能しない。〈地獄〉に我が子を産み落とす生殖を、意識の根底が拒絶している。

 震えながら少女から離れた。背中一面に冷たい汗が浮いている。唇を歪め、痙攣するように嗤った。

「青木と同じになっちまった。とうとうおれも、悟りをひらいたというわけだ」うわ言のように喋る。「やっとわかったよ。宗教に禁欲はつきものだけど、我慢しているようじゃ、まだまだヒヨッコだ。本当に悟りを得たら、欲望そのものがなくなっちまうんだ」

 斎子は拡げられた下肢を閉じようともせず、仰臥したまま正人の顔を見つめている。瞳にあるのは憐憫でも嘲笑でもない。モニターするレンズのような硬質な色合いだ。

 絶望は逃げ道を探し、たやすく怒りに転化した。何かに向かわねば収拾がつかない。怒りは、狂暴さを巻き込んで青木に向かった。

「あいつは、どこにいる……」

「書院よ」

 書院と聞いて、ビクッとした。追い立てられるような気になった。たった今もAMIの起動プロセスが試行されている。一瞬後に世界が消滅してしまうかもしれない。

 正人は部屋をとび出した。

 気味悪いほど真っ赤な夕陽に照らされて、廊下は血の海のようだ。


 書院の隠し階段を降りると、青木はこちらに背を向けて阿弥陀像と対座していた。まるで瀕死の病人のように、肩で息をしている。痩せた躰いっぱいに、おのれの〈仕事〉の重圧を受け止めている。

 正人は文机の脇の刀を取り上げ、鞘を払った。たよりない灯りにさえ、刀身は凄い輝きを放った。刀の妖気がのり移ったかのように、正人の目も異様な光を帯びた。

 青木がふり向いた。抜き身を提げた正人を見ても、僅かも表情を変えない。そのかわり、虚弱な、深いため息をついた。

「今日はいくつ試した?」正人は詰問するように訊いた。

「今度で八回目。今日はこれを最後にしようと思います。もっとも、次が〈当たり〉かもしれないが……いつも、直前にそう思ってしまう」

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